マーク・リッパート駐韓米国大使襲撃事件を「従北勢力によるテロ」と規定してきたセヌリ党が9日、対テロ関連法案の速やかな処理とサード(THAAD/高高度防衛ミサイル)の朝鮮半島配置を主張している。今回の事件に乗じて、これまでの議論になってきた公安・安保関連の宿願事業を一挙に推し進めているのである。
金武星(キム・ムソン)セヌリ党代表はこの日、最高委員会議でリッパート大使襲撃事件を言及して「テロは未然に防止することが最善策であり、大韓民国はテロが基本的に不可能な国という認識を植えつけることが重要だ」とし「現在国会に係留中のテロ関連法案が必要な時点」だと述べた。先月16日に72人の議員たちと一緒にテロ防止法案を提出したイ・ビョンソク セヌリ党議員も同日、国会で記者会見を開き、「テロ防止法案の通過に全力を傾け、これ以上第2のマーク・リッパート大使のようなテロが発生しないようにしなければならない」と主張した。
対テロ関連法案は、2000年代初頭から数回発議されたが、国家情報院の肥大化と公権力の誤・乱用、民間人査察の懸念などでブレーキがかかってきた。イ議員が発議した法案の主要内容も国家情報院長の傘下にテロ統合対応センターを設置し、テロ組織のメンバーまたはテロを行う危険性があると疑うべき「相当な理由がある者」について、金融、通信などの関連情報を収集し調査できるようになっている。 「相当な理由がある者」という表現は、規律対象が曖昧であり、国家情報院が恣意的に法を執行する余地が大きいという指摘が出ている。ハン・サンヒ建国大学法学専門大学院教授は「国家情報院コメント事件などで国民の信頼を失った国家情報院の改革と制御策が用意されていない状況で、このようなテロ防止法は政治的反対者を抑圧するための道具として悪用される可能性が高い」 とし、 「米大使襲撃事件に対する捜査結果が出る前に、大統領と与党がテロと断定して『背後捜査』を指示するのを見ても、この法律がなぜ通過されてはならないのかがわかる」と指摘した。
セヌリ党は、米国が主導している高高度防衛ミサイル「サード」の導入にも今月中に党レベルの方針を決めると明らかにした。サードは現在、中国とロシアが強く反対している。北東アジア外交安保の利害関係と直結する敏感な問題について、政権与党が立場を決めてしまうと、政府が外交的に身動きできる幅が制限されてしまう。
セヌリ党は野党を狙った“従北世論づくり”も続けた。ハ・テギョン議員はこの日、初再選議員たちの集まりである「朝の音」に参加し、文在寅(ムン・ジェイン)新政治民主連合代表が過去韓米戦時作戦権転換の延期を「軍事主権の放棄」とした部分を取り上げ、「文代表は、話し方は金武星のようだが、考え方はキム・ギジョンようだ」と理念攻勢に出た。
与党が駐韓米大使襲撃事件を契機に従北世論づくりを推し進めるとともに、一斉に公安・安全保障関連法案と政策の強化に乗り出したのは、朴槿恵(パク・クネ)大統領などの与党への支持率が今回の襲撃事件の余波で上昇している状況で、来月補欠選挙に照準を合わせて保守層の結集をさらに強固にするための布石ではないかとの解釈も出ている。
イ・ジュンハン仁川大学教授(政治外交学科)は、「これまで首相と大統領府の人事問題、年末調整波動、青瓦台秘線実力者問題などで守勢に立たされていた大統領府と与党が、今回の襲撃事件を与党勢力の結集のための好材料と判断しているようだ」とし、 「対テロ法、サード配置問題などで戦線を広げ、短ければ4月補欠選挙まで、長ければ来年の総選挙まで政局を従北一色にする可能性がある」と述べた。
韓国語原文入力: : 2015.03.09 20:49