hankyoreh

李明博前大統領の回顧録『大統領の時間』 //ハンギョレ新聞社

　李明博（イ・ミョンバク）前大統領は回顧録で「金正日（キム・ジョンイル）は私にずっと会いたがっていた」として、北朝鮮が5回も直・間接的に南北首脳会談を提案してきたと紹介した。 だが“条件を付けない首脳会談”という原則を守ったので、実際には会談はできなかったとし「私にとっては原則を守ることの方がより重要なことだった」と自画自賛した。

　北朝鮮の最初の首脳会談提案は2009年8月にあったと李前大統領は紹介した。 金大中（キム・デジュン）元大統領が死去した後、弔問団を連れてきたキム・ギナム労働党書記は、李前大統領と面談して金正日国防委員長が首脳会談を希望していると伝えた。 北朝鮮は続いてキム・ヤンゴン統一戦線部長を通じて首脳会談を希望するというメッセージを送ってきた。 しかし、コメや肥料の経済支援を前提条件として提示していたので拒否した、と李前大統領は明らかにした。

　北側は温家宝当時中国総理を通じて再び首脳会談を提案してきた。 また同年10月にはキム・ヤンゴン部長がシンガポールでイム・テヒ当時労働部長官と会った。 だが、首脳会談のムード造成のためにコメや肥料の大規模経済支援の約束を要求したので中断させた。 同年11月、開城(ケソン)で統一部と北側統一戦線部間の実務接触が開かれたが、北側が首脳会談の条件としてトウモロコシ10万トン、コメ40万トン、肥料30万トン、1億ドル相当の建設用アスファルトピッチ、北側の国家開発銀行設立資本金100億ドルなどを要求したので交渉が決裂したと李前大統領は伝えた。

　北側は天安(チョナン)艦沈没事件後にも国家安全保衛部と国家情報院のラインを通じて首脳会談を提案してきたと李大統領は明らかにした。 5・24対北朝鮮制裁措置の直後である2010年7月、国家情報院高官(キム・スク次長と推定)が北側の要求で北朝鮮を訪問した。 当時南側が首脳会談を前提に天安艦沈没に対する謝罪と再発防止を要求し、北側はコメ50万トンの支援を要求したと李前大統領は伝えた。 続く2010年11月、北朝鮮の延坪島(ヨンピョンド)砲撃の直後である同年12月には、北側保衛部高官(リュ・ギョン副部長)が秘密裏にソウルを訪問して南北首脳会談を議論した。李前大統領は「私は彼らに別に会わなかった」として「2011年初めに(リュ副部長が)公開処刑されたという消息を聞いた」と公開した。 彼の処刑と関連しては「ソウルに行って大統領との面談に失敗したのに、直ちに平壌(ピョンヤン)に戻らずさらに一日留まっていたし、これに伴い金正日委員長が強く怒った」という報告があったと伝えた。以後2011年初めにはニューヨークで(国連駐在北朝鮮大使)、同年5月には北京で南北が追加接触したが、天安艦爆沈謝罪問題で異見を狭められなかった。 2011年の北京接触では北側が秘密接触の事実を一方的に暴露した経緯がある。

　回顧録の内容については、北側が先に首脳会談を何度も提案する異例的好機を迎えながらも、これを南北関係の改善と朝鮮半島情勢の安定につなげることに失敗しておきながら、これを成果だとして“牽強付会(強引な屁理屈)”だという冷静な評価が出ている。 当時北側が首脳会談に積極的だったことについては、以前の政府の南北協力関係の進展で北側経済の対南依存度が高まっていた点、脳卒中を患った当時の金正日国防委員長が後継体制構築のために経済の安定と緊張緩和を望んでいた点などが背景に挙げられる。 ムン・ジョンイン延世大学教授は「5回も提案があったら、一度位は成功させて南北関係を発展させていなければならないのではないか」とし「対話を拒否して北朝鮮の反発と延坪島砲撃のような危機に直面したことは、原則ではなく我執に他ならない」と話した。 リュ・ギョン副部長のような対南協議に入った人々を窮地に追い詰め、北朝鮮内の対南協商派を萎縮させたことも失敗と言える。 以後の北側対南ラインの強硬な態度は、この時のトラウマから出た“学習効果”でありうるという観測が出ている。

　李明博大統領が失敗した原則を守った背景には、結局“北朝鮮崩壊論”が根にあったという指摘がある。 ヤン・ムジン北朝鮮大学院大教授は「李大統領の深層には、金正日委員長が死んでまもなく滅びる北朝鮮政権を、支援を通じて延命させてはならないというドグマがある」とし「回顧録は一言で言えば、戦略の失敗を自認したことに過ぎない」と話した。