「韓国国民が永い間、血と汗を流してようやく成し遂げた民主主義と法治主義の成果を傷つけないためだ」。キム・イス裁判官がたった1人だけの少数意見を出し明らかにした理由だ。 19日、憲法裁判所大審判廷で彼は絶海の孤島のような存在だった。 裁判官1人だけが少数意見を出したケースは多くなく、今回のように多数意見と少数意見が完ぺきな対称点に立った事例も珍しい。 キム裁判官の少数意見には、それだけ切なる理由と危機意識が込められていた。 憲法裁判所の決定文約350ページのうち、彼の少数意見内容が180ページに達する。
キム裁判官は「被請求人(統合進歩党)を擁護するためにではない」として、反対意見を出した理由が統合進歩党、またはその構成員の主張に同調するためではないと明らかにした。 彼は「大韓民国の憲政秩序に対する毅然とした信頼を宣明」するために解散に反対するとし、解散決定はすなわち民主主義と憲法の危機につながりかねないと憂慮した。
キム裁判官は「イ・ソクキ議員らが戦争勃発時に南と北の自主勢力が力を合わせ米国と戦ったり、国家基幹施設を攻撃するという発想や主張は民主的基本秩序に反する」と判断した。だが「彼らは非核平和体制と自主的平和統一を追求する統合進歩党の路線にも反しており、イ議員らが党全体を掌握したと見ることもできないので、これを党全体の責任とは見られない」と話した。 統合進歩党自体を民主的基本秩序に背く組織とは見られないという判断だ。 したがって、多数意見に対しては「部分に対して言えることを全体に不当に適用するものとして、性急な一般化の誤り」と指摘した。 正式党員数だけで3万人に達する政党なのに、きわめて一部の指向を全体の政見と見なしてはならないということだ。
キム裁判官は、統合進歩党の「進歩的民主主義」路線が北朝鮮の対南革命戦略と同じ、あるいは似ているという多数意見に対しても「北朝鮮の主張と似ているということだけで、北朝鮮への追従性が直ちに証明されると見てはならない」と指摘した。 また「進歩的民主主義」は「実質的民主主義を実現するということ」とも見ることができると述べた。 政府と権力に対する批判を、北朝鮮との連係性を口実に弾圧しようとする試みを阻むためにも、厳格な根拠を持って判断しなければならないというのがキム裁判官の立場だ。
特に、小数政党を執権者の超法規的弾圧から保護するという政党解散審判制度の趣旨を考慮すれば、解散決定は一層不当だと強調した。 彼は「強制的政党解散は民主主義体制の最も重要な要素である政党の自由、政治的結社の自由に対する重大な制約を招く」と話した。 一部の党員たちの中に民主的基本秩序を転覆しようとする勢力があれば、それは司法府と国会が取り除くことができると明らかにした。 キム裁判官は「政党解散の可否は原則的に政治的公論の場(選挙など)に任せなければならず、政党解散制度はたとえその必要性が認められるとしても最大限に最後的・補充的用途で活用されなければならない」と明らかにした。
キム裁判官は1982年に大田(テジョン)地方裁判所判事として任官し、最高裁裁判研究官・ソウル民事地方裁判所部長判事・ソウル高裁部長判事・清州(チョンジュ)地方裁判所長・特許裁判所長を務めた。 2012年に民主統合党の推薦で憲法裁判所裁判官になった。 今年8月「教員労組の政治活動を禁止する」という内容の教員労組法条項に対する違憲法律審判推薦事件で該当条項を違憲と判断する少数意見を出すなど、憲法的価値の保護に忠実な少数意見と進歩的見解を多く示してきた。