「大統領、助けてください」
しかし、大統領はついに振り向こうとはしなかった。
29日午前9時42分、国会に到着した朴槿恵(パク・クネ)大統領は、パク・ヒョンジュン国会事務総長の案内で微笑を浮かべながら玄関に向かった。 玄関脇には約30人のセウォル号の遺族たちが「家族が参加する特別法制定」「安全な大韓民国」「セウォル号惨事関連者を聖域なく調査せよ」という内容が書かれたプラカードを持って立っていた。 大統領を待っていた遺族の叫びは大統領に無視された。
28日、施政方針演説のため国会を訪れた朴槿恵大統領とセウォル号遺族の出会いは成し遂げられなかった。 セウォル号家族対策委は前日に行った記者会見を通じて「大統領が国会に来られるので面会の機会ができたようだ。大統領に会って真相究明と徹底した捜索についてお話し申し上げたい。私たちを無視しないで下さい」と明らかにして国会座込み場で待っていたが、大統領は遺族に関心を示さなかった。
大統領の国会訪問日の早朝からセウォル号遺族たちは“不都合な存在”として扱われた。 セウォル号遺族たちは朝からポリスラインと国会機動警察の“カーテン”に閉じ込められていた。 国会本庁玄関の左側に位置したセウォル号遺族たちの座込み場は、ポリスラインが行動半径を制限し、機動警察が取り囲んで遺族の視野を遮断した。 機動警察の後には私服の大統領府警護要員が”2次カーテン”を張っていた。
大統領が通り過ぎた後、セウォル号遺族たちの目には涙が溢れていた。 「多くの子供たちを救うこともできず、この国は何をしたのですか」、「私たちは人間として扱われていません」、「遺族を助けてください」 。10数分間、本会議場に入るために到着した与野党国会議員を相手に絶叫した母親たちは、結局座り込んで声を上げて泣いた。
一部の野党議員は足を止めて遺族を見守った。文在寅(ムン・ジェイン)新政治連合議員は記者たちの質問に「手を一度握るなり、若干の関心でも表明すれば、あの方にも大きな力になるし、国民にも歓迎されると思うのに…。残念です」と話した。
朴槿恵大統領はこの日の施政方針演説で「セウォル号」という単語を一度も発しなかった。 代わりに「国家の基本責務である国民の安全を確実に守れるようにする。 来年度の安全予算を最も高い水準である17.9%拡大して、14兆6千億ウォンで編成した」と明らかにした。 また「最近、私たちは過去から継続してきた各種積弊の痕跡が歳月が流れても子孫に傷として残るという教訓を得た」と遠まわしに話した。 歳月が流れたので“セウォル号”という言葉を言うことがそんなに嫌だったのだろうか?