先月25日午後1時、ソウル大方洞(テバンドン)のソウル女性プラザ建物4階の記者会見場に、10人余りの女性が用心深く入ってきた。 固い表情だった。 短い縮れ毛パーマで若く見える人もいたが、概して高齢と見える女性たちだった。 平凡な町のおばあさんのような姿だ。 彼女たちは人には言えない事情を抱えていた。
記者会見場に来ていた取材陣は、彼女たちが米軍基地村女性たちであることを察したが、写真は撮らなかった。 記者会見で司会を担当したシン・ヨンスク セウムト代表が‘記者会見場に出て来るだけでも大変な勇気がいる方々なので、証言者の顔写真撮影を控えてほしい’と頼んだ。
米軍基地村女性たちによる国家を相手にした被害補償訴訟の代表弁護を引き受けたキム・ジン弁護士(民主社会のための弁護士会女性委員会)が、マイクの置かれた机に座り挨拶を始めた。
「今日は6.25(朝鮮戦争開戦日)が64回目になる日です。 国家は今日、戦争で命を失った戦死者に対する話だけをしています。 しかし、戦争はこの地の女性たちにも癒やしがたい大きな傷を与えました。 大韓民国政府は韓国戦争以後、基地村を作って事実上管理して、女性の人権を侵害しました。 淪落行為防止法と国連人身売買禁止協約(韓国は1962年に発効)は紙クズ同然でした。 性暴行と殴打、監禁、強制堕胎、性病強制検診および治療、性売買業者主人と警察公務員の癒着不正など、数え上げることも難しい国家犯罪がありました。 原告122人は、国家が一人当り1千万ウォンずつを補償しろと、今日ソウル中央地裁に告訴状を提出します。」
続いて一人の女性が傍聴席から立ち上がった。 彼女は記者たちの前につかつかと歩み出た。 訴訟に参加した基地村女性が証言を初公開した瞬間だった。
性暴行・強制堕胎など国家犯罪
1人当り 1千万ウォンずつの補償を要求
大半が60代から80代までの独居老人である彼女たち
じっとしていてはダメだという共感が
キム・ジョンジャ氏の証言録発刊で拡散
今回の訴訟に参加して証言に立った
チョ・ミョンジャ、チェ・チャヨン、パク・スンイ氏
基地村女性の大部分はまだ言論との接触を避けている中で
三人をかろうじて会うことができた
国家暴力の物証が出てきて訴訟準備に弾み
「幼い時、私の夢は国会議員でした。 しかし人身売買されて基地村に売られた後、夢は水の泡になりました。 政府は私たちに‘米軍にサービスがよくしろ’という教育ばかりしました。 慰安婦女性たちは胸をたたきながら生きてきました。 私たちはドルを稼ぐ機械でした。 私たちは淪落行為防止法を見たことも聞いたこともありませんでした。 年齢が高い慰安婦たちは今、貧困と病魔に苦しみながら隠遁生活をしています。 今こそ国家が答えなければなりません。」
拍手が溢れたが、すぐに重い沈黙が流れた。 女性は席に戻ってハンカチで涙を拭いた。 あちこちで鼻水をすする音とむせび泣きが絡まって漏れた。 女性たちは「国家は韓国内の基地村米軍慰安婦制度の歴史的事実と被害を明確に明らかにし謝罪しなさい」という内容の声明書を読み上げて記者会見を終えた。
基地村女性たちの訴訟は2011年から準備されてきた。 1970~80年代の最盛期に活動した基地村女性の大部分が若くて60代、多くは80代以上になり、独居老人として寂しく生きて、一人二人と亡くなっており、今やこのままじっとしていてはダメだという共感がかつての基地村女性たちの間に拡がった。
今回<ハンギョレ>とインタビューした基地村女性キム・ジョンジャ氏が証言録を作ったことから訴訟準備が本格化した。 昨年出版されたキム氏の証言録<米軍慰安婦基地村の隠された真実>は、彼女が30余年間にわたり仕事をしてきた基地村のあちこちを直接訪問して、そこで加えられた各種暴力の経験を写真と共に告発した本だ。 2005年基地村女性キム・ヨンジャ氏が出した随筆集に続く生々しい証言だった。
キム氏は基地村女性人権団体活動家らと共に、これまで隠されてきた国家記録を発掘しもした。 韓国政府がこれまで米軍慰安婦施設をどのように計画し、直間接的に管理してきたかと関連した記録などだ。 単純な証言を越えて、国家が基地村女性に対して犯した暴力の責任を立証する直間接的な物証が出てきて、訴訟準備には弾みが付いた。 民主社会のための弁護士会の弁護士が訴訟を支援し、基地村女性人権連帯、韓国女性団体連合、セウムトなどが共同で訴訟を準備した。
キム・ジョンジャ氏のみならず基地村女性人権団体と関連を結んだ他の女性たちも証言に立った。 大部分はまだ言論との接触を避けているが<ハンギョレ>は今回訴訟に参加した2人の女性にさらに会うことができた。 京畿道(キョンギド)平沢市(ピョンテクシ)彭城邑(ペンソンウプ)安亭里(アンジョンニ)に暮らすチョ・ミョンジャ(75)氏がその内の1人だ。
去る2日、チョ・ミョンジャ氏は屋根が今にも崩れそうなみすぼらしい家に暮らしていた。 道端に面しているドアがそのまま台所と連結されて、台所の隣の部屋はわずか13㎡(4坪)余りの狭い家だった。 家賃が8万ウォンのこの家は、経済能力のないチョ氏が国家から支給されている基礎生活受給費38万ウォンと老齢年金で賄える唯一のくつろぎの場所だ。
「この家もまもなく取り壊さなければならないので主人が出て行ってくれと言うけれど、居座っている。 平沢も地価が大きく騰がって、こんな老人が引っ越しできる家などない。」歯が二本しか残っていないチョ氏がかろうじて話した。 部屋には窓がなく蒸し鍋のように暑かった。 5年前から脊椎狭窄症になり、後遺症で右足が麻痺して杖なしでは歩けない。 暑くても、この家でだまって横になっていることがチョ氏にできる最善の方法だ。
「42才までからだを売っていた。 東豆川(トンドゥチョン)トッコリ(東豆川市 光岩洞(クァンアムドン)一帯)やポサン里など行かなかったところはない。 中3の時、宝城(ポソン)女子中学校を中退した。 貧しくて父親が度々殴るので家を出た。 抱え主に売られて来た。 (抱え主は)寝食は提供してくれたが借金につけていた。」チョさんは自ら基地村に留まっていたが、それでも国家の責任を問わなければならないと考えている。
「私が選んでしたにしても、とにかく米軍のために働いてドルを稼いだではないか。 私たちがいなかったら、どのようにこの国がその時ドルを稼げたか。 私たちが米軍に性病を伝染させてはならないと強制的に性病検診をして(国家が)あらゆる悪いことをすべてやった。 私たちはもう歳老いて、どこへも行くところもない。 ハルモニたちは肛門が悪くなり、大便をズルズルしている。 国家がこんな風に私たちを捨ててもかまわないのか?」
「国はなぜ米軍に対して全く言いなりだったのか?」
基地村女性たちは大半が独居老人として老いていく。 子供もなく良い配偶者に出会って結婚したケースも殆どない。 老いた体をゆっくり横たえられる小さな家でも国家が用意して欲しい。
安亭里に暮らす基地村女性チェ・チャヨン(仮名・63)氏もチョ氏と同じ考えだ。 彼女も独居老人として老いている。 ただし、まだ活動は可能で、夜にはクラブのウェートレスの仕事をして小金を稼いでいる。
「18歳で家を出て、ソウル駅付近の職業紹介所を訪ねて行った。 米軍クラブで仕事をしてみろと言われた。 米軍人と寝なければならないという話はしたが、その年齢では寝るというのが何を意味するのか分かると思うかい? 睡眠は誰でもするのだから‘働きます’と言ったよ。 職業紹介所のおじさんが‘基地村に来たことを後悔しない’という覚書も書かせた。 安亭里に来てみたら「寝る」というのは私が思っていたことと違ったよ。 辞めると言ったら抱え主の家でものすごく殴られた。 警察に申告しようとは思えなかった。 みんなグルだと思った。 その時、国家が出てきて私たちを助けてくれたなら、私がこんな風になりはしなかったのでは。 国家は専ら米軍に性病を伝染させないように、そればかりに気を遣っていたよ。 これで良いのだろうか?」
パク・スンイ(仮名・60)氏は長く悩んだ末に、去る1日記者と会った。 パク氏も人身売買の被害者だった。 「(1970年)16才で家を出ました。 ソウル駅近隣の職業紹介所に行きました。 働き口を世話してくれると言うのでついて行ったが、坡州(パジュ)ヨンジュッコルのみすぼらしい家に連れて行かれました。 私が使う部屋だと言って、入れと言ったが、古いベッドとテーブルが一つありました。 そうすると翌日に米軍の兵隊が私のベッドに入ってきて座りました。 私は部屋のすみに座って泣くばかりでした。 恐かったです。 家に帰りたいと言うと、おばさん(抱え主)がお金を払って行けと言いました。 紹介料とベッド代です。」
幼いパク氏を保護してくれる国家はなかった。 人身売買で売られてきた未成年者を救出しに来る人も、救出する方法を教える人もいなかった。 基地村を抜け出そうとするたびに返ってくるのは折檻ばかりだった。
「私は率直に言ってこの国が憎い。 なぜ米軍にそんなに言いなりだったのでしょうか。 嫌になります。 幼い子供たちを米軍の兵隊にからだをあてがわせた大統領(朴正熙)を、私は偶像のように考えて育ちましたから。」パク氏は今からでも国家が謝罪することを願っている。 「日本軍慰安婦関連のニュースがテレビに出てくれば、私もよく見ていました。 ‘あの方々も望んで慰安婦になったわけではなく、私も好きで慰安婦になったわけでないのに、なぜ私は被害女性ではないのだろう?’こんな思いをずっとしていました。」パク氏は40代になって基地村を出た。 「私の16歳の花のように美しい時間をどうしてくれる。」彼女はインタビューの間、何度もティッシュを取り絶え間なくあふれる涙を拭った。
ホ・ジェヒョン記者 catalunia@hani.co.kr