‘在日同胞実業家スパイ団’事件
夫カン・ウギュなど6人再審に出廷
「当時 死刑宣告、11年間 顔も見れず
罪なき人を…こんな国がどこにある
故郷を訪ねてスパイではないと話したい」
今年94歳のカン・ファオク氏は数日前、80年ぶりに故国の土を踏んだ。 14才で故郷の済州島(チェジュド)を発ち日本に渡った彼女だ。 カン氏が久しぶりに故国にきて訪ねたところは裁判所だ。
28日、ソウル高裁302号法廷では1977年3月‘在日同胞実業家スパイ団’事件で死刑宣告を受けた故カン・ウギュ氏など6人に対する再審事件の初公判が開かれた。 黙々とこの日の公判を見守ったカン氏はカン・ウギュ氏の夫人だ。 64年に結婚したので今年は50周年になる。 夫は20歳の時、仕事場で片足を怪我して義足を身に着けた障害者でもあった。 だが「なけなしの金でも他人に与えようとする正直な人」だったと彼女は夫を回顧した。
東京で一緒に暮らした夫は、72年にソウルのテヨン プラスチックに監査として就職した。 同じ済州島(チェジュド)出身者が設立した会社だった。 カン氏は夫と離れて暮らさなければならなかったが、就職の便りに気持ちは浮き立った。 「幼くして日本に来たので、常に祖国に戻りたかった。 夫の会社生活が安定すれば、住居を用意して自分もソウルに引越すつもりだった。」77年1月、夫からの連絡が途切れた。 2ヶ月後、夫はテレビ ニュースに登場した。 スパイ容疑で拘束されたという青天の霹靂のような知らせだった。 ニュースでは夫がテヨン プラスチック監査の身分を利用して、北朝鮮工作員の指令を受けてソウルに偽装潜入し、10人を引き込んでスパイ活動をしたと言った。 カン氏はニュースを見るやいなや失神して、3時間後に目が覚めた。 「ソウルに住宅を用意して家族皆が一緒に暮らせる日を楽しみにしていたのに…。 その時以来、今でも時々めまいがする。」夫は死刑の宣告を受けた。 11年後に88ソウルオリンピックの特別赦免で仮釈放されるまで、カン氏は一度も面会できず裁判の傍聴もできなかった。 日本で昼夜分かたず働いて弁護士費用を工面しなければならなかった。 昼には東京に設けた喫茶店で働いた。 夜には‘カン・ウギュを救援する集い’等、在日同胞スパイねつ造事件被害者後援の集いに出て行った。 3番目の娘と街頭でビラを配り、日本の国会に嘆願書も提出した。 カン氏は「弁護士費用が必要なのに本当にお金がなかった。商売もして、あれこれしたので時間もなかった。 本当に何もしていない人をこのように捕まえて、本人と夫人をこれほど困らせる国がどこあるかと考えて過ごした」と話した。 代わりに周辺の日本の人々が大きい力になった。「日本の人々が後援運動をして、お金も集めて助けてくれて、今まで生きて来られた」と話した。 周辺では家族までがスパイにされかねないと言うので、裁判の傍聴や面会もできなかった。
ようやく家に戻ってきた夫は、過ぎた事をあまり話さなかった。 それまで後援運動をしてくれた町内の人々が集まった席でのみ、その時の話を語った。 夫は「私の事件は完全にでっち上げだ。 一週間にわたり過酷な拷問を受けた。 殴って足で踏んで眠らせないようにした。私は両方の手首と足首をかみそりで切り、かみそりを飲み込んで死ぬ覚悟をした。 気がついた時、担当官が止めて拷問は中止された」と話した。 苦痛な記憶を抱いて生きた夫は2007年に結局亡くなった。
カン氏は夫の事件に関して‘真実・和解のための過去事整理委員会’に真実糾明を申し込みはしなかった。 そんなものがあることも知らなかった。 夫の共犯にされた故キム・チュベク氏の娘の要請で弁護士が日本にカン氏を訪ねてきた。 一緒に再審を請求しようと言った。 カン氏は「昔、裁判にひどくうんざりしたので二度と裁判はやりたくない」と答えた。 当時の記憶を思い出すだけでも苦役だった。 粘り強い説得に気持ちが変わった。 4年前だ。 その時から彼女はウォーキングを始めた。 飛行機に乗って裁判所に行くには脚力を鍛えなければならないと決心したからだ。 「私の夫はすでに他界したし、私は日本で暮らせば良いが、韓国に暮らしている(同じような)被害者の家族たちは自分よりもっと辛いんじゃないか。 私がもし何かをして、あの人々の助けになれるなら夫の代わりにする」と決心した。
カン氏は済州島(チェジュド)には必ず一度行ってみたいと話した。 町内の人々と知人に「夫はそんな人ではない。 この間苦労させて申し訳なかったと夫の代わりに言いたい」と話した。
彼女は毎朝町内の公園を歩く。「本当にこの仕事を終わらせるためには私がいなくてはならないという思いからだ。 自分の国で質素に暮らしてみようと思った罪なき夫のように、正直に生きていつ人々が幸せに暮らせなければならないという、そのような思いを常に抱いて歩いている」と話した。
キム・ソンシク記者 kss@hani.co.kr