慶南(キョンナム)密陽(ミリャン)など全国で葛藤を生んでいる超高圧送電塔建設問題の解決策はないのだろうか? 密陽では9年間にわたり葛藤が続いているが、解決の糸口さえ見られない。 反面、米国東部の超高圧送電塔建設事業である‘パス’は、住民の反対と公共機関の仲裁により5年余ぶりに白紙化された。 去る10月の企画シリーズ‘送電塔葛藤、環境不平等問題だ’を通じて環境正義の観点で送電塔問題を眺めなければならないと提案した<ハンギョレ>は、代案を探して米国とドイツ現地で深層取材を進めた。 物理力を前面に出し工事を押しつけるばかりである密陽の現実とは違った解決法がそちらにはあった。
去る19日(現地時間)午前に訪ねた米国ウェストバージニア州のセポズタウンは晩秋紅葉で美しく染まっていた。 ジェファーソン カウンティにある500世帯規模のこの小さな村は、フォーク歌手ジョン・デンバーの歌詞に登場する‘ウェストバージニア’の美しい自然そのものだった。 数年間波乱に包まれた所だとは思えないほど村は平穏だった。
この平穏な村がざわつき始めたのは2008年の秋からだった。 ‘パス’(PATH・Potomac Appalachian Transmission Highline)事業のせいだった。 総事業費21億ドル(2兆2000億ウォン余り)を投じてウェストバージニア・バージニア・メリーランド州を横切り390kmに及ぶ765kV超高圧送電線を設置する事業だった。 この事業は西部のオハイオバレーで生産した電力をワシントンDCとニュージャージー州など東部沿岸都市に送るという名分で始められた。 東部沿岸都市の電力需要が増え、停電(ブラックアウト)が憂慮されるという理由だった。 5000MW級の大規模石炭火力発電所を建設する方案も含まれたこの事業は、民間電力運営機関である‘PJM’とその会員会社である電力会社が主導した。
計画された送電線はセポズタウンを南北に分け、電力会社は該当地域の住宅を買い入れようとした。 19日セポズタウンで会ったケリン ニューマン(50)は当時の村の雰囲気を生き生きと語った。 「一人で暮らす隣の家のおばあさんが‘ここで死ぬまで生きたかったのに、家を売らなければならなくなるかもしれなくて悲しい’と言って涙を流すのを見ました。 その涙を見て反対運動を始めることにしたんですよ。」 平凡な主婦であったニューマンはこの時から去る6年余りの間、送電線建設反対運動を繰り広げて草の根活動家として名乗りを上げた。
村にはすでに高さ30mほどの木柱でできた138kV送電塔と高さ36mの鉄製500kV送電塔が立っていた。 電力会社は既存の送電線と60mの間隔を置いて765kV送電塔を新たに建てようとした。 住民たちは電力会社が主催する公聴会会場やカウンティ政府庁舎前で連日反対デモを行った。 送電線建設で被害をこうむる住宅・遺跡・自然景観などを示した地図を作りばら撒いて、送電線情報を共有するための討論会も開いた。
電力会社は翌年の2009年、セポズタウンを除く新しい路線を作ってきた。 今度はカウンティの南側地域を横切る計画であった。 路線に新たに含まれた地域の住民たちも動揺した。 カウンティ内のクルロボデイル地域の住民である70代のネンス プリスコは「この村は1987年にできた時から137世帯が共に地域の暮らしをつくりあげてきたが、パス計画が実施されれば11世帯が立ち退かなければならなかった。 地域共同体の維持を脅かす行為なので反対した」と話した。 また別のカウンティの住民、ペーシェンス ウェイト(56)も「超高圧送電線は村を貫通する高速道路と同じだ。 地域には何の利益も与えないくせに住民の犠牲だけを強要することは不当だ」と話した。
セポズタウンは外れたが、ニューマンは反対活動を止めることなくカウンティ内の他の地域の住民たちと共に草の根団体‘ストップ パス’を結成した。 被害地域が変わっただけで根本的な問題は解決していないと思ったためだ。 「PJMなどは住民たちに新しい送電線が必要な理由をきちんと説明しませんでした。 住民たちは送電線が通過する路線に対する意見だけを出せる存在として取り扱いました。 しかし、私たちは路線に対する反対でなく、新しく送電線を作る計画自体に問題提起をし始めました。」 パス事業にともなう送電線が通過する他の州でも反対する住民団体が生まれたし、全国規模の環境団体であるシエラクラブ・地球の正義などもパス反対運動に結合した。
送電線の設置必要性および人体への有害性を巡って住民と電力会社の間に攻防が広がった。 論争は2009年から各州にある公共事業規制委員会(または、企業規制委員会)で本格的に進行された。 米国では新規送電線建設の許認可権は連邦政府ではなく州政府にある。 事業者は公共事業規制委員会の審査を受けなければならない。 委員会は要請があれば、聴聞会を開いて意見を取りまとめた後に決定を下す。 ‘ストップ パス’で住民募金で用意した7万ドルの内、大部分は聴聞会のための弁護士選任費用に使われた。 聴聞会が開かれるたびに住民100~200人余りが‘ストップ パス’が作った‘パス反対’ステッカーを胸に付けて攻防を見守った。
聴聞会では財産権侵害を糾弾する住民陳述から各分野の専門家の見解が全て扱われた。 電磁場の専門家であるコロンビア大学のマーティン ブランク博士は、バージニア州企業規制委員会が開いた聴聞会で電磁場と白血病・癌の相関関係を説明しながら 「送電線を現在の経路どおりに作れば、地域住民たちの健康が脅かされる」と述べた。 環境団体であるシエラクラブは 「パス計画が実現されれば二酸化炭素の排出量は年間375万tから779万tに、亜硫酸ガスは年間6万7000tから8万8000tに、窒素酸化物は年間1万2000tから2万tに増加するだろう」という専門家の見解を入れた陳述書を提出した。
攻防が加熱するやバージニア州企業規制委員会は自主的に専門家たちを雇用して作った報告書を採択することもした。 この報告書で、経歴25年の電力産業分野独立コンサルタントであり経済学者でもあるジェームズ・ウィルソンはパスが信頼度・需要の側面で妥当性が欠如した事業だと分析した。 ウィルソンは「PJMがパス事業の根拠とした東部沿岸地域の電力需要展望値は誇張されたもので、代案分析も不充分だ」と明らかにした。 実際、PJM側は‘2012年までに完工しなければブラックアウトが憂慮される’と主張したが、攻防が進行される中で完工時点を2015年まで遅らせた。
2011年、ついに現実的な代案が登場した。 地域の他の電力会社であるドミニオン社が、既存の500kV送電線の容量を66%拡大し再建築することにしたのだ。 この計画は土地28.33平方kmを必要としたパスとは異なり、追加の土地は必要なかったし、費用も3億~3億5000万ドルで済み、パスの7分の1に過ぎなかった。 古い送電線を直して停電の危機も避けることができた。 各州の規制委員会はドミニオン社の計画を承認し、パス担当会社側にこの計画を反映した修正案を用意しるよう要求した。 結局PJMは会員会社である電力会社にパス推進を猶予するよう要請し、翌年の2012年にPJM理事会で事業を推進しないことを最終決定した。 ‘緊急に推進する必要がなくなった’という理由を挙げた。
パスは撤回されたが、戦いは終わらなかった。 電力会社側は着工前に住宅買い取りなどで数千万ドルをすでに支出していたが、この費用を電気料金に含ませて回収しているためだ。 米国では民間会社が送電線投資に投じた費用の一部を電気料金で回収できるよう2005年にエネルギー法を改定した。 ニューマンをはじめとする反対住民たちは、米連邦エネルギー規制委員会に回収費用として納めた電気料金を払い戻してほしいと問題を提起している。
ニューマンは送電線葛藤を生じさせる米国の他地域住民たちから次々と応援要請を受けている。 「初めは私自身と隣人のために立ち上がった、そのうちに私たちの地域のために戦ったし、今は我が国のために行動しています。 エネルギー政策と関連した不平等がこれ以上起きないように、より大きな制度変化を引き出すことが目標です。」 セポズタウン(米国)/キム・ヒョシル記者 trans@hani.co.kr