"準備のできている大統領" が一人で長いこと考えたあげくに発表した新政府最初の国務総理候補者が、人事聴聞会場まで行かない段階で自主辞退した。 朴槿恵(パク・クネ)大統領当選者は「罪人のようにこらしめる人事聴聞会のために国の人材を使うことが容易でない。 人事聴聞会がホコリはたき式で行なわれるならば、いったい誰が出てくるか」と癇癪を起こした。 「仕事さえちゃんとできる人ならばかまわない」という実用主義を掲げ、最初の内閣構成時に長官候補者3人を失った李明博大統領でさえ、こんな露骨な癇癪を見せたことはない。
「人事聴聞会がホコリはたき式だ」という朴槿恵(パク・クネ)当選者の一言に、キム・ヨンジュン前国務総理候補者の検証取材に取り組んでいた韓国の記者たちは、突如として、つまらない私生活をせんさくして回る "パパラッチ" に転落してしまった。 しかし国民のしもべである "公僕" を選ぶのに道徳性ほど重要な資質はないというのが人事検証取材記者の変わりない所信だ。
■ 公職候補者検証取材の困難さ
<ハンギョレ>は高位公職者人選があるたびに検証報道に力を注いできだ。 昨年最高裁判事と憲法裁判所裁判官が大挙交替になった時も、今年イ・ドンフプ憲法裁判所所長候補者とキム・ヨンジュン国務総理候補者を検証する時も、やはりそうした。 取材チームの検証対象のうちキム・ビョンファ最高裁判事候補者とキム・ヨンジュン総理候補者が落馬し、イ・ドンフプ憲法裁判所所長候補は辞退せずに居座っている。
国家機関や捜査機関でない記者たちが検証取材のためにできることは、公開された基礎資料を "盲人が象を撫でるように" 収集・分析して、候補者周辺の人物に会って評判を聞く程度だ。
キム・ヨンジュン前総理候補者の場合、国会に人事聴聞資料を提出する以前に落馬した。 記者たちが事前に手に入れることができた基礎資料といえば、インターネットなどに公開された学歴と主な経歴、彼が裁判官時代に下した主な判決に関する過去の新聞記事とインタビュー記事、1993年に公職者財産公開制度が初めて導入されてから2000年に憲法裁判所所長職を退任するまで政府官報と憲法裁判所の公報に載った彼の財産申告内訳程度であった。
基礎資料は足りないし追加分は出さないから
インターネットクリックして登記簿をあさり
"盲人象を撫でるよう" に昼夜分かたず苦労の連続
不動産登記簿謄本は1件当り700ウォンで誰でも閲覧でき、判決文は裁判所の図書館で無料で検索できる。 キム前候補者の不動産、彼とともに土地を分けて買った人たちの不動産、彼に土地を売ったり買ったりした人たちの所有した不動産の登記簿謄本を約3万ウォン出して閲覧した結果、公職者財産公開の時に隠していた土地が出てきたし、贈与税を惜しむために子供名義で買ったアパートと土地などが確認された。 判決文検索を通じてキム前候補者と彼の婿が横領で有罪を宣告された不正私学の理事長を弁護した事実と、次男がその大学の教授に任用された事実も出てきた。
キム前候補者のように早期落馬でない場合、高位公職候補者は国会人事聴聞特別委員会に色々な資料を提出する。 学歴・経歴証明書とともに朴槿恵(パク・クネ)当選者が「つまらない私生活」と言った兵役・財産・納税関連資料などが含まれる。 資料提出から人事聴聞会まで与えられた時間は普通1週間余りだ。 候補者は聴聞会さえやり過ごせば良いと考えているようで不十分な資料を提出したり、私生活などを理由に追加資料の提出を拒否したり遅らせたりするのが常だ。
イ・ドンフプ憲法裁判所所長候補者の場合、特定業務経費を私的に流用したという疑いが強く提起されたが、最後まで使用内訳を提出しなかった。 まだ結婚していない娘たちはイ候補者と同一世帯で暮らしているにもかかわらず、 "独立生計" という理由で財産を公開しなかった。 両親と子供の財産は贈与税脱漏の有無を確認するために必須の情報だが、イ候補者のように公開を拒否する候補者が増えている。 不十分な資料に嘘まで加われば検証はより一層難しくなる。 人事聴聞会法に偽証に対する処罰規定がないので臨機応変に嘘をつく場合もある。 イ・ドンフプ候補者も業務推進費流用などに関して人事聴聞会で嘘をついた。
■ 記者が真っ先に歓迎する米国式聴聞会
キム・ヨンジュン候補者の落馬をマスコミのせいにする朴槿恵(パク・クネ)当選者が米国式聴聞手続きに言及したという。 だが、マスコミの検証にも耐えられない候補者が、米国式聴聞制度を通過する確率はきわめて低い。
米国の聴聞手続きは "過去資料調査→評判確認→聴聞会" の 3段階を経る。 非公開で進行される過去資料調査は200以上の質問で構成された事前質問紙を土台にする。 韓国は検証対象家族の範囲が配偶者と子供程度に過ぎないが、米国では両親と子供、配偶者の両親、兄弟、後見人まで含まれる。 候補者が提出した答弁書を基礎に連邦捜査局(FBI)、国税庁(IRS)、公職者倫理委員会が検証に出る。 評判確認は7年前の隣人や職場同僚・上司にまで遡る。
道徳性ほど重要な資質がどこにある?
政府が不適格人士をあらかじめ篩いに掛ければ
マスコミも "能力" だけ見て歓迎できるのに
検証期間も十分だ。 候補者が検証を経て大統領が任命するまで平均4ヶ月かかる。 韓国は20日余りに過ぎない。 世界最高水準の捜査・調査機関が十分な時間をもって行なう道徳性検証を通過した人物だけが聴聞会に立つだけに、聴聞会では "優雅に" 候補者の哲学と業務能力を論じることができる。 1960年から2000年までの間に米上院本会議で承認が拒否されたケースは6人に過ぎない。
韓国の大統領府も人事聴聞会前に事前検証をするとは言うけれども、その水準はすでに落馬した多くの候補者を通じて察することができる。 李明博政府だけで9人が不動産投機と偽装転入、贈与税脱漏、財産不正申告、子供の二重国籍、不適切なスポンサーなどの醜聞により検証過程で落馬した。 記者としては大統領府の事前検証基準と密度に不信を持たざるを得ない。 このような不信を解消するのが新しい大統領の任務だろうが、最近のイ・ドンフプ、キム・ヨンジュン候補者を経る中で、朴槿恵(パク・クネ)政府も同じだろうという "合理的疑い" が強化された。
米国は検証期間だけで数ヶ月
FBI・国税庁が出て事前検証し
隣人・職場同僚の評判まで確認
このような状況であるにも拘わらず、セヌリ党は人事聴聞会制度をむしろ改悪しようとする動きを見せている。 財産と兵役、納税など道徳性検証を非公開にして能力検証だけを公開にしようというのだ。 最近の朴当選者とセヌリ党の主要人物の発言から推し量ってみれば、聴聞会制度を無力化させようとする試みではないかとの疑問が起きる。 もしセヌリ党が "非公開検証" というごまかしで道徳性検証を適当にすり抜けようとするならば、国民的抵抗は避けがたいと見られる。 聴聞会の対象を長官にまで拡大するなどこれまで聴聞会制度が強化されたのは、セヌリ党が野党時代に要求し貫徹した結果でもある。
米国連邦捜査局と国税庁などが行なう事前検証を、韓国では制度の不備のせいでマスコミが*(従事し)*ている。 マスコミの事前検証が激しいのは、逆説的に政府の事前検証が緻密でないためだ。 政府・与党が党利党略により聴聞会を通過儀礼と考える限り、マスコミの事前検証はより一層激しくなるほかないだろう。
実際、高位公職者の道徳性検証は記者たちだけに任せるにはあまりにも重大なことだ。 米国のように政府が不適格な人物を徹底して篩いに掛けると言えば、最も歓迎するのは記者たちであろう。 政府機関に代わって公益より私益を追求する公職者を篩いに掛けなければならない "負担" はさて置いても、ゴマ粒のような細かい資料を点検するのに目を赤くして夜を過ごすのをこれ以上しなくても良いのだから。
ユ・シンジェ、キム・ギュナム記者 ohora@hani.co.kr