科ジャン(大学の学科のジャンパー)を着た大学生たちが、ソウル広津区(クァンジング)の建国大学近くの羊肉串屋通りで「××(中国の蔑称)、北傀(北朝鮮傀儡)、アカども、大韓民国から早く消えろ」と叫びながらデモをおこなった。中国人商人たちとの衝突もあったという。与党「国民の力」のナ・ギョンウォン議員は「中国の『シャープパワー』がソウル大学にまで浸透している」として、ソウル大学「習近平資料室」の閉鎖を求めた。自由統一党のソウル九老区(クロ)区長候補は、九老の主は大韓民国だとして、中国人密集地域である開峰(ケボン)駅を「乙支文徳(ウルチムンドク:隋の侵攻を退けた高句麗の将軍の名)駅」に変更すると公約した。ソウル市内のあちこちに「中国人留学生は100%潜在的スパイ」、「中国人が押し寄せる! 集会参加! 犯罪増加! 特恵はごっそり!」という横断幕が掲げられはじめた。
12・3戒厳と弾劾審判局面で横行した中国嫌悪が、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の罷免決定後も続いているのだ。戒厳を宣布した大統領談話や非常戒厳布告令には、中国という言葉そのものは登場しない。しかし、戒厳を正当化するために不正選挙陰謀論が提示されるとともに、中国人が不正選挙に介入したという主張が登場した。弾劾を阻むために「嫌中」が動員されたのだ。裁判所と憲法裁判所に勤める中国人のあぶり出し騒動が起きたかと思えば、新型コロナ中国責任論、失業手当、健康保険、参政権、入試などでの中国人特恵論が再登場した。尹錫悦前大統領の国会代理人団は、中国のハイブリッド戦の脅威にまで言及しつつ戒厳を擁護。挙句の果てに、憲法裁判所の前には「チャイナアウト」と記されたプラカードを手にしたデモ隊が登場した。弾劾反対局面を主導した極右プロテスタント勢力は、共産主義、同性愛に続いて中国を「新たな敵」と定めている。
これは新たに登場した問題ではない。2010年代初めから、中国同胞の犯罪が注目されるにつれ、中国人への「危険な存在」だとのレッテル貼りがはじまるとともに、放送やインターネットには中国人や中国同胞を嘲笑するコンテンツがあふれた。遂には、映画「青年警察」と「犯罪都市」が公開された2017年には、ソウル大林洞(テリムドン)の中国同胞たちが映画上映反対デモをおこなったほど深刻だった。新型コロナウイルスのまん延に伴って反中感情はさらに深刻化した。一部の極右メディアは、中国が韓国侵略を密かに計画しているという陰謀論を広めはじめた。このようにしつこく続く中国人嫌悪が、非常戒厳擁護や不正選挙論と結びつき、爆発したのだ。
外国の嫌悪拡散例をみると、オンラインでの表現がオフラインでの政治的行動へと移った時、暴力へと向かった時、とりわけ標的となった集団に物理的攻撃が加えられた時、政治家が嫌悪を扇動・助長した時に、特に危険な状態になる。中国人を直に標的にした羊肉串屋通りでのデモが起きている。嫌中はすでに多くの政治家の定番メニューとなっている。大統領候補もそれに加勢している。弾劾反対運動を主導した極右プロテスタント集団が嫌中を本格的に利用しはじめていることも不安要素だ。多文化や移住者に反対する動きはまだオンラインにとどまっており、反同性愛は極右プロテスタントの外に影響力を拡大できていない。一方、中国嫌悪は政治家の援護の下、中国人を直に攻撃する段階にまで至っており、大衆の支持もはるかに広範だ。危険要素をすべて兼ね備えているわけだ。
この10年のあいだ、「手遅れになる前に嫌悪と差別を防がなければならない」という訴えは、主流政治の舞台で徹底して無視されてきた。その結果、韓国は世界の主要国家の中で嫌悪と差別に対する公的対応の水準が最も遅れた国となった。政府と国会がためらっている間に、嫌悪勢力は徐々に力をつけてきていた。現実政治において嫌悪、差別、性平等、ジェンダーなどはある瞬間からタブーとなり、2013年に差別禁止法案の提出が撤回されて以降、嫌悪と差別に関する立法と政府の政策は事実上中断してしまっている。
この4カ月あまりの弾劾局面は、危機と機会が共存していた。一方では嫌悪が極端化する可能性が高まったが、広場では嫌悪と差別が新たな議題として浮上した。人権活動家たちは尹錫悦が去れば中国嫌悪が猛威を振るうと予想でもしたかのように、「内乱終息」と「差別禁止法制定」を同時に叫んだ。「性的マイノリティー差別反対レインボー行動」と「差別禁止法制定連帯」が極右への対抗行動を機敏に組織するとともに、極右に対する分析と対応課題を網羅した「極右レポート」を発行できたのは、それ以前からの極右との闘いの経験のおかげだった。この闘いをこれ以上孤立させてはならない。幸い広場の市民たちは、「尹錫悦以降」の世の中について考え、嫌悪と差別に対する闘いに対しても熱い関心を示した。嫌悪政治に断固として立ち向かい、包摂と連帯の民主的共同体を作る仕事は、これからはじまるのだ。
ホン・ソンス|淑明女子大学法学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )