いくつかの報道によれば、チャットGPTの開発会社「オープンAI」は近ごろ、「マーキュリープロジェクト」と銘打って100人あまりの金融業界のアナリストを雇用し、ジュニア層の人材が担っていた単純業務を人工知能(AI)に学習させているという。表面的には機械的労働からの解放を予告するもののようにみえる。しかしそこには同時に、人員の大量削減、雇用の絶壁はもちろん、熟練する機会の喪失という影が差している。
業務の自動化(職務を構成する一部の作業の代替)と職業の代替(雇用そのものの消滅)は異なる。多くの研究が、職業全体が丸ごとなくなるケースはまれだと予測する。各産業のAIの性能を調査したオープンAIの報告書(GDPval)によると、AIは様々な分野で人間と類似した性能を発揮するが、最も大きな成果を生み出すのは一部の自動化で人間と協業するケースだった。
問題は、自動化が真っ先に行われるのは大抵のばあい未熟練労働者の業務だということだ。結果的に、そのような業務に従事する多くの人々がプレカリアート(非正規労働者層)にされてしまう。例えばアマゾンは2027年までに16万人、2033年までに60万人の労働者を自動化で代替することを計画しているという。
人材育成のパイプラインに亀裂が生じると、その亀裂は個人にとどまらず労働市場全体へと広がる。労働者は初歩的な業務から始め、様々な段階を経て徐々に熟練度を上げていくが、組織が熟練労働者だけを必要とするようになると、長期的な熟練人材の育成ルートが閉ざされる。試行錯誤を経て培われてきた職業的本能や感覚と問題解決能力は、育む機会がなくなる。これは産業競争力の弱体化につながる。
幸いにも、自動化は労働者にとって脅威のみを意味するものではない。経営コンサルティング企業「プライスウォーターハウスクーパース(PwC)」の今年の報告書が指摘するように、自動化が早期に進んだ職務であればあるほど、労働者はAIの扱いに長け、賃金はむしろ急激に上昇する傾向を示す。同じ変化が誰かにとっては喪失を意味する一方で、別の誰かにとっては機会をもたらすわけだ。
結局、自動化によって求められる技術が変化していくため、労働者自らが転換能力を向上させることが急がれる。この過程であらわれるK字型の二極化、すなわち一部は急速に成長するが、もう一方は落後していくという労働市場の二股現象に対応するには、転換の負担を個人ばかりに押し付けないようにしなければならない。変化のスピードについていけない人のために、選別的できめ細かいセーフティーネットを整えることが求められる。転換が遅かったり、再訓練の成果が上がらなかったりといった職群には、最低限の所得を保障するとともに、産業需要に合わせた再熟練の機会を提供することが望ましい。青年層には、キャリアの出発点となる実務型インターンシップなど、雇用市場へ最初に参入する際の足場を広げなければならない。新入社員には、なくなった業務についての学習機会を設計・提供することも重要だ。例えば、AIによって処理される業務を共に分析させて教育ツールとする方法が考えられる。さらに、技術の変化のスピードに合わせて法と制度を補完するとともに、新たな争点を先制的に扱えるAI時代の労働規範を確立しなければならない。脈絡と相互理解が必要な一定の領域は、自動化の効率性の論理だけでは扱えないことを認知したうえで、意図的に人間の領域として残しておくことも必要だ。
業務の自動化は単なる休息や解放ではなく、人間のより深い学びと成長を可能にする過程へとつながらなければならない。十分な検討なしに推進される雇用の代替は、人間が学び成長する権利をむしばむ。労働のエコシステムの保護に対する社会的合意が後押しすれば、AIは人間の雇用を奪う技術ではなく、人間の能力を拡張する道具となるだろう。
イ・ソユン|司法研修院教授、判事 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )