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「AIへの全賭け」大丈夫か【コラム】

登録:2025-10-04 01:18 修正:2025-10-08 07:19
アン・ソンヒ|論説委員
ク・ユンチョル副首相兼企画財政部長官が、先月29日に開催された第2回未来戦略フォーラムで基調発表をおこなっている/聯合ニュース

 「第4次産業革命」は2016年1月のダボス会議で世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長が初めて提示したもので、その後、全世界的に旋風を巻き起こした。それぞれ蒸気機関、電気、デジタル技術に代表される第1次、第2次、第3次産業革命とは異なり、第4次産業革命の主な技術は自動運転、モノのインターネット、ブロックチェーン、3Dプリンティング、バイオ技術、人工知能(AI)、ビッグデータなどと多少散漫であり、「デジタル、物理学的、生物学的領域が融合する技術革新」のような定義も曖昧だったものの、いずれにせよ経済と社会全般に大きな変化が起きるだろうという期待が膨らんだ。その後、それぞれの技術はそれなりのスピードで発展していったが、産業革命に匹敵するほどの変化は起きていない。

 ここに来て、改めて産業革命水準の大転換が迫っているという予言が相次いでいる。2022年末にチャットGPTに代表される生成型AIが登場して以降、AIは様々な先端技術の中の一つから、他のすべての技術と産業を根本的に変える最重要技術へと、その地位が変化した。このような見方は、AIが経済の生産性を大幅に引き上げるとともに、その過程で大規模な投資が行われることで成長率が高まることを期待するものだ。

 このような「AI革命論」の代表的な提唱者は政府だ。政府は、2030年までに世界3大AI大国へと飛躍し、現在は1%台後半にとどまっている潜在成長率をもういちど3%に高めるとする目標を掲げている。政府が今年8月22日に発表した「新政権の経済成長戦略」の要は「技術先導成長」だが、それに向けた30大先導プロジェクトの中の15件がAIに関するものだ。計68ページの同発表資料には、「AI」という単語が267回出てくる。大統領室にはAI未来企画首席が新設されたほか、大統領を委員長とする国家人工知能戦略委員会が発足した。AIに全賭けするような動きだが、実際にク・ユンチョル副首相兼企画財政部長官は「AIは全賭けだと思う」(9月29日)と述べている。

 政府の態度は理解できないわけではない。韓国経済の潜在成長率は、少子化などによって2030年には1%台前半~中盤にまで下がる見通しだ。韓国の産業は中国の技術力に押されて次第に競争力を失いつつあり、さらに米国のトランプ政権の関税戦争にまで首を締められている。このようなもどかしい状況にあって、AIが新たな産業革命の導火線となれば、その大爆発に乗じて機会をつかむことができるのではないか。政府はそう考えているようだ。「AI大転換は成長の低下を反転させる唯一の突破口」だという発言は、政府の切迫感をあらわにしている。

 しかし、AIの経済効果については依然として議論が多い。ノーベル経済学賞の受賞者でマサチューセッツ工科大学(MIT)教授のダロン・アセモグルは、AIがもたらす生産性向上は過大評価されていると主張する。最近では、チャットGPTを作ったオープンAIの最高経営責任者のサム・アルトマンが「AI産業にバブルが生じている可能性がある」と語っている。AIの潜在力が高いとしても、現実化するまでには時間がかかる可能性がある。1970年代にコンピュータと情報通信技術が広範に導入されたものの、生産性は期待ほど上がらなかったことについて、やはりノーベル経済学賞の受賞者でMIT教授でもあるロバート・ソローは、「コンピュータはどこでも目にするが、生産性統計では目にしない」(「ソロー・パラドックス」)と述べた。情報通信技術が生産性を本格的に高めはじめたのは、1990年代後半以降だ。

 AIの労働市場への影響はもう一つの物議の種だ。実際のところ、人々の最大の関心事は成長率ではなく「AIによって自分の仕事も奪われてしまうのではないか」ということだ。AIがコーディング(開発者)、挿絵(イラストレーター)、翻訳(翻訳家)、書面作成(弁護士)、作曲(作曲家)などを人間に劣らずこなすのを見て、人々は不安を感じる。とりわけAIは、多くの分野で初級水準の業務を代替することにより、青年層が労働市場に参入して経験を積む機会を奪ってしまう可能性がある。産業革命以降の200年あまりの歴史は、技術の激変期には、ある者は大きな機会を得るが、またある者は生計が破壊される恐れがあるということを示している。

 AIという波が私たちをどこに連れて行くのかを、正確に予測できる人はいない。「救世主のようにAIが現れた」(SKスーペックス追求協議会のチェ・チャンウォン議長)という見方の方が正しい可能性もある。しかし、政府はもう少し冷静であるべきだ。眼帯をして走る馬のように楽観論ばかりを見つめていないで、様々な可能性に備えるべきだ。技術革新が正しい政策と結び付かないと、それは果実の共有ではなく不平等の深化へとつながりうる、という警告にも耳を傾けるべきだ。盲目的な「AIへの全賭け」は困る。

//ハンギョレ新聞社

アン・ソンヒ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1222022.html韓国語原文入力:2025-10-02 15:59
訳D.K

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