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時価総額がドイツのGDPに迫るNVIDIA、雇用は3万6千人【コラム】

登録:2025-10-03 19:57 修正:2025-10-07 07:19
エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営者(CEO)/AFP・聯合ニュース

 米国のAI半導体チップ設計会社のNVIDIA(エヌビディア)の株価が29日(ニューヨーク時間)に181.88ドルとなり、時価総額が4兆4196億ドル(約651兆円)に達した。世界の企業の中で1位のエヌビディアの時価総額は7月9日、日本の2024年の国内総生産(GDP・4兆267億ドル)規模を超えた。株価がさらに5ドル上がれば、世界3位のドイツのGDP(4兆6599億ドル)も追い抜く。

 韓国で最も大きいサムスン電子の時価総額は498兆4千億ウォン(約52兆円)。エヌビディアはその12倍だ。高い収益性と成長性のおかげだ。AI産業のバリューチェーンの最上位にあるエヌビディアは、チップを設計するだけで製造は他メーカーに任せる。今年第2四半期(5~7月)の売上高は467億4300万ドル(約69兆円)、純利益は264億2200万ドル(約3兆9千億円)だった。売上高の純利益率は56.6%にもなる。第2四半期のサムスン電子の6.9%に比べると、舌を巻くしかない。

 さらに驚くべきことは雇用だ。第2四半期の純利益がサムスン電子(5兆1164億ウォン=約5363億円)の7.2倍のエヌビディアの従業員数はわずか3万6千人だ。約13万人のサムスン電子の4分の1に過ぎない。エヌビディアが創り出す付加価値のうち、労働者の賃金に渡る分はそれだけ少ない。エヌビディアの稼ぎは株主に対する配当や株価上昇差益として配分されるだろうが、社会全体で見ればごく少数に集中している。

 AI産業が花を咲かせ始めたここ数年間、エヌビディアを含むいわゆる「マグニフィセント・セブン」(アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、テスラ、メタ)企業が高成長し株価が急騰している。2023年初め以降、S&P500指数上昇分の半分はこの7社が引き上げた。「所得と富の両極化」を示す赤裸々な現場だ。

 両極化は今後、弱い輪の破壊を通じても深刻化するだろう。先端技術に長けた少数の専門家は労働市場でさらに脚光を浴びる反面、熟練の必要期間が短い事務職の雇用はAIにほとんど代替されるだろうという心配は、決して杞憂ではないようだ。

 ところで、これは米国の心配事であり、私たちにとっては遠い未来のことなのだろうか。実際、今起きていることは、これまで起こったことをより鮮明に示す炎に過ぎない。

 韓国は工場労働者1万人あたりの導入ロボット数が世界1位の国だ。高学歴者でなくても熟練を積んで高賃金を得ることができた製造業の就業者の比重は10年前から減少している。製造現場の労働者は脱熟練化され、ロボットや他の未熟練労働者に簡単に代替可能な存在になってきた。韓国人の労働所得がピークに達する年齢は1990年代の50代初めから2022年には43歳に低下した。熟練にともなう賃金・所得の上昇軌道からそれだけ早く離脱するという意味だ。寿命は長くなったのに。

 労働市場に新たに進入する人々も、自分が費用を払って技能を身につけ、低賃金で職場経験を積んだ後になって、ようやく良い働き口に挑戦できる。それでもいつ「余剰人材」に押しやられるか分からないという不安に苦しむ。最近封切りしたパク・チャヌク監督の映画『No Other Choice(仕方がない)』に出てくる経歴25年の製紙専門家「マンス」のように、会社から解雇通知を受けることは今後さらに頻繁になるだろう。まともな働き口を一度失うと、国家の所得再分配政策や制度が与える恩恵は焼け石に水に過ぎない。

 経済政策の最大の課題は、良い働き口を維持し、多く作ることだ。そのためには企業が現場労働者と共に生産性の革新を模索する労使関係、労働者の熟練度を継続的に高めることができる生涯教育体制が緊要だ。残念ながら、韓国にはそのようなものがほとんどない。企業が崩れ労働者が職場を離れざるを得なくなった時、再就職が可能になるように十分な訓練期間を確保してくれる失業給付も、韓国ではまったく不足している。

 韓国の労働者1人あたりの実質賃金増加率がここ3年間急激に低くなった。そんな中、米国が莫大な規模の投資で米国に雇用を創出するよう韓国に強要している。雇用創出のために韓国国内に設備投資を増やしても足りない状況なのに、弱り目にたたり目だ。

 家計所得基盤が崩壊すれば、経済の内需部門も共に崩壊する。高齢化の影響ですでにかなり進んでいることだ。短時間・高齢者の雇用増加にともなう雇用率上昇を押し出して、事態の深刻性を覆い隠せる時期はもう過ぎた。労使政がすべて率直にならなければならない。各自不安を率直に打ち明けることで対話を始めなければならない。国の経済の先行きが不安でならない。

チョン・ナムグ経済産業部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1221541.html韓国語原文入力:2025-09-30 19:33
訳J.S

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