先日筆者はベルリンでドイツの指導者たちに会い、懸案を議論する機会を得た。彼らは一様に、ドイツと欧州が世紀的転換(Epochenwende)という前代未聞の危機に直面しており、既存の手法ではこれを克服するのは難しいという暗い展望を示した。三つの衝撃のためだという。
一つ目はロシアによる衝撃だ。2年前でさえ、欧州の指導者たちはロシアの脅威を外交的努力で管理可能だと考えていた。米国中心の強力な軍事的抑制、広範囲な国際社会による制裁、そして外交交渉を通じて、ウクライナ問題を終息できるとみなしていたからだ。しかし、状況は大きく異なっていた。これまでのアプローチには限界があり、いまやロシアは欧州にとっての実存的な脅威としての地位を確立しているという。さらに、ウラジーミル・プーチン大統領のロシアを、1930年代のナチス・ドイツと同列に位置づけていた。プーチン政権が続くかぎり、ロシアは膨張主義政策を放棄せず、これは欧州の安全保障を大きく脅かすことになるという主張だ。
特に最近では、ロシアがウクライナを越えて、ポーランド、デンマーク、バルト三国、そして、さらにはドイツにまで無人機を浸透させており、状況はきわめて深刻だ。このような高圧的なロシアに対しては、強硬的な態度を取らざるを得ないという結論だ。ウィリー・ブラント元首相の東方政策の主要な追従者であるドイツ社会民主党の指導層の人たちまで、ロシアに対する強硬姿勢で一貫していた。
二つ目はトランプ・ショックだ。米国のドナルド・トランプ大統領は、欧州の防衛は欧州が責任を持ち、そのためにNATO加盟国は国内総生産の5%を防衛費に投じるよう要求している。これを拒否したスペインなどはNATOから追放すべきだと主張したりもした。また、欧州の駐留米軍の撤収の可能性を公の場で示したこともあった。さらに、ロシアの肩を持つような印象を与えており、トランプ大統領が率いる米国に対する欧州の疑問はさらに高まっている。
一方的な関税圧力と6000億ドルという巨額の対米投資を要求し、これを欧州連合(EU)が米国に与えるプレゼントだと公言するトランプ大統領に対する反感は、非常に強いものに感じられた。トランプ大統領の帝王的な姿勢も問題視されている。8月にウクライナ問題を解決するとして欧州の指導者たちをホワイトハウスに招いた際、トランプ大統領が示した傲慢な態度は、欧州人に侮辱感と憤りを抱かせた。
歴史的転換をもたらす三つ目の衝撃は、極右勢力の拡大という欧州の国内政治的な変化だ。反移民、反EU、自国中心主義を標榜する極右勢力が、欧州全域で猛威を振るっている。ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が連立政権のキリスト教民主同盟や社会民主党より強い大衆的支持を得ている。すでにポーランド、ハンガリー、イタリア、スロバキアなどでは極右政党が政府与党として躍り出ており、最近ではチェコで極右勢力が政権を握った。
極右政党は若い世代の積極的な支持を得ている。これは経済停滞と失業率の増加がもたらした結果でもあるが、欧州政治の情勢の変化を予告する重要な指標だ。これにも米国のMAGA(米国を再び偉大に)の変数が大きく作用している。トランプ大統領、J・D・バンス副大統領、そして、イーロン・マスクまでが彼らに対する支持を示し、北大西洋に新たな形態の超国家的な極右連帯が構築されている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、このような現象を「権威主義という暗黒の啓蒙時代の復活」と警告もした。
このような世紀的転換の時代を迎え、欧州社会の主流の立場は明白だ。ロシアの脅威は当面続き、米国はもはや信頼できない。したがって、国防費増額、徴兵制導入、防衛産業振興を通した自主国防能力強化などによって、単独で生きる道を探らなければならない。米国の欧州離脱を可能なかぎり遅延しようと努力しているが、「米国なき欧州」に備え、独自の欧州安全保障の道を模索しなければならない。そして、中国とインドのカードを活用すると同時に、東アジアや中東諸国との協力を増進する多角化戦略を展開すべきだと判断している。極右の台頭に対応するためには、経済の回復や雇用創出も重要だが、21世紀型の自由民主的価値の教育を広める必要があるという意見もあった。
欧州に今の韓国を見る。同病相憐の連帯感まで感じる。北朝鮮の脅威を収束しつつ、平和共存の枠組みを作り、米国に対する過度な依存を減らして、自主国防の基盤を固めなければならない。そして、競争力向上や貿易品目と対象国の多角化も同様に必須だ。若い世代の極右化を防ぐためには、民間経済の活性化と革新的な民主教育が必要だ。平和、経済、民主主義の三重の危機を克服するためには、欧州との深層的な協議が切実に求められる。
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )