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韓国、次は安保台風なのか【寄稿】

登録:2025-08-04 06:46 修正:2025-08-04 07:38
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授
李在明大統領が先月31日、ソウル鍾路区の政府ソウル庁舎別館で開かれた高位公職者特別講演で発言している(左)。ドランプ・トランプ大統領が先月30日(現地時間)、米ワシントンのホワイトハウスのルーズベルトルームで演説している=大統領室写真記者団、ワシントン/AP・聯合ニュース

 8月1日の米国の新たな関税措置の施行を翌日に控え、ワシントンから朗報が飛び込んだ。ドナルド・トランプ大統領は、韓国が3500億ドルの製造業投資基金と1千億ドル相当の米国の液化天然ガス・エネルギー製品を購入する条件で、相互関税を15%に下げると発表した。 また韓国政府は牛肉やコメなど農水産物市場を開放しないことにしたと明らかにした。政権交代政局の時間的制約という悪条件にもかかわらず、日本や欧州連合(EU)などに比べても遜色のない結果を引き出した。

 政治的ボーナスも付いてきた。李在明(イ・ジェミョン)政権の発足に対し全く反応を示さなかったトランプ大統領が、ソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、交渉の結果を明らかにする際、「大韓民国の新大統領の選挙での勝利を祝賀する」という挨拶と共に、2週間以内にホワイトハウスで李大統領との2国間会談を行うことを公表した。トランプ大統領が李在明政権を快く思っていないという世間の懸念を払拭させるサプライズだった。

 しかし、安心するにはまだ早い。関税台風の次には、防衛費の増額、在韓米軍の規模と役割の調整、そして戦時作戦統制権(戦作権)の移管と連合防衛体制の持続など、韓米同盟の現代化という安保台風が待ち構えているからだ。2016年以降、トランプ大統領は「在韓米軍駐留費用を増やさなければ米軍を撤退させる」と言うかと思えば、無料で恩恵だけを享受する同盟時代は終わったとし、「北朝鮮と戦争が起きても米国は介入しない」と発言するなど、一貫して韓国に対する不満をあらわにしてきた。防衛費分担の増加と対国内総生産(GDP)比5%への国防費支出の増額を在韓米軍と結び付ける可能性が高いとみられる理由だ。

 トランプ大統領の岩盤支持層である「MAGA(米国を再び偉大に)」派は、より本質的な問題を提起する。米軍の国外駐留に反対するMAGA派は、韓国が在韓米軍を有事における米国の大規模な軍事介入誘導のための「仕掛け線」(tripwire)として利用しており、北朝鮮と中国の先制打撃の犠牲になりかねないという懸念から、在韓米軍の削減と撤退を主張してきた。一方、対中国強硬派は在韓米軍の役割が対北朝鮮抑止から対中牽制に拡大されるべきであり、このために戦略的柔軟性が認められなければならないという主張を展開している。さらに韓国軍も対北朝鮮抑止を越えて、米国のインド太平洋戦略に積極的に参加すべきだと注文している。

 先日、「朝鮮日報」のヤン・サンフン主筆は、「私たちが知っていたその在韓米軍はすでに撤退中」という見出しのコラムで、さらに衝撃的な論旨を展開した。長距離迅速打撃兵器の画期的な発展、韓国軍の能力増大、そして米国の対中国戦略に対する韓国の参加の不確実性のため、米第2師団と第7空軍の効用性はすでに失われ、在韓米軍は事実上の撤退過程にあるということだ。

 むろん、議会をはじめとするワシントンの主流は、在韓米軍駐留政策に変化はないという点を強調しているが、その底辺には削減、撤退、再調整の様々な兆候がすでに可視化されている。特に、近く行われる韓米首脳会談でも、このような争点が浮上する可能性が高い。

 過去のような泣き落としの対応はあまり効かないだろう。新しく果敢な発想が求められる。トランプ大統領に過去の米国の安保への貢献に対して丁重に感謝を表わすと同時に、韓国がもはや安保ただ乗り国にはならないという点を堂々と強調しなければならない。互いに互恵的な韓米同盟の新たな役割分担を提示し、韓国軍が主力軍になって韓国防衛に主導的に責任を負うという点を明確にすべきだ。

 そのためには戦作権の移管が欠かせない。文在寅(ムン・ジェイン)政権時代、任期内の戦作権移管に向け第1段階の基本運用能力(IOC)評価を2019年8月に成功裏に実施した。ところが、コロナ禍など諸条件のため、第2段階の完全運用能力(FOC)と第3段階の完全任務遂行能力(FMC)の評価を完了できなかった。もはや条件に基づいた(連合防衛主導の軍事能力、北朝鮮の核・ミサイル脅威への対応能力、移管に符合する朝鮮半島・域内の安保環境)戦作権の移管計画にこだわらず、果敢に第2、第3段階を実施し、移管を完結しなければならない。また、文在寅政権が進めた単一指揮体系型の未来連合軍司令部よりは、日本のような韓国軍と在韓米軍間の「並列型」指揮構造を前向きに検討しなければならない。この過程で、米国の核の拡大抑止と一時的な補完戦力(情報、偵察、監視資産)の確保という前提が満たされなければならない。

 もう在韓米軍の規模と地位について一喜一憂するのはやめよう。能動的に対処していくべきだ。韓国はもはや風前の灯火の弱小国ではない。むしろ、この機に韓国の戦略的自律性を確保し、米国との関与と放棄の慢性的ジレンマから抜け出すきっかけにしなければならない。そうしてこそ、自主国防はもとより、朝鮮半島の平和と北朝鮮核問題の解決に新たな突破口を見出すことができるだろう。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1211371.html韓国語原文入力: 2025-08-03 20:09
訳H.J

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