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最高裁長官と前首相、権力の座にただ乗りしようとする妄想の果て【コラム】=韓国

登録:2025-05-09 09:07 修正:2025-05-09 10:20
チョ・ヒデ最高裁長官(左)とハン・ドクス前首相/聯合ニュース

 「チョ・ヒデ(長官の)最高裁(大法院)」による最大野党「共に民主党」の大統領選候補イ・ジェミョン抹殺作戦は、ひとまず失敗に終わった。ハン・ドクス前首相と与党「国民の力」の親尹錫悦(ユン・ソクヨル)派の大統領候補奪取作戦も、失敗する可能性が高い。2人とも国民と民意の選択に任せるべき大統領または候補の座を、何とか横取りして自分のものにしようとしたが、問題が起きたのだ。自分たちの既得権を守るためには、民意も、原則も、甚だしくは法さえも蔑ろにする国の土豪保守の「素顔」が一気に明らかになっている。

 チョ・ヒデ最高裁は、類例のないスピードで、共に民主党のイ・ジェミョン大統領候補の政治生命を絶とうした。政治的中立の原則は粉々に砕かれた。適法手続きも無視された。イ候補の公職選挙法の上告審は、小部に割り当てられてからわずか2時間後にチョ・ヒデ最高裁長官の職権で全員合議体(全合)に移された。当初割り当てられた小部に、文在寅(ムン・ジェイン)元大統領が任命したオ・ギョンミ最高裁判事が含まれていたためとみられている。オ最高裁判事は実際、判決文に無罪趣旨の痛烈な少数意見を書いた2人のうちの1人だ。チョ最高裁長官が、オ最高裁判事の反対で小部審理が長引くことを防ぐため、全合への回付を急いだとしか考えられない。

 その後は、チョ最高裁長官の思い通りに進んだはずだ。通常は1カ月に1度の合議期日を中1日で連続して開き、直ちに投票で有・無罪を決めた。6万ページにのぼる事件書類をすべて読むどころか、目録と題名だけを一瞥するにも足りない時間だ。最高裁長官が強引に進めたとしても、一国の最高裁判事なら十分な討論と熟考の時間を持とうとブレーキをかけるべきだった。ところが、文元大統領が任命した2人を除いた9人の最高裁判事は、忠実にチョ最高裁長官の意に従った。盲目的な忠誠派を動員して行った尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の親衛クーデターと類似している。

 チョ最高裁長官がここまで急いだ理由は、イ候補の大統領選出馬の封鎖を狙ったものでない限り、説明がつかない。有罪か無罪を確定するわけでもなく、無罪を有罪に変えるためにはより慎重な判断が求められる。しかも、国民の過半数ほどが支持する大統領選候補の出馬資格にかかわる問題だ。にもかかわらず、最小限の手続的公正性を見捨ててまで、9日間で無罪の2審を破棄してしまった。内容も退行的なものだった。国民の選択権と選挙における表現の自由を拡大した従来の判例を覆し、説得力のある法理と論拠を示していない。鋭く明確な無罪の少数意見と対比される有罪補充意見の粗末さについては、これ以上論じる必要はないだろう。「何としてもイ・ジェミョン大統領だけは止めなければならない」というチョ最高裁長官の偏向的情熱に支配された裁判だったからこそ、このすべての拙速と専横が可能だったのだろう。

 国民の怒りがあれほど激しかったのも、このようなチョ最高裁長官の狙いを正確に読み取ったためだ。多くの人々が、最高裁判決を国民の大統領選出権を剥奪しようとした司法クーデターであり、「すべての権力は国民に由来する」と定めた憲法精神を踏みにじる暴挙とみなした。さらに、有力候補を除去し内乱勢力を代表する候補に大統領選挙を献上しようとする計略ではないかという疑念をも抱いた。

 韓国国民は、血と汗と涙で大統領を直接選ぶ選挙主権を勝ち取った。内乱勢力との長い苦闘の末、早期大統領選挙を作り出した。このすべてを、選出されていない何人かの高位裁判官がたやすく奪取し、ふさわしくない勢力に献上しようとする意図が明らかに見えるのに、「司法府判断の尊重」という虚偽的通念に縛られているわけにはいかない。国民主権を脅かす傲慢な司法権力は改革の対象であるのみ、というのが今の国民多数の考えだろう。イ候補の裁判が大統領選挙後に延期された後も、事態の真相を究明し責任を問うべきだという声が高まっているのはそのためだ。

 「国民の力」の大統領選候補の座をめぐり繰り広げられている一本化の乱闘も、正当な努力で国民の選択を求めるよりも、大統領であれ党内であれ権力を横取りしようとする旧政権勢力の悪行がもたらした結果だ。親尹(錫悦派の)残党勢力は、キム・ムンスを前面に出して党の予備選挙を混乱させた後、無所属のハン・ドクスを党の大統領選候補にしようと、あらゆる無体を働いている。ハン・ドクス前首相も、自分のお金は一銭も使わず、ただ乗りして候補になろうとする思惑を隠さない。キム・ムンスが候補になった過程も、実はあまり変わらない。

 当初、尹前大統領が至難な政治過程を度外視し、戒厳令を宣布して一気に独裁権力を構築しようとして失敗したことからも分かるように、「ただ乗り」と「一攫千金」の心理はすでに土豪保守のDNAに根付いているようだ。 慶尚道・江南(カンナム)・極右に迎合するだけで子々孫々の権力を享受できた生ぬるい環境に適応した結果だ。もちろん刻々と急変するより大きな世界で、このような集団を待ち構えているのは「絶滅危機種」の運命に他ならないだろうが。

//ハンギョレ新聞社
ソン・ウォンジェ|論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1196423.html韓国語原文入力:2025-05-08 18:42
訳H.J

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