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少子化対策、赤ちゃんは冷蔵庫ではない【コラム】

登録:2024-06-13 01:37 修正:2024-06-14 10:49
イ・ジョンフン|社会政策部長
ソウル市内のある産後養生院の新生児室で、看護師ら関係者たちが新生児の世話をしている/聯合ニュース

 「赤ちゃんは冷蔵庫だ」

 1992年にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学のゲーリー・ベッカー教授の理論だ。彼は経済学の外縁を結婚、出産、犯罪などの社会現象にまで拡大した。法に違反した時に得る利益が逮捕、刑罰などの不利益より大きければ、犯罪は合理的な経済的選択の結果だと主張した。出産も投資と収益率を計算して下した判断だと考える。冷蔵庫を選んで買う行為と子どもを産み育てることに、大した違いはないというのだ。「国家非常事態」(尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領)である少子化危機を克服するためには、費用に対する効果を高めればよいという意味でもある。

 近ごろは、出産に役立つとして生物学的便益を高めようという対策や提案も登場している。ソウル市は補正予算案に精管や卵管の復元手術費用の支援を入れた。与党「国民の力」に所属するあるソウル市議会議員は、括約筋を引き締める「ケーゲル体操」を提案した。国策研究機関の一つである租税財政研究院のある研究委員は、女性を1年早く就学させることが「今後、適齢期の男女が魅力をより感じ合えるようにするのに寄与」しうると主張した。男女が出会い、付き合い、結婚に至れば、自然に子を産むだろうという前提から出た対策で、失笑と批判を招いただけだった。

 政府はこれまで、経済的便益を拡大するための出産政策を用いてきた。人口が増えることも減ることもない2.1という合計特殊出生率に韓国が到達したのは、1983年だった。全斗煥(チョン・ドゥファン)政権の時代で、人口減少局面に入ったことを意味していたが、当時は家族計画事業の成功を自ら祝ってばかりだった。このような政策は1990年代まで続いた。政府レベルの少子化対策は2006年になってようやく発表され、その後20年近く、ほとんどの政策は出産や育児のコストの軽減に集中した。今年も政府は、親給与の月70万ウォン(約7万9800円)から100万ウォン(約11万4000円)への増額(子が0歳の場合)、育児休職給与の上限額の450万ウォン(約51万3000円)への引き上げなどの対策を打ち出した。

 しかし、出生率の向上にはあまり役に立たないと思われる。慶尚北道が過去10年間の出産支援金と合計特殊出生率を比較したところ、明確な相関関係は見出せなかった。出産支援金を増やしても出生率の上昇にはあまり効果がなかった。出産支援金は22の市・郡で増えているが、出生率は下がり続けており、浦項市(ポハンシ)や亀尾市(クミシ)はむしろ反比例関係を示していた。

 韓国の「出産ストライキ」は、私たちの暮らしが反映された結果だ。育児休職給与は増え続けているが、使用は大企業(2022年で男性70%、女性60%、300人以上の企業の在職者)に集中している。大企業に勤めてもキャリアの断絶は避けられない。一人っ子をかわいそうに思って2人目を考えても、2度目の育児休職は気をつかう。家庭内では女性が「ワンオペ育児」をしなければならない。

 それだけではない。ソウルでローンを組まずにマイホームを購入するためには、月給を一銭も使わず貯めても15年(2022年住居実態調査)かかる。その期間は年々伸びつつある。政府は子育てを支援するとして「常春教育」を打ち出したが、子どもが「貧困層」だと認識されることを心配して親たちは送らない。競争で遅れを取ることを恐れて支払っている私教育(塾や習い事。公教育の対立概念)費も月平均55万3000ウォン(2023年)にのぼる。子どもが2人以上いる家庭は100万ウォンをはるかに超えることになる。労働時間(1874時間、2023年)は経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均より15日多い。賃金も女性が男性より31.2%ほど少なく、OECD加盟国の中で格差が最大となっている。

 金で子どもを買うことはできない。この間の出生率向上政策は、ベッカー教授の確立した、人間の労働力を資本化した「人的資本理論」との関係が深い。生産年齢人口の減少で生産と革新を担う人が減少し、成長が低下することを懸念して、人的資本を増やす出生率向上政策に集中したということだ。しかし出産に、人的資本の拡大に焦点を合わせれば合わせるほど、少子化問題の解決は難しくなる。社会的構造や文化的背景なども変えなければならない。短距離走ではなくマラソンのようなもので、対策も単品ではなく総合ギフトセットでなければならない。

 2019年にノーベル経済学賞を共同受賞した米マサチューセッツ工科大学(MIT)のエステル・デュフロ、アビジット・バナジー両教授は、成長に対する執着を捨てるよう助言する。より成長するのではなく、生活の質を高めることが重要だと語る。近いうちに政府は少子化総合対策を打ち出す。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権3年目でようやくだ。遅ればせながら、今からでも認識の転換がなされることを期待する。

//ハンギョレ新聞社

イ・ジョンフン|社会政策部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1144610.html韓国語原文入力:2024-06-12 18:38
訳D.K

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