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[寄稿]「金で出生率を上げる」という韓国

登録:2024-04-29 07:09 修正:2024-04-29 08:11
パク・ソンウォン|国会未来研究院研究委員
ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 国民権益委員会が「ある私企業が、出産した社員の子どもに現金1億ウォン(約1150万円)を直接支給するという破格の出産奨励対策を打ち出し、大きな反響を呼んだ」として、「出産した女性や出生児を受益者に指定した出産および養育支援金の直接支給を拡大する制度改善の必要性」について市民の意見を集めている。4月15日にはじまったアンケートには4月26日までに1万2881人が回答し、1億ウォンを手にすれば若者たちが子を産む決心をするかどうかをめぐって様々な意見を述べている。

 権益委が述べた通り、2006年から2021年までの間に少子化対策として280兆ウォン(約32兆円)の財政が投入されたにもかかわらず、出生率は世界最低水準だ。一般的に少子化の原因は社会構造と文化だ。子を産んだ女性のキャリア断絶、妊娠・育児休暇の使いにくさ、莫大な養育コストと女性のワンオペ育児、住宅価格の上昇などの居住に対する不安、所得の不平等の拡大に起因する養育環境の差別などが言われている。

 なぜ若者たちは子どもを産まないのだろうか。人間は選択を迫られた時、実現性の高い方を選ぶ。自分の選択の実現過程において妨害要素がない、もしくは少ない状況を好む。超少子化の原因を単純化すれば、「結婚と子育て」という選択よりも「非婚と非出産」という選択の方が実現可能だと信じる若者たちの増加だ。結婚と子育てという選択は若者たちにとって、したことのないものだ。経験していないものはコントロールが難しい。変数が多いからだ。一人の配偶者に出会って共に生きていくこと、けんかしたとしても和解すること、互いの親や兄弟姉妹と関係を結ぶこと、子を産んできちんと育てること、子が育つ過程で良い子育て環境と居住地を用意すること、それらをこなしつつ自らの職業を維持し、職場で生き残ること、配偶者と共に長い老後に備えること。これらは「結婚と子育て」を選択すれば自分に降りかかってくる。

 これらは、自分が「非婚と非出産」を選べば半分以下に減る。自分の体と自分の未来だけを大切にしつつ、これまで生きてきた通りに生きてゆけばよい。そのような未来は、不確実ではあっても不確定的ではない。不確実な未来は統制できないし、いま心配したところで特に得るものはない。明日自分が交通事故にあうか、宝くじが当たるかは不確実で偶然が左右するため、予測する必要がない。しかし、不確定な未来には耐えられない。「結婚と子育て」は不確定的な未来だ。自分が今確定しうることが何もないからだ。今確定しないことが自分の人生に現れ続けるなら、それは今日の宿題をやらずに眠ってしまうのと同じだ。毎日課される膨大な量の先行学習課題を日々やっておかないと、すぐに手に負えないほどたまってしまうように。

 このように宿題をためてしまうと、親や先生に怒られる。大人になったら職につけず病気になっても病院に行けなくなると脅される。このように脅しても今日の宿題をやらない子どもがいた時、親は子どもの悩みをじっくり聞いてあげるのではなく、「金」でさっさと解決しようとする。「いくらならいいのか」と 子どもと交渉する。子どもが仕方なく金を受け取るのは、金が好きだからではなく、金を受け取れば親が安心するからだ。ほとんどの子どもは、親を失望させないようにするために顔色をうかがう。

 このような過程を経て育った子どもたちが若者になって非婚と非出産を選択する。「このままでは国が滅びる」と脅迫してきた社会は、今や戦術を変えて「いくらならいいのか」と交渉を持ちかけてくる。しかし若者たちは知っている。もう親の顔色をうかがう必要のない大人になったということを。若者たちは現在の状態を維持することの方が可能性が高いと判断し、「結婚と子育て」という不確定的な未来は選択しないだろう。そのように成長してきたし、育てられてきたからだ。このような若者たちの選択を社会が尊重しないなら、若者たちは自分の考えを推し進める力と機会を失う恐れがある。それは少子化よりもさらに望ましくないものだ。

//ハンギョレ新聞社

パク・ソンウォン|国会未来研究院研究委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1138480.html韓国語原文入力:2024-04-28 18:51
訳D.K

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