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[コラム]尹大統領の2年11カ月

登録:2024-06-04 09:14 修正:2024-06-04 10:52
海兵隊予備役連帯のメンバーらが5月28日午後、ソウル汝矣島の国民の力党本部前で記者会見を開き、同日の国会本会議で「C上等兵特検法」の再議決が否決されたことに対して抗議している=キム・ジョンヒョ記者//ハンギョレ新聞社

 先月28日、第21代国会の最後の本会議で行われた海兵隊員C上等兵特検法の再議決の結果は、賛成179票、反対111票、無効4票だった。与党「国民の力」の議員17人が賛成しない限り、再議決は不可能だったが、ちょうど17票足りなかった。誰がどのように投票したかは分からないが、単純計算では国民の力から離脱票が全く出なかった格好だった。

 2日後、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が国民の力の議員研さん会に現れた。尹大統領は「今日皆さんに会って、本当にストレスが解消されました。元気が出ます、ハハハハ」。上機嫌な高笑いだった。本人もこう語った。「前回の大統領選挙から始まって地方選挙、今回の総選挙も大変でしたけれども、皆さんと選挙やまた様々な国政懸案で一丸となってこれまで戦ってきたので、皆さんにこうして今日お会いできて、私はただ気分がいいです」。大統領にとって国政懸案は運用して解決していかなければならないものであって、「戦い」ではない。野党との戦いで、特に本人の拒否権行使に全幅の支持を送ってくれた与党議員を称える意味に聞こえた。

 そして「もう過ぎ去ったことは全部忘れて、私たちが一丸となって国を守って! 国を改革して! 国の未来のためにこの国を発展させる党になり、私も皆さんと一丸となって粉骨砕身の覚悟で走ります!」と叫んだ。大統領が全部忘れようとした「過ぎ去ったこと」とは一体何だろうか。50日も経たないうちに総選挙での大敗を忘れようとしているのか。国民によって、ムチでもなく棒で叩かれたようなものなのに、もうあざが消えてしばらくは叩かれることはないから、全部忘れてしまおうということだろうか。そのようなことに遭うと、自分を責め、臥薪嘗胆・切歯腐心するような平凡な人の行動様式とはかけ離れている。そうでなければ、大統領自身に向けられた疑わしい情況をすべて忘れろということだろうか。それともC上等兵殉職事件の捜査妨害が、自分の激怒から始まったという疑惑の視線を向けることを止めてほしいということだろうか。明確な脈絡もなく奇怪な言葉が大統領の口から出てくるものだから、あれこれ推測せざるを得ない。

 108議席の少数与党、20%の支持率にもかかわらず、尹大統領が持ちこたえられるのは拒否権のおかげだ。高麗大学法科大学院のイ・ジュ二ル教授は「大統領の拒否権の憲法的限界」という論文で、国会と大統領に与えられた民主的正当性は同等であるため、「政策的意見の相違」程度で大統領が拒否権を行使するのは、国会の立法権を侵害することだという見解を示した。また「野党多数のねじれ国会の場合、大統領が頻繁な法律案への拒否権行使で国会と対立し軋轢(あつれき)を起こすならば、国会は大統領に対する最後の牽制手段である弾劾訴追を活用するほかはないだろう」と主張した。尹大統領が拒否権を行使する度に、弾劾の大義名分が積み重なっていくわけだ。特に、大統領本人の利害関係が衝突する本人と家族対象の法律案に拒否権を行使することは、憲法が規定する平等と公正に反することだと指摘した。国会立法調査処も「大統領の私的な利害と衝突するという理由で拒否権を行使するのは、憲法上容認されがたい」という意見を示した。

 C上等兵特検法再議決の否決に抗議した海兵隊予備役らは、国会本会議場から追い出された後、「海兵隊員特検法を拒否した尹錫悦が犯人だ!」というプラカードを掲げた。2024年、大韓民国で「特検を拒む者が犯人」という文言は、今や政治的スローガンを越える言葉になった。「大統領弾劾」もタブーの垣根を越えた。C上等兵殉職事件の捜査妨害が、尹大統領の激怒から始まったという疑惑が深まっている状況で、C上等兵特検法の拒否は、自分を守ろうとするあがきだ。その試みを成功させるには、やらなければならないことが多い。まず、「海兵隊捜査団の捜査権限問題を指摘して叱った」という線を超えないよう、2023年7月31日の大統領室首席補佐官会議の出席した数十人の口を塞がなければならない。海兵隊の捜査資料が警察に移牒された後に回収された日、3回も電話で話したイ・ジョンソプ前国防部長官の口も塞がなければならない。C上等兵特検法が国会で再び表決される時、賛成しないように与党議員たちも引き留めておかなければならない。高位公職者犯罪捜査処の「無能」まで重なれば、もはや「天運」だ。このすべての条件と状況が思い通りに揃った時、尹大統領は自分の安危を守るのに「成功した大統領」になれるだろう。今後2年11カ月は、尹大統領にとってもあまりにも長い時間になるだろう。武運を祈る。

//ハンギョレ新聞社
キム・テギュ|土曜版部長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1143308.html韓国語原文入力: 2024-06-03 18:55
訳H.J

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