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[寄稿]人口急減を韓国の政治・経済的進化の分岐点としよう

登録:2024-04-30 08:32 修正:2024-04-30 09:46
ソ・ウォンヒ|行政学博士
ニューヨーク・タイムズ紙より//ハンギョレ新聞社

 「韓国は消滅しつつあるのか」との見出しを付けた昨年末のニューヨーク・タイムズのコラムは、「韓国の合計特殊出生率の低下(2023年は0.72)は、ペストが14世紀の欧州にもたらした人口減少を上回るだろう」と警告した。見出しそのものから感じられる語彙的ニュアンスどおり、欧州社会にとって20世紀の第1次、第2次世界大戦より人口減少の衝撃が大きかったペスト水準の人口学的災難が韓国社会の直面している現実であることを、このコラムは想起させてくれた。入試競争、男女対立、インターネットにはまった若者層など、韓国の人口減少の原因を分析し、それを他山の石としようというコラムニストの論理は、一見説得力があるように思える。

 しかし、果たして人口減少が必然的にその国の悲観的未来を決定するのかは疑問だ。『Smaller Cities in a Shrinking World(縮小する世界の小さな都市)』の著者アラン・マラックは、「これからは世界は成長の時代から縮小の時代へと変化するだろう」と予想する。人口も経済も世界も縮小する新たな時代史的流れが起こっているのだ。もちろん、人口はその国の未来の競争力を予想する重要な指標だ。しかし、人口減少の時代史的脈絡は異なる。マラックは「減少した人口が気候変動、技術革新などの様々な未来のリスクと機会にどのように対処し、生存していくかが重要だ」と述べる。

 『国家はなぜ衰退するのか』を書いたダロン・アセモグルとジェイムズ・ロビンソンは「ペストによる人口の急減は欧州の政治、経済的均衡を揺るがした決定的な分岐点」だったとし、「人口急減は将来の経済成長と民主主義の発展にとってのターニングポイントとなりうる」と主張する。14世紀の英国はペストによって人口の半数が失われた。当時の被支配階層であり働く階級であった農奴が貴重になり、彼らの権利向上のための制度が作られた。農奴は居住移転の自由と経済的自由を獲得したことで経済的地位が向上し、これが政治的には1688年の名誉革命、経済的には1780年の産業革命の社会的基盤となった。その結果、英国は世界的覇権国家への道を歩むこととなった。しかし、ペストで人口が急減した欧州のすべての国が飛躍の道を歩んだわけではない。東欧は封建領主たちが減少した農奴の労働力を補うために収奪システムを強化し、西欧の繁栄とは異なる道を歩むこととなった。

 では、ペストによる人口急減の衝撃を受けた英国が、災い転じて福となして政治的、経済的進歩を遂げることを可能にした土台とは何だったのか。アセモグルとロビンソンは「包摂的制度の力」だと答える。英国、フランス、スペインなどをはじめとする西欧諸国は人口急減を機として、少数の特権階層のみに機会が与えられていた社会から、誰もが才能を発揮できるよう動機と誘引を提供する社会へと転換を成し遂げた。一方、既存の特権層が多数を搾取する制度を維持した東欧は、辺境への道を歩むこととなった。すなわち、政治経済の公正さと平等を確保する方向へと制度を旋回したことが、英国などの西欧が繁栄の道を歩むという時代的流れを作ったのだ。

 制度的な分岐点がその国の運命を決定したのは東アジアも同じだ。19世紀の日本、中国、韓国はいずれも絶対王政国家だった。20世紀初めの日本の飛躍は、1868年の明治維新を通じて「産業化」という世界史的な流れに素早く乗った結果だった。日本は封建制度を廃止し、政治・経済制度を改革するとともに、軍需事業を育成した。一方、韓国は鎖国政策で近代化が遅れ、中国は1842年のアヘン戦争後、独自の近代化の推進力を失った。

 では、21世紀の欧州や日本などの先進国は、人口急減の時代的な流れにどのように備えているのだろうか。ドイツは2005年に移民法を制定し、職種とは関係なしに移民に門戸を開放した。日本は2016年に、外国人に対する不当な差別的言動の解消に関する法律「ヘイトスピーチ解消法」を制定し、外国人に対する嫌悪表現を規制している。外国人に対する差別のない政治、経済、社会的制度の基盤を作ったのだ。

 韓国も2007年に「在韓外国人処遇基本法」、2008年に「多文化家族支援法」などを制定し、包摂的社会に向けた制度的基盤を着実に固めてきている。しかし制度が作られた後も、外国人と自国民を平等に遇することが適切かどうかについては意見の相違が存在する。移民管理庁の新設をうたった2024年の政府組織法改正案が、韓国社会の包摂的制度の進展にとって決定的な分岐点となるかが重要だ。韓国は人口急減が予想される時期にある。しかし「韓国は消滅しつつあるのか」ではなく、「韓国は進化しつつあるのか」を自問しなければならない。縮小へと向かう時代においては、人口の急減は進化と発展のターニングポイントとなりうるからだ。その要は、経済的両極化の克服、多文化の受け入れ、ポピュリズムと結合した両極化した政治対立をどのように包摂的制度に取り込むかにかかっている。歴史は必然的なものではない。人口が急減した韓国の未来も同じであるはずだ。

//ハンギョレ新聞社

ソ・ウォンヒ|行政学博士 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/1138638.html韓国語原文入力:2024-04-29 18:53
訳D.K

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