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[コラム]死後の世界と核の傘=韓国

登録:2024-03-26 00:58 修正:2024-03-27 11:09
有事の際、米国は核の傘を広げるかという疑問の荒唐無稽さ 
独自の核武装の決断は対米「自主」というより「従属」につながる 
北朝鮮の核に対する被害妄想と北朝鮮抑止の欠乏感から脱すべき
尹錫悦大統領が昨年9月26日、城南のソウル空港で開催された軍創立75周年の国軍の日の記念式典であいさつしている=大統領室写真記者団

 死後の世界はあるのだろうか。生きている人は知りえず、死んだ人は教えられない。知る唯一の方法は死ぬことだが、死んだ人が死後の世界を見たのかは、生きている人には分からない。こんな話を持ち出したのは、「拡大抑止」と似ているからだ。

 拡大抑止とは「君が私の友人を攻撃すれば私は君に報復するぞ」と脅すことで、敵対勢力が自分の友人を攻撃できないようにする、という概念だ。「絶対兵器」と呼ばれる核兵器での報復という脅しが代表的な例だ。韓米同盟と北朝鮮との関係を例にあげてみよう。米国は世界最強の核保有国であり、韓国は非核国家であり、韓米同盟の共同の敵である北朝鮮は核兵器を持っている。そのため米国は、北朝鮮が韓国を核兵器で攻撃すれば核で報復を加えるぞと警告する。それによって北朝鮮の対南核攻撃を抑止し、同盟国である韓国を安心させるというわけだ。

 では、このような拡大抑止は機能するのだろうか。平時は機能する。北朝鮮であれ、いかなる国であれ、韓国に核攻撃を加える国はない。では戦時はどうか。戦争が勃発して北朝鮮が韓国に核攻撃を加えれば、米国は北朝鮮に核で報復してくれるだろうか。100%「してくれる」と確信はできない。戦争が起きてみないと分からないからだ。しかし、これは抑止に対する裏切りだ。一般的な抑止の趣旨は戦争の防止であり、拡大抑止の代表である核の傘の趣旨は核戦争の防止だ。だから戦争が勃発し、核兵器が使用されるということは、抑止そのものが失敗したことを意味する。死後の世界が知りたいからといって死ぬことはできないように、有事の際に拡大抑止が機能するかを確認するために戦争するわけにはいかないではないか。

 だから、私たちは北朝鮮に対する抑止に関して「能力」と「感じること」を区分して考える必要がある。能力の観点からみると韓米、あるいは韓米日の北朝鮮に対する抑止力は強大だ。韓国の同盟国であり拡大抑止を公言している米国の軍事力は世界最強だ。韓国も莫大な国防費の投入により、今年の軍事力は世界5位になるほど強化されている。再武装を急いでいる日本も攻撃用兵器の導入を本格化させている。朝鮮半島有事の際には戦力を供給するとして韓米合同演習に参加している国連軍司令部の構成国も、10カ国を超える。これらの国々が直接・間接的に参加する合同演習の規模は圧倒的な世界1位だ。これほどであれば、北朝鮮に対する抑止力は不足どころか有り余っていると言っても過言ではない。

 にもかかわらず抑止力が足りないと訴える声は依然として強い。それは能力が足りないのではなく、足りないと感じているのだ。最も大きな理由は、米国の拡大抑止公約を「100%確信できない」という不信だ。「米国はソウルを救うためにワシントンの犠牲を甘んじて受け入れるのか」という疑問がこれを象徴する。核兵器とこれを飛ばす大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有している北朝鮮に対して、米国が拡大抑止を実際に展開するのは難しいだろう、ということだ。だが、このような問いがそもそもおかしい。米国が約束を守るかどうかを確認する前に、大韓民国はすでに相当な被害を受けるはずだからだ。

 ここで私たちは自問する必要がある。「北朝鮮に対する抑止能力は十分なのに絶えず欠乏感に苦しむことが、果たして有益なのか」。決してそうではない。まず、欠乏感を満たすために北朝鮮に対する軍事力と軍事態勢を強化すればするほど、韓米同盟に比べて劣勢にある北朝鮮はよりいっそう核の高度化にしがみつくだろう。このように軍拡競争と安保のジレンマが悪循環の沼にはまれば、ダモクレスの剣をつるしている一本の馬の毛は揺れ、細くなるだろう。戦争を抑止しようとする行動が、むしろ戦争の危機を高める恐れがあるということだ。また、すでに強力な米国の拡大抑止をさらに強化してほしいと韓国がしがみつけばつくほど、米国に突き付けられる不当な請求書に堂々と対応することが難しくなる。最近はじまった防衛費分担金交渉から、半導体をはじめとする多くの経済懸案に至るまで、米国の利己主義的な要求に発言権を行使できなくなっていく。

 そのため、ある人は独自の核武装を主張しており、これに同調する人も多い。しかし、独自の核武装の現実性と妥当性は確保したとしても、韓国が核武装を決意した瞬間、対米従属はさらに強まらざるを得ない、という逆説を理解することが重要だ。核武装を可能にするには米国の同意、特に韓米原子力協定の改正が欠かせない。また、韓国に対する経済制裁が行われるかどうかについても、米国の判断が非常に重要になる。韓国が北朝鮮に匹敵する核能力を確保するには10年前後は必要だが、その間に朝鮮半島の危機は高まり、それは韓国が在韓米軍と米国の拡大抑止をさらに必要とすることを意味する。そのような中で米国が不当な要求をしてきた場合、韓国は拒否できるだろうか。

 南北関係と朝鮮半島情勢が大きく変わりつつある今日、北朝鮮の核に対する過度な被害妄想と北朝鮮に対する抑止力の欠乏感から脱することが切実になっている。そうしてはじめて、彼を知り己を知ることが可能になる。備えあれば憂いなしの能力を備えていることと同じくらい、その能力の誇示を自制しつつ、平和と安保を守るもう一つの道が外交にあることを自覚できるようになる。

チョン・ウクシク|ハンギョレ平和研究所所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1133648.html韓国語原文入力:2024-03-25 06:41
訳D.K

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