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「偶発的衝突が核戦争呼ぶ可能性も…南北対話が困難ならまず自制を」

登録:2024-01-23 06:33 修正:2024-01-23 08:26
インタビュー|ムン・ジョンイン延世大学名誉教授 
台湾、頼清徳氏の当選にも現状維持の見通し 
NLL・対北朝鮮ビラ散布など導火線になる恐れも 
トランプ氏が当選すれば、韓米同盟に大きな打撃になる可能性も
ハンギョレ統一文化財団のムン・ジョンイン理事長が16日、ソウル麻浦区の金大中図書館でインタビューに応じている=カン・チャングァン記者//ハンギョレ新聞社

 朝鮮半島情勢が深刻さを増している。米国の一部の専門家は「朝鮮戦争以来最大の危機」という診断も出している。「このままでは戦争が勃発するかもしれない」という市民の不安も高まっている。にもかかわらず、韓国と北朝鮮の指導者たちは「チキンゲーム」を止めない。「先に戦争を起こすつもりはないが、避けるつもりもない」といった強硬発言と武力示威の応酬を続けている。一方、1月13日の台湾総統選挙で民主進歩党(民進党)の頼清徳候補が当選し、両岸関係と米中関係、そして東アジア情勢に及ぼす影響に関心が集まっている。また「巨大なラグビーボール」と呼ばれるドナルド・トランプ前大統領が今年11月の米国大統領選挙で勝利する可能性も排除できない。

 朝鮮半島と国際問題の専門家であるムン・ジョンイン延世大学名誉教授は、「南北が計画された戦争を起こす可能性はほとんどないが、偶発的衝突が発生し、戦争に拡大して核戦争に飛び火する可能性が最も懸念される」と強調した。そして、「南北当局の自制と尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の予防外交が切に求められる状況だ」と力を込めた。ハンギョレ統一文化財団理事長も務めるムン教授とのインタビューは1月16日、金大中(キム・デジュン)図書館にある延世大学統一研究院で行われた。

-台湾総統選挙で民進党の頼清徳候補が当選した。両岸関係や米中関係、そして東アジア情勢にどのような影響を及ぼすとみているか。

 「現状が維持されると思う。米国のジョー・バイデン大統領も頼清徳副総統が当選した直後、『米国政府は台湾の独立を望まない』と明確に発言し、共和党の大統領候補として有力視されるドナルド・トランプ前大統領も『台湾防衛を約束するつもりはない』と釘を刺した。これは、米国が台湾の独立を煽り、両岸の危機を助長する意図がないことを意味する。また、頼清徳次期総統も、これまで総統選挙の局面で両岸問題を100%活用してきたため、これからはむしろ状況を安定させる方向に進むのではないかと思う。米中関係も昨年11月のサンフランシスコ首脳会談後、比較的安定しており、最近では双方の軍部指導者の間で意思疎通のチャンネルがかなり活性化しているため、台湾海峡や南シナ海で現状維持を破る軍事的衝突のようなものがあるとは思えない」

-台湾の総統選が韓中関係にもさらなる負担として働く可能性もあるが、尹錫悦政権は韓中関係の管理と改善に向けてどのような努力をすべきだとみているか。

 「韓中関係に負担が大きくなる可能性もある。一つ希望が持てるのは、チョ・テヨル新外交部長官が、韓米同盟を強化しながら、中国との関係も改善するという立場を示したことだ。このような発言が履行されれば、中国の立場も変わる可能性がある。ところが、それに影響を及ぼすもう一つの要因がまさに南北関係だ。今のように硬直し悪化している状況で、北朝鮮の脅威に対処するために韓米同盟と韓米日3国の協力を強化すれば、中国は自分を狙っているのではないかという疑念を抱かざるを得ないだろう」

-年明けから南北関係が深刻な展開を見せている。まず、南北関係を「統一を目指す特殊な関係」から「敵対的で交戦中の二国間関係」と位置づけた北朝鮮の思惑は何だろうか。

 「南北関係を民族関係ではなく、国家関係に正常化するという意味ではないかと思う。ここで逆説的なのは、南北関係の正常化は尹錫悦政権も掲げていたものだが、これを北朝鮮が先に公言したことだ。韓国の保守陣営は、以前から統一部をなくし、外交部に統合すべきだと主張してきた。南北関係を『国家対国家の関係』とみなす立場だ。それを金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が果敢にも先制的に実践しているのは驚くべきことだ。金委員長は、北朝鮮が『統一を目指す特殊関係』という枠組みで得をしたことがなく、むしろ韓国の吸収統一のチャンスを高めるだけだとみているようだ。敵対的で交戦中の二国間関係と規定したのも、このような現実認識の反映だ。一種の反射的動きで内部の結束を高めることを狙っているようだ」

-キム・ヨジョン労働党副部長が1月2日の談話で、「文在寅(ムン・ジェイン)、じつに賢くて狡猾な人だった」と述べ、会った時に交わした言葉とその後の行動が一致してないとして非難したが、文在寅大統領の外交安保特別補佐官を務めた方(ムン・ジョンイン教授)として、これをどうみるか。

 「北朝鮮からすると、『板門店(パンムンジョム)と平壌(ピョンヤン)で両首脳が板門店宣言と平壌宣言を採択し、綾羅島(ヌンラド)競技場に集まった15万人の平壌の群衆の前で非核化と平和の約束をしたのに、韓国が履行したことは一つもないではないか』という不満が強いかもしれない。金剛山観光と開城(ケソン)工業団地の再開、鉄道・道路連結など合意事項が履行されず、さらにタミフルの支援も実現しなかった。当時、文在寅政権は第2回朝米首脳会談を控え、南北関係が先に進むと韓米協力に問題が生じかねないと考えたようだ。そのうえ、北朝鮮側が韓国側の提案を受け入れ『シンガポール宣言を米国が誠実に履行すれば、寧辺(ヨンビョン)の核施設を完全かつ永久に廃棄する』という内容を2018年9月の平壌宣言に盛り込んだのも画期的な決断だった。2019年2月のハノイ朝米首脳会談でこれを具体化し、朝鮮半島非核化と平和体制の構築の突破口を見出そうとした文在寅政権にとっては、米国との十分な協議と説得が最大の課題だった。このため、トランプ政権と歩調を合わせようとしたために、南北関係改善の動力を失ったのではないかと思う。今振り返ってみると、明らかに敗着だった」

-最近、朝鮮半島戦争危機説が広がっている。米国の著名な専門家であるミドルベリー国際問題研究所のロバート・カーリン研究員とジークフリード・ヘッカー博士が先日、『北朝鮮が戦争を決心したようだ』という趣旨の主張をしたが、これについてどうみるか。

 「計画による、いわゆる朝鮮戦争のような大規模な戦争もあり得るということだが、実は金委員長の発言は条件節だ。『戦争をせざるを得ないなら、避けることなく、核を含むすべての兵器を動員して韓国を平定し、焦土化し、共和国の領域にする』という趣旨だ。逆に言えば、少なくとも自分たちが先に戦争を仕掛けることはないという意味にもとれる。ところが、尹錫悦政権も同じことを言っている。『北朝鮮が挑発すれば、直ちに、強く、最後まで報復し、北朝鮮政権は終末を迎えることになるだろう』と主張している。これもまた条件節だ。つまり、両方とも計画に基づく先制攻撃の意思はないと考える」

-偶発的衝突と戦争拡大のリスクはどうみるか。

 「それが懸念すべきことだ。偶発的な衝突が局地戦、全面戦、さらには核戦争に飛び火する可能性があるからだ。特に、西海(ソヘ)上の北方限界線(NLL)問題が再び浮上している。金委員長は最近、NLLを認めないとし、自分の領海にほんの0.001ミリでも入ってきた場合、戦争挑発とみなすと脅しをかけた。こうなればなるほど、韓国政府のNLL死守への意志はさらに強くなるだろう。そのうえ、南から北に風が吹く時期になって対北朝鮮ビラ散布まで始まれば、偶発的衝突の可能性はさらに高まるだろう。衝突が発生すれば、北朝鮮の宣言的な脅しと尹錫悦政権の攻勢的な交戦規則が相まって、戦争の拡大に飛び火する可能性もある。北朝鮮よりはるかに火力の強い韓米連合戦力が共同で対応した場合、北朝鮮は体制および国家存続に対する脅威と捉え、それが核武力の第2の任務である戦術核の使用を考える契機につながりかねない」

ハンギョレ統一文化財団のムン・ジョンイン理事長が16日、ソウル麻浦区の金大中図書館でインタビューに応じている=カン・チャングァン記者//ハンギョレ新聞社

-米国が管轄する国連司令部と韓米連合司令部が戦争拡大を防ぐ可能性もあるのでは。

 「そういうこともありうるが、南北双方が自衛権の行使だと主張し、武力の使用を短時間で急激に増強した場合、米国が戦争拡大を防ぐことはかなり難しくなる。その上、過去には偶発的衝突が発生した際、南北の疎通チャンネルがあり、戦争拡大の防止に貢献したが、今はそのような疎通チャンネルまでなくなった。判断を誤り、誤解が生じる可能性が高くなるにつれ、軍事的衝突の危険性も高くなるのは明らかだ。民間外交も存在しない状況であり、米国、中国が介入・中裁してくれる可能性も大きくないと思われる。実に懸念すべき状況だ」

-韓米が、北朝鮮核問題の完全な解決よりも、軍備統制を目標に北朝鮮と対話に乗り出すべきだという主張もある。

 「そのような主張の論理は、『北朝鮮が今、核兵器を保有しているということは現実ではないか。それは認めたうえで始めよう。ところが、完全な非核化を対話の条件であると同時に目標に掲げたら北朝鮮が応えるわけがない。だから今すぐは完全な非核化よりも、北朝鮮がさらに多くの核を持たないようにすることをより重要な戦略的目標にすべきだ』といったものだ。このような主張にも一理あると思う。ヘッカー博士が主張するように、『北朝鮮の核兵器増強を止め、漸進的に削減すると同時に、長期的に廃棄するアプローチ』が実用主義的解決策になり得るだろう。そのような点で、朝米国交正常化を先制的カードとして利用し、核軍備統制と核軍縮を具体化することが危機の拡散を防ぐ現実的アプローチだという主張に注目する必要がある。もちろん北朝鮮も米国との関係正常化に伴う行動と措置を示さなければならない」

-今年11月の米大統領選挙でトランプ前大統領が当選した場合、朝鮮半島や東アジアにどのような影響を与えるだろうか。

 「まず、トランプ氏は自分の交渉力を強く信じる人だ。今も金委員長についてかなり友好的な発言をしていることから、トランプ氏が当選すれば、朝米首脳間の対話がすぐに始まる可能性もある。こうなると、尹錫悦政権にとってはかなり厳しくなるかもしれない。そして、韓米同盟に与える打撃も大きいだろう。一方的に『与える同盟』を続けるつもりはないというのがトランプ氏の政策だから、防衛費分担問題も再び台頭するだろう。また、トランプ氏は朝鮮半島戦争に関与することを望まないし、韓米合同演習や朝鮮半島における米国の戦略兵器の展開にかかる費用も負担するよう求めるかもしれない。米国の拡大抑止の強化を明示したワシントン宣言および韓米日3カ国協力にも大きな穴ができかねない。こうなれば、韓米同盟にすべてをかけてきた尹錫悦政権はかなり困惑するだろう」

-尹錫悦政権がこれだけは肝に銘じてほしいことがあるとしたら。

 「戦争だけは避けなければならない。戦争に勝つよりも、戦争を避ける外交安保政策を展開してほしい。大統領と政府の最も基本的な責務は国民の生命と安全、そして財産を守ることであり、民主主義では国民が国家の主であることを一時でも忘れてはならない。そして、尹錫悦政権と北朝鮮の金正恩政権には『南北が互いに自制し、慎重でなければならない』ことをぜひ伝えたい。対話が今すぐ難しいなら、自制することから始めるのが賢明だ。南北間の軍事訓練の下方修正や暫定的な中断、南北通信線の復元、南北・朝米対話チャンネルの再稼動など、信頼構築措置を取らなければならない。9・19南北軍事合意も復元も欠かせない。これらの措置が予防外交を構築していく出発点になると思う」

チョン・ウクシク|ハンギョレ平和研究所所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1125315.html韓国語原文入力: 2024-01-22 13:14
訳H.J

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