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[コラム]韓国総選挙を戦場にした「復讐の血戦」のファンタジー

登録:2024-03-25 06:39 修正:2024-04-01 11:51
尹錫悦検察総長に対する任命状の授与式が開かれた2019年7月25日、尹総長とチョ・グク当時大統領府民情首席が話を交わしている=大統領府写真記者団//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領とチョ・グク元法務部長官の「リターンマッチ」だ。いつからか総選挙がそうなってしまった。

 チョ・グク元長官が控訴審でも懲役2年の実刑を言い渡された時、今の状況を予見した人がいるだろうか。「非法律的な形での名誉回復」は特有の大言壮語だと思われていた。ところが、意外な「福の神」が現れた。野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表が大統領選挙公約を破棄し、衛星政党を作ったことで、チョ元長官は大きな反射利益に手にした。それでも針穴に糸を通すようなものだった可能性を「15議席獲得を目指す」(ファン・ウンハ)までに増幅させたのは尹錫悦大統領だ。

 尹大統領がイ・ジョンソプ前国防長官をオーストラリア大使に任命したのはミステリーだと言われている。総選挙が目前に迫っているのに、どうして自分の首を絞めるようなことをしたのかと、不思議がられている。だが、それは何気なく犯したミスではなく、必然の中で偶然が敗着を招いた結果だ。「尹大統領が『影』を見て大驚失色(非常に驚き恐れて、顔色が青ざめること)したようだ」。大統領室と高位公職者犯罪捜査処(公捜処)、検察の前・現特殊通の話を聞いてみると、大体予想がつく。

 イ前国防部長官が大使として検討されたのは、昨年10月の長官辞任直後からだ。フランスやポーランドも取りざたされたが、最終的にオーストラリアに決まった。「イ長官は海兵隊員C上等兵死亡事件の『キーマン』だ。VIP(大統領)の運命が彼にかかっている。口止めをしたい時、大企業はお金を差し出す。公務員ならば、『ポスト』以外考えられないだろう」

 公捜処が捜査に乗り出さなければ、大使の任命は総選挙後になっていただろう。公捜処は1月17~18日、海兵隊司令官などを家宅捜索した。その直後、処長と次長が相次いで任期満了で去り、指導部の空白状態になった。捜査チームが独自に動ける空間ができた。ところが、捜査チームには「親尹(尹大統領支持勢力)」が全くいない。大統領室は捜査状況を把握できず、焦っていた。

 「判例に照らして、イ・ジョンソプの行為のうち少なくとも2つは職権乱用になる。警察に送った記録の回収と『誰と誰は外せ』という指示」。関連者の供述もすでに多く確保されている。イ前国部防長官の指示が自分の意思か、それとも誰かに促されたのかを明らかにする問題だけが残っている。「総選挙前にイ・ジョンソプの拘束令状が請求されるのではないか、早合点したようだ。検事なら当然『入庫』(拘束)しようとしたはずだから」。一旦拘束されれば、10人に9人は動揺する。「独泊」と「自白」の間で悩む。「検事尹錫悦」が誰よりもよく知っている。「パズルを完成してほしくなければ、ピースを外すしかない」

 「(尹大統領夫人の)ディオールバック授受疑惑」に続き、尹錫悦流の公正と正義が再び素顔を現した。過去、チョ・グク元長官のダブルスタンダードが今日の尹大統領を作り上げたなら、今度は尹大統領のダブルスタンダードがチョ元長官を復活させるアイロニーが広がっている。しかし、今のチョ元長官は4年前に「潔白を訴えていた」人とは違う。長い一審、二審裁判で無罪を立証できず、今は最高裁判決に命運をかけた被告人に過ぎない。

 チョ元長官の子どもの入試不正は7件の容疑事実のうち6件に有罪が言い渡された。小川の龍(トンビが生んだ鷹という意味)ではなく、「フナやカエル、ザリガニとして生きても幸せな世の中を」作ろうという甘いツイートは、荒唐無稽なファンタジーであることが明らかになった。大統領府民情首席時代に娘が受け取った釜山大学医学専門大学院の奨学金600万ウォン(約67万円)は不正請託禁止法違反と判明した。大統領府特別監察班に対する監察中断指示も有罪(職権乱用・権利行使妨害)と結論が出た。法律審の最高裁判所では、これ以上事実関係と量刑を取り上げない。

 控訴審の判決文にこのような一節が出てくる。「(チョ・グク被告人が)客観的証拠に反する主張を展開し、その誤りを認め、心から反省する姿を見せなかった」。二審の裁判部が一審の量刑を削らなかった理由だ。そのようなチョ元長官が尹大統領に向かって「羞悪の心(正しくない行動を恥じて憎む心)がないようだ」と非難している。

 そもそもチョ元長官は尹大統領を「審判する資格がない」(緑の正義党)。 判決文にきちんと書かれている通りだ。いかなる美辞麗句を並べ立てても、自分が犯した不公正と不正義は隠されない。検察特捜部を過去最大規模に拡大し、尹大統領をソウル中央地検長、検察総長までに破格の抜擢をした「養虎遺患(敵である者を許してしまい、後に災いの元になるものを残すこと)」の原罪も否定できない。大義名分のない政治参加に、恨みを晴らすこと以上の意味はない。

 チョ元長官を担ぎ上げた支持率は、尹大統領に向けた敵愾(てきがい)心から発源する。イ・ジェミョン代表に満足できなかった人々が、チョ元長官を中心に集結している。礼儀、恥、常識といった古来の道徳律は、早くも(今回の総選挙から)追放された。「大学入試機会均等選抜」を掲げる「政治家チョ・グク」の自家撞着も全く気にしない。被告人と被疑者が並んでいる祖国革新党の比例候補の面々さえ、懸念の対象ではない。彼らに向かってチョ元長官は「ハンマー」と「突撃」を叫んでいる。絶滅したスローガンの前に理性が足を踏み入れる空間はない。

 二人の長い悪縁と復讐の血戦のファンタジーが選挙を飲み込む勢いだ。だからこそ、「総選挙後」がさらに心配だ。

//ハンギョレ新聞社
カン・ヒチョル│論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1133600.html韓国語原文入力:2024-03-24 18:49
訳H.J

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