本文に移動

[コラム]「専攻医ストライキ」に強硬対応する韓国政府、その不快な既視感

登録:2024-03-06 06:29 修正:2024-03-06 08:53
韓国政府の医学部増員に反発した専攻医らの離脱で医療空白が続いている5日、光州東区の朝鮮大学校病院で医療スタッフが移動している/聯合ニュース

 大学病院の専攻医である息子が尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の熱烈な支持者だったが、今や猛烈な「反尹(錫悦)」になったという知人の話に思わず苦笑した。貨物連帯ストライキなどに対する強硬対応に声援を送ったのに、今度は自分がそのターゲットになってしまったから、さぞかし当惑しているのだろう。おそらく多くの専攻医たちが同じ心境だろうが、世論はその真逆だ。これまで30%台に留まっていた尹大統領支持率は最近「医師ストライキ」のおかげで40%台への進入を目前にしている。韓国ギャラップが先月27~29日、全国の18歳以上の1001人を対象に調査した結果によると、尹大統領の職務遂行を支持するという回答は39%だったが、その理由の第1位が「医学部定員の拡大」(21%)だった。医学部の増員に反対する医師たちを強く追い詰める姿に世論が呼応したのだ(「決断力/推進力/根気」が尹大統領を支持する理由3位だった)。支持率が40%に迫ったのは、昨年7月第1週の調査(38%)以来、約8カ月ぶりのことだ。就任初期(50%)以降、最も大幅な支持率の持ち直しだ。

 おかげで、尹大統領は最大のアキレス腱だった「(夫人の)キム・ゴンヒ(女史)ブランドバック授受」についてはもう心配していない様子だ。テレビニュースに登場する尹大統領の姿は自信に溢れている。4日、慶北大学で開かれた民生討論会で、尹大統領は「医学部増員に合わせて良い医師を育てる施設などを支援してほしい」という慶北大学総長の要請に対し、「積極的に支援する。心配しなくても良い」と豪語した。大統領の自信は「トリクルダウン効果」を引き起こす。ハン・ドクス首相は「(専攻医が)不法に医療現場を空ける状況が続けば、憲法と法律に則り政府に与えられた義務をためらうことなく履行する」と述べており、イ・サンミン行政安全部長官は「3日までに復帰しない専攻医は法と原則に従って厳重に処理する」と脅しをかけた。警察は大韓医師協会の幹部らを出国禁止にし、事務室などを家宅捜索した。検事出身の大統領が指揮する政府らしく、「法律通りに!」一網打尽する勢いだ。

 しかし、「法律通りに!」がいかに政治をダメにするのかは、前政権の「積弊捜査」がよく示している。文在寅(ムン・ジェイン)政権は李明博(イ・ミョンバク)政権と朴槿恵(パク・クネ)政権時代に積もった「積弊」を清算するとし、「尹錫悦ソウル中央地検長」が率いる検察に捜査を任せた。「国政壟断」や「司法壟断」、「文化界ブラックリスト」などにかかわった人たちは全員検察に呼ばれ取り調べを受けた。このうち、責任者級の人物はほとんど例外なく処罰を受けた。検察に召喚された彼らに拘束令状が発付され、拘置所に向かう姿は、実際に積弊が清算されるような印象を与えた。世論の反応も良かった。2018年1月、韓国ギャラップが「JTBC」の依頼で調査した結果、朴槿恵・李明博政権関係者たちに対する捜査を「政治報復」と捉えるという回答は22.5%に過ぎず、67.4%は「積弊清算」と考えると答えた。文在寅政権の支持者たちに「尹錫悦検察」は重要な国政課題の積弊清算を最もよく遂行する機関として認識された。

 しかし、前政権の関係者に対する捜査は、野党の強い反発を招いた。与党と野党は、互いを「ライバル」ではなく、政界から追い出すべき敵対勢力とみなした。対話と妥協による「政治」は姿を消した。国会がオールストップしたため、不動産や教育、貧富格差、財閥改革など制度的改革が必要な本当の積弊には触れることすらできなかった。検察捜査で行われた「人的清算」も、検察出身の大統領が政権を握った後、すべて赦免したため、原状に戻った。積弊捜査はこのように完璧な「詐欺劇」だった。

 積弊捜査で最大の恩恵を享受したのは検察だ。捜査の最高責任者は大統領になり、「ナンバーツー」は与党の非常対策委員長、捜査に参加した検事たちは政府の要職に起用された。検察は尹錫悦政権の国政運営の中心を担う資源になった。彼らは、自分が最も得意なやり方で医学部増員を推し進めようとしている。「政府は医師に勝てない」など、一部の医師の極端な言動は格好の焚き付けだ。「医療界の積弊」に嫌気がさした国民は、おそらく検察の捜査に声援を送るだろう。医協の幹部らが召喚され、拘束され、裁判を受ける姿は、医療界の積弊が清算されるような印象を与えるだろう。検察の権力はさらに強くなるだろう。あまりにも見慣れた場面ではないか。

 検察捜査にまただまされないためには、専攻医のストライキに対する強硬対応に先立ち「政治」をするように要求すべきではないだろうか。「救急救命センターのたらい回し」や「開院前の小児科前の長蛇の列」、地域医療の崩壊などを防げる医療改革のために、対話と妥協の本当の政治をすべきだと。

//ハンギョレ新聞社
イ・チュンジェ|論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1130959.html韓国語原文入力:2024-03-05 18:31
訳H.J

関連記事