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[コラム]ポスコは権力の「戦利品」ではない

登録:2024-01-08 00:32 修正:2024-01-08 08:06
ポスコグループのチェ・ジョンウ会長が2022年の定期株主総会で株主たちに挨拶している=ポスコ提供//ハンギョレ新聞社

 ポスコのチェ・ジョンウ会長が3期目への挑戦をあきらめた。尹錫悦(ユン・ソクヨル) 政権の圧迫のためというのが大方の見解だが、ポスコやチェ会長いずれにとっても悪い選択ではないと思う。

 10年ほど前のことだ。ポスコのA会長とプライベートで会ったことがある。政権交代直後、敏感な時期だった。失礼を承知の上で申し上げるとして、辞任を勧めた。新政権が間もなく会長を中途退陣させ、自分の好みに合う人を座らせようとするはずだから、その前に辞任した方が良いと言った。現職会長が「セルフ再任(自分を次期会長として優先的に審査する制度)」構造だとして批判されていた最高経営者(CEO)選任手続きの改善、コネを排除して力量、資質、リーダーシップに優れた次期CEOの選任も同時に注文した。ポスコのCEOが権力の戦利品に転落した暗い歴史に終止符を打ち、国民に拍手されながら、後輩たちに尊敬されるCEOになるべきだと助言した。しかし、残念ながら、その助言は受け入れられなかった。A会長は結局、数カ月も経たないうちに権力の圧力に押され、途中で辞任した。

 最近のポスコの状況もさほど変わらない。尹錫悦政権はこれまでチェ会長に対し、露骨な退陣圧迫を加えてきた。大統領と同行する海外経済使節団や経済界の行事の時、尹政権は彼をすべて排除した。セールス外交を前面に押し出し、他の財閥トップたちは度が過ぎるほど呼びつけてきたのに、財界5位のポスコの会長だけを「仲間外れ」にする理由は誰の目にも明らかだ。

 ところが、チェ会長は意外な行動を見せた。権力に屈せず、会長の任期を全うするという粘り強さを示した。ポスコの会長が任期満了まで勤め上げたのは、1993年以来31年ぶりのことだ。2代目のファン・ギョンロ会長を皮切りに、チョン・ミョンシク、キム・マンジェ、ユ・サンブ、イ・グテク、チョン・ジュニャン、クォン・オジュン会長まで、誰も例外ではなかった。権力はあらゆる手段を動員してチェ会長の弱点を探し出したはずだ。チェ会長がこれまで耐えられたのは、逆にやましいところがないことを裏付けている。

 さらにチェ会長は昨年末、現職会長の再任優先審査制を廃止し、現職会長特恵論を解消した。そして今度は3期目への挑戦をあきらめた。約10年前、A会長に筆者が勧めた内容を、チェ会長自ら実行に移したのだ。チェ会長のこの5年間の実績からすると、3期目に挑戦する資格は十分だ。二次電池素材、エネルギー、水素など未来新成長事業に対する投資でポスコを鉄鋼企業からカーボンニュートラル(炭素中立)時代に合う環境にやさしい未来素材企業に変貌させる足場を確保した。3期目を諦めたのは、権力が介入する素地を遮断するために「身を殺して仁を成す」勇断だ。

 ポスコは対日請求権資金を含む国民の血税で建てられた国民企業だ。以後50年余りの間、「産業のコメ」である鉄で国家に貢献するという「製鉄報国」の理念で、経済発展に重要な一翼を担ってきた。だが、パク・テジュン初代会長が1992年、大統領選挙で金泳三(キム・ヨンサム)大統領を支援しなかったという理由で追い出されて以来、ポスコのCEOの「暗い歴史」が続いた。2000年の民営化以後、政府の株式が全くない民間企業に生まれ変わったが、政権の人事介入と利権獲得は止まらなかった。

 ポスコは地政学的危機と米中覇権競争の激化、サプライチェーンの再編、グローバル景気後退、鉄の生産方式に根本的な変化を要求する気候危機まで、数多くの挑戦に直面している。資格もなく、権力によって会長の座に座らされた最高経営者が、投資家に会社のビジョンをまともに提示できる人とみなされるだろうか。会社の中でも威信を保つことができるだろうか。最高経営者が市場と会社内部で信頼されない企業が、うまくいくはずがない。ポスコと類似したCEOの暗い歴史を経験してきた通信業界の元祖のKTが業界1位から転落したのに続き、2位の座まで危ぶまれているのは偶然ではない。

 73年の歴史を持つ日本製鉄は他山の石だ。経営陣は会長と社長、6人の副社長で構成されているが、最高経営者は社長が務め、次期社長は副社長の中から選任する伝統が揺るぎなく続いている。オーナーのいない企業である日本製鉄が世界トップクラスの鉄鋼会社として健在な背景には、公正で透明なCEO継承システムがある。

 チェ・ジョンウ会長の任務はまだ終わっていない。社外取締役で構成されたCEO候補推薦委員会を助け、3月の株主総会で独立的に力量と資質、リーダーシップを備えた後任の最高経営者を選任しなければならない。権力とのコネで会長の座を狙う候補は内部と外部問わず、断固として排除すべきだ。後継者育成プログラムまで含めた完全な継承システムの構築は、次期経営陣の課題だ。退職役員の集まりである重友会も心強い支援軍にならなければならない。

 ポスコのCEOの暗い歴史に終止符を打つためには、政権の認識転換が欠かせない。尹錫悦大統領は市場と民間中心の経済を標榜してきた。だが「セルフ再任」の遮断を名目にKTとウリィ銀行に続き、ポスコにも国民年金を前面に出して介入している。ポスコがセルフ再任特恵の素地をなくした状況では、名目の立たないことだ。

 尹大統領は最近、韓国株式が相対的に低評価される「コリア・ディスカウント」解消を強調した。本当にコリア・ディスカウントを解消したいのならば、租税の公平性に反する金融投資所得税の廃止ではなく、財閥トップの横暴を防ぐと共に、政府が民間企業の人事に関与する後進的な官治を清算すべきだ。世界10位の経済大国である韓国の代表企業ポスコとKTの会長交代時期が政権交代期と正確に一致するミステリーを、これ以上どうやって説明できるだろうか。

//ハンギョレ新聞社
クァク・ジョンス|ハンギョレ経済社会研究院先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1123292.html韓国語原文入力:2024-01-07 20:15
訳H.J

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