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[寄稿]終戦宣言と反国家勢力

登録:2023-07-31 01:04 修正:2023-07-31 07:38
大統領の言葉どおりなら、終戦宣言を通じて朝鮮半島の非核化と平和体制を成し遂げようとする人々は「自由大韓民国を崩壊させようとする反国家勢力」になるわけだ。いくら大韓民国の大統領制が勝者独り勝ちから抜け出せない構造だとしても、かなりの有権者と政治勢力が支持した政策方向を体制の敵とみなすのは容認できない。 

ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授
朝鮮戦争停戦協定70年を迎え、尹錫悦大統領が27日、釜山海雲台区の「映画の殿堂」野外劇場で行われた「国連軍参戦の日、停戦協定70年記念式典」で記念演説をしている/聯合ニュース

 7月27日は朝鮮半島で戦争が止まってから70年になる日だった。1953年7月27日に結ばれた停戦協定第4条60項には「双方の関係政府に停戦協定の効力が発生してから3カ月以内に政治会談を招集し、外国軍隊の撤退と朝鮮半島問題の平和な解決問題を協議することを建議する」と記されている。このような建議にもかかわらず、政治会談は失敗に終わり、朝鮮半島では、少なくとも原則においては、いまだ戦争が続いている。おそらく同族間の紛争としては世界で最長といえるだろう。実に不幸なことだ。

 停戦協定70年に対する見方も様々だ。韓国社会の一部では「70年間にわたる戦争を終わらせることこそが、時代の常識であり歴史の召命」だとして、終戦宣言の採択による平和協定への転換を求めている。米国のワシントンでも停戦70年を迎え、朝鮮戦争の完全な終結を求める朝鮮半島平和法案が米下院で発議された。同法案を発議した民主党のブラッド・シャーマン議員と一部の在米韓国人は最近、終戦宣言を明記した「板門店宣言」(2018)を支持する集まりを開き、南北関係の改善および軍事的緊張緩和、恒久的平和体制の構築、朝鮮半島の非核化と朝米関係の改善などを求めた。

 一方、韓国政府は停戦協定70年よりも韓米同盟70年に力点を置いている。核を保有する北朝鮮との終戦宣言や平和協定を結ぶのはあり得ないことであり、北朝鮮に対する軍事的抑止と韓米同盟の強化が唯一の代案だと主張している。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は特に、終戦宣言に対してかなり敵対的な認識を示している。今年1月11日、外交・国防部の年頭業務報告の冒頭発言で、尹大統領は「終戦宣言などといった相手の善意による平和は、持続不可能な偽の平和だ」と切り捨てており、6月28日の自由総連盟創立記念行事では「反国家勢力は核武装を高度化する北朝鮮の共産集団に対する国連安保理制裁の解除を訴え、国連軍司令部を解体する終戦宣言を唱えている」と批判した。

 尹大統領のこのような批判には、二つの深刻な問題点がある。一つ目は客観的事実に関することだ。2007年の10・4南北首脳宣言に続き、2018年の4・27板門店宣言には、その年中に終戦宣言を採択し、停戦協定を平和協定に切り替えるために努力するとともに、3カ国または4カ国協議を積極的に進めるという内容が含まれていた。終戦宣言は朝鮮半島平和体制を作っていく重要な入り口の役割を果たす装置という南北基本合意書以来の基本前提に基づく文言だ。

 2021年半ば、文在寅(ムン・ジェイン)政権と米国のジョー・バイデン政権が合意した終戦宣言草案の内容を見ても、このような性格は明らかだ。終戦宣言は朝鮮半島で戦争が終わったという政治的かつ象徴的宣言であり、これを機に行き詰った非核化交渉を進めていくという意志の表明だった。また、終戦宣言の採択と停戦協定の平和協定への転換には長い時間がかかるため、朝鮮半島に完全な平和体制が定着するまで従来の停戦体制と国連軍司令部を維持するというのが、当時の草案の骨子だという。また、国連安保理制裁の解除を一方的に訴えたのではなく、非核化という目標を達成するために相互主義原則に基づいて対北朝鮮制裁をより弾力的に運用しようと提案したのだ。これが「偽の平和」だと主張するのは、事案をまともに理解していないか、意図的に歪曲した結果としか考えられない。

 もう一つは、尹大統領の発言が示している理念的な白黒思考だ。大統領の言葉どおりなら、終戦宣言を通じて朝鮮半島非核化と平和体制を成し遂げようとする人々は「自由大韓民国を崩壊させようとする反国家勢力」になるわけだ。いくら大韓民国の大統領制が勝者独り勝ちから抜け出せない構造だとしても、かなりの有権者と政治勢力が支持し前政権が採択した政策方向を、体制の敵とみなすのは容認できない。本質的に大統領の権限は国民から委任されたものであり、大統領には国民的合意を通じて外交・安保政策を樹立、執行すべき義務がある。国内の支持勢力を結集するための道具として敵対的二分法を持ち出し、相手を敵対化することは、民主的熟議システムはもとより、究極的には国家の安全保障を害する結果をもたらすだろう。

 前政権に対する批判は当たり前のことだ。しかし、そのような批判は歴史的脈絡と事実関係に基づいていなければならない。そうしてこそ、実事求是の大乗的解決策を見出すことができる。(前政権を)「反国家勢力」と称することが果たして国民的合意に基づいた安全保障政策に役立つだろうか。「支持勢力に見返りを与え、中道勢力の支持を拡大すると同時に、敵対勢力を最小化すること」は成功する民主政治のリーダーシップに欠かせない資質だ。尹錫悦政権の成功も、これにかかっているだろう。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1102301.html韓国語原文入力:2023-07-30 18:40
訳H.J

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