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[寄稿]朝鮮半島の平和と大統領のリーダーシップ

登録:2023-01-30 03:48 修正:2023-01-30 07:34
軍事的抑制力と同盟は安全保障に必須だが、平和自体を保障しない。外部の脅威が存在し続けることを前提とするためだ。戦争、大量殺傷、廃虚、そして勝利の後に訪れる平和は、やはり真の平和とは言いがたい。そうした点で、尹錫悦政権が指向する力に基づく平和論は、平和の仮面をかぶった安全保障論であり、戦争も辞さない論だといえる。 
 
ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長
11日、尹錫悦大統領が大統領府迎賓館で開かれた2023年外交部・国防部業務報告で発言している=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 2023年の新年早々、安全保障危機と経済危機、統合危機が絡みあいながら襲ってきている。そのなかで最も懸念されるのは安全保障危機だ。これを取りあげ論じるメディアは国内外を問わない。旧正月(1月22日)を前にして広がった「朝鮮半島で戦争が起きた場合の生存確率、“ゼロ”よりわずかに高い…ソウル脱出は不可能」と題するフィナンシャル・タイムズの記事が代表的だ。根拠のない憶測に過ぎないのだろうか。2022年の1年間に平壌(ピョンヤン)が示した核ミサイルの戦力強化と一連の攻勢的な動きを考慮すれば、危機は十分に現実的だ。

 政府の対応は断固としている。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は11日、大統領府迎賓館で行われた外交部と国防部の年頭業務報告で、「我々が攻撃を受けた場合に百倍千倍で叩ける大量報復能力を確実に構築することが、攻撃を防ぐ最も重要な方法」だと指摘した。先制攻撃の教理はすでに既成事実に近い。「北朝鮮の挑発の度合いがさらに強まるのであれば、大韓民国は戦術核を配備したり、自主的に核を保有することもありうる」とし、「もしそうなるとすれば、韓国の科学技術でより早い時期に韓国も(核兵器を)保有できるだろう」と明らかにしたりもした。冒頭発言では「終戦宣言のような相手方の善意に頼る平和は、持続可能ではない偽りの平和」だと断定し、「偽りの平和に頼った国々は歴史の中に消え、力による平和を追求する国家は、その国の文明を発展させ人類社会に貢献した」と力説した。

 「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」というローマの軍事戦略家ウェゲティウスの平和哲学に一脈通じるこうしたメッセージは、歴代のどの政権と比較しても程度が強い。しかし、「圧倒的な力を基に北朝鮮の挑発の意志自体を無力化し、平和を得る」という現政権の平和政策は、内在的な安全保障のジレンマをともなう。韓国が百倍千倍の報復で威嚇し、圧倒的に優越した戦争を準備する間、平壌も同様に、在来式はもちろん核戦力の増強で対抗する。朝鮮半島の軍拡競争は激しくなり、危機と偶発的衝突の可能性はよりいっそう高まる。ウェゲティウスの平和というものは、交渉と妥協を通した平和ではなく、侵略、廃虚、征服を前提としたカルタゴ式の戦争の平和だという事実を、平壌は絶えず繰り返し言及して疑うだろう。

 安全保障は平和の必要条件だ。しかし、十分条件にはなりえない。軍事的抑制力と同盟は安全保障に必須だが、平和自体を保障しない。外部の脅威が存在し続けることを前提とするためだ。戦争、大量殺傷、廃虚、そして勝利の後に訪れる平和は、やはり真の平和とは言いがたい。そうした点で、尹錫悦政権が指向する力に基づく平和論は、平和の仮面をかぶった安全保障論であり、戦争も辞さない論だといえる。

 平和は過程だ。安定的かつ持続可能な平和のためには、韓国と北朝鮮の間で、緊張緩和、信頼構築、軍備統制を推進すると同時に、終戦宣言の採択を通じて、停戦協定を平和協定や条約に切り替えようとする「平和作り」の作業が並行されなければならない。その過程で、非核化の突破口も用意できる。これは「相手方の善意」にともなうものではない。相互不信や敵対にともなう偶発的な戦争の発生の可能性を予防し、安定的な平和の条件を作るための計算された歩みだ。冷戦期に米国とソ連は、相手の善意を信頼し様々な条約を締結しながら、軍拡競争を最小化したではないか。それに対して「従順的」な態度であり「偽りの平和」だと蔑視することは、多分に常識に合わず、不公正に思える。

 こうした「平和作り」の作業も、不安定な平和を管理する消極的な手法に過ぎない。究極的に恒久的な平和は、戦争の構造的原因を除去する場合に可能になる。戦争は国家間の対立を指す。南と北が統一され一つの国家になれば、自然に戦争の心配はなくなる。まさにそうした理由から、誰もが統一を願っているのだ。武力統一も赤化統一も代案にはならない。吸収統一も簡単にできることではない。大韓民国憲法が規定しているように、南北の合意にともなう平和統一が最も望ましい。朝鮮半島平和プロセスと非核化、全面的な南北の経済社会交流、協力、そして、南北連合の大きな仕組みを決めていく場合、朝鮮半島の永久平和の道も開かれるとみられる。

 繰り返し強調するが、「強い安全保障」と「戦争も辞さない論」だけでは平和は担保されない。明敏な外交力で非核化と平和作りの新たな空間を作るべきだ。歴史は、軍事的抑制を通した安全保障と外交的交渉を通した平和というこれら二つのテコを精巧なバランス感覚で運用した国だけが、戦争を避け平和の時間を最大限維持したことを示している。今の韓国に必要なものは、まさにそうしたバランスを保つリーダーシップだといえる。

//ハンギョレ新聞社

ムン・ジョンイン|世宗研究所理事長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1077394.html韓国語原文入力:2023-01-30 02:39
訳M.S

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