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[朴露子の韓国・内と外]世紀末の帰還?

登録:2022-08-10 20:23 修正:2022-08-14 07:51
 今日の中国輸出の17%が米国に行くように、1910年のドイツ帝国輸出品の17%がオーストラリア、南アフリカ共和国、カナダなどを含む大英帝国へ向かっていた。今日の中国のように強力な官僚国家を構築し、鉄道・銀行などを国家が所有・経営していた。その当時のドイツも、現在の中国も、後発走者として国家資本主義を積極的に利用した。
イラストレーション:キム・デジュン//ハンギョレ新聞社

 最近になって「新冷戦」という用語がよく使われる。旧冷戦の主要参戦国である米国・中国・ロシアが再び行う覇権争いなので「冷戦の帰還」と同じ方式で概念化しやすいからだろう。ところが、実際は「新冷戦」という用語には語弊が多い。過去の冷戦は、あくまでもロシア革命(1917年)と中国革命(1949年)の延長線上にあった。すなわち、米国/西欧の反対側に立った国家たちは、古典的資本主義とは異なる「二者択一近代」を名分次元だけでも追求した。そのうえ彼らは、欧米圏中心の世界資本主義体制とそれなりの距離を維持し、可能な範囲内で自給自足を追求した。

 ところが、今日の中国は国内総生産(GDP)に対外貿易が占める比率(37%)が、米国(24%)より高い。そして、中国メディアの反米扇動がいくら激しくても、中国の輸出品の17%も買ってくれる中国の最大海外市場は依然として米国だ。中国式一党制国家は、大企業による大企業のための米国式二党制民主主義国家とはもちろん違うが、その差は「資本主義」という共通の範疇を抜け出さない。こうした状況を考慮すれば「冷戦の帰還」というよりは、むしろいわゆる世紀末、すなわち古典的帝国主義の黄金期であった1870~1914年の帰還と見る方がより正確だろう。

 今、この米国の覇権が揺らいでいる時期ならば、1870~1914年は英国の覇権が暮れる時代であった。覇権国家であった英国より、その覇権に挑戦するドイツの国内総生産がすでに1910年頃には上回っていたと推算される。現在の状況では、挑戦国家である中国が、危機の覇権国家である米国の名目上の国内総生産を2030年頃には上回ると予想される。ところが今日の中・米のように、第1次世界大戦を控えた英・独も緊密な貿易・投資関係を結んでいた。今日の中国輸出の17%が米国に行くように、1910年のドイツ帝国の輸出品の17%がオーストラリア、南アフリカ共和国、カナダを含む大英帝国へ向かっていた。今日の中国の発展軌道を予告するように、1914年以前のドイツ帝国も覇権国家であった大英帝国に比べてはるかに強力な官僚国家を構築していた。ドイツの勤労人口全体の中で公務員の比率は4%で、当時の英国の二倍水準だった。今日、中国の戦略部門ごとに国営企業が多いように、1914年以前のドイツ帝国も英国とは違い多くの鉄道・銀行などを国家が所有・経営していた。その当時のドイツも現在の中国も、追撃型発展をする後発走者として国家資本主義を積極的に利用したわけだ。

 覇権国家が揺らぐほど、列強の角逐、植民地争奪戦は激しくなる。追撃型発展を繰り返す後発走者として、過去のドイツも今日の中国のように「資源地帯」を必要としたので、アフリカに視線を転じることになった。ただ違う点は、1914年以前にアフリカで一連の植民地(トーゴ、ブルンジ、カメルーン、ナミビアなど)を取得したドイツと違い、今日の中国は主にアフリカとの投資・貿易関係の発展に注力している。ところが、今日周辺部を巡って行われる強大国間の葛藤は、20世紀初期の植民地争奪戦に劣らずおぞましい流血事態に帰結されたりもする。1904~1905年に日本とロシアが満州と朝鮮の主人の席をめぐって10万人以上が死亡した帝国主義戦争を行ったではないか?ウクライナがロシアの政治・経済的植民地になるのか、あるいはヨーロッパ連合の経済植民地になるのかをめぐって行われている今日のロシアのウクライナ侵攻現場では、少なくとも6万~7万人の軍人と民間人が死亡し人命損失はさらに増えていっている。

 戦争の時代は常に民族主義の時代だ。20世紀初期のマルクス主義者は、近代民族を「資本主義の産物」と規定し、民族主義を「ブルジョア的イデオロギー」と糾弾した。今日の学界も民族を近代以後に生まれた「想像の共同体」程度に見ている。しかし、学界で批判的な分析の対象に過ぎない民族主義は、街頭ではますます大手を振って歩いている。20世紀初期の民族主義を伝播する主要メディアがイエローペーパーだったとすれば、今日では国家の指揮・監督を断りえないソーシャルネットワークサービス(SNS)がその役割をしている。フェイスブックのような米国のSNSが遮断され、ロシア政府の統制を受けるフコンタクテ(VK)のような国内SNSだけが許されるロシアでは、国民の73%が米国を敵対国と見ていて、米国でも概して国民の70~75%はロシアを敵対視している。やはり西側のSNSへの接近が遮断された中国で、日本に対する非好感の水準は60~70%台に達する。日本だから中国をそれより良く見るわけでは決してない。民族主義と排他主義に基盤を置いた嫌悪は、20世紀はじめのように21世紀初期にも世界化と帝国主義的競争の激化を伴う。

 このように今日の世界で1914年以前の世界をほうふつさせる要素は少なくないが、差異もまた大きい。最も大きい差異と言えば、「戦争」を遂行する方式の変化であろう。1914年以前の世界では、覇権国家である英国は平時徴兵制がなかったが、主要列強はすべて大規模な徴兵制軍隊を率いていた。その世界で「男性」は同時に「兵士」であった。このような強硬徴兵制は、朝鮮半島を含む強大国の間に挟まった一部の緩衝地帯の国家だけに残っているだけで、主要列強ではすでに殆どなくなっている。例えば、潜在的戦場である台湾以外に朝鮮半島周辺には純粋な徴兵制国家は一つもない。ロシアもすでに徴兵制と募兵制を併行する混合型軍隊を運営しており、現在ウクライナの侵略現場に派遣された兵力の大部分は募兵制の兵士たちだ。核兵器時代の列強間の全面戦争は不可能、ないしは可能性が低いので、今後も列強間の軍事的葛藤の主な形態は、今日のウクライナのように緩衝地帯での侵攻と侵略戦争を兼ね備えた列強間の代理戦争であろう。朝鮮半島がこうした戦争の現場にならないよう、外交的努力をあらかじめ競争することこそが大韓民国の核心的国政課題にならなければならない。

 戦争と他者に対する嫌悪、民族主義と排他主義が連続的に爆発する複合的な地政学的・経済的・生態的危機の中の世界では、おそらく遠からず民衆の忍耐力がその限界を示し、社会的内破(implosion)現象が見られるだろう。何年か前、フランスの「黄色いチョッキ」のような自然発生的反乱が再び起きることになれば、進歩的政治勢力がその底力を利用して急進的な脱新自由主義と福祉国家の再建、気候危機対応に最適化された新しい経済建設をどの程度進展させられるかが、今度は主要な関心事になるだろう。

//ハンギョレ新聞社
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)オスロ国立大学教授・韓国学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1054114.html韓国語原文入力:2022-08-10 02:35
訳J.S

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