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[コラム]「尹錫悦式新積弊清算」の危うい背景

登録:2022-07-22 06:45 修正:2022-07-22 09:54
真の自由主義は、自由という大きな枠組みのもと、互いの考えと方法が違うことを認めるものだ。長年色眼鏡でみてきた癖から抜け出せないまま、善意の競争をすべき相手を従北だの全体主義だのと追い込み、それでも足らず司正機関を利用して処罰し追い出そうとすることは、真の意味での自由主義ではない。
尹錫悦大統領が20日午前、ソウル龍山の大統領室庁舎に出勤し、記者団の質問に答えている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 最近の権力機関の動きをみると、北朝鮮漁師の送還と西海での公務員殺害事件で、いわゆる「尹錫悦(ユン・ソクヨル)式新積弊清算」が始まったようだ。検事時代に特捜通(刑事事件担当の検察官)だった尹錫悦大統領が、前政権を「北朝鮮追従(従北)」へと追い込む事件から切り込んだのは意外だ。本番前のウォーミングアップなのかもしれないが、どうも粗雑で危なっかしい。

 俎上に載せられた二つの事件は、多くの状況が複雑に絡んでおり、快刀乱麻にはいかない。政治的議論が大きくなるのは避けられないが、そもそもどちらか一方が完勝するのは難しい事案だ。現在の世論の動向もそうだ。文在寅(ムン・ジェイン)政権初期の積弊清算が圧倒的な世論の支持のもとで進められたのとは対照的だ。

 真相追及の展開の過程も奇妙だ。統一部と国家情報院は、政権が変わるやいなや過去のことは知らぬそぶりをして、直前までトップにいた人に刃を向けている。事件の実体とは関係なく、政治的な基準が作用した結果だ。事件の性格上、むやみに追い込むほど、国民的な反感も強くなりうる。

 いぶかしい従北追い込みの背景は、ハン・ドクス首相の最近の発言でやや察することができた。先日の韓国新聞放送編集者協会のフォーラムでハン首相は、現政権の国政基調を圧縮して述べてほしいという質問に、「大統領が明確にしたいことは、自由、民主主義、人権、法治、そのようなものを全体的に一度にカバーすること」だと述べた。

 ハン首相は、尹大統領が就任の辞で「自由」と「世界市民」に何度も言及した点を想起させた。首相は「国政を運営するのであれば、結局は自由に帰着することになる」としたうえで、「責任ある自由からイノベーションが生まれ、経済がうまくいく。そのような自由によって国際社会で認められることになるだろう」と述べた。自由に基づき民主主義・人権・法治を新たに確立し、経済を立て直し、国際社会と協力するということが大統領の意向だという話だ。あえて命名するならば「自由主義大韓民国プロジェクト」といったところだろう。

 尹大統領のこのような自由主義の所信から、新積弊清算がなぜこのように進められているのかを推察できる。尹大統領は、前政権では韓国は自由主義ではなく社会主義や全体主義に近い運動圏の国になり、国の外交の根本が傷つけられたと考えているようだ。尹大統領にとって、二つの事件(北朝鮮漁師送還事件と西海公務員殺害事件)は、自由と人権を立て直し、北朝鮮に対する屈従主義へと逸脱した前政権の関係者を処罰し、北朝鮮には強硬なシグナルを送ることができる多目的用であるわけだ。

 ところが、本当に前政権は脱自由主義、脱人権、脱法治、脱韓米同盟、従北だったのだろうか。そのような見方には断じて同意できない。文在寅政権は、自由主義左派、すなわちリベラルに近い社会主義で、全体主義とはかけ離れている。政権の中心に、独裁に抵抗し一時は理念的に傾倒した全国大学生代表者協議会の出身者がいたというだけで、その政権は社会主義なのか。前政権のあいだにメディアの自由が崩れたのか。法治を無視しつつ検察総長の任期を最後まで保証したのか。

 韓米同盟が現政権の発足2カ月間で突然良くなったというが、ならば、前政権では壊れていたのだろうか。昨年、文在寅前大統領と米国のジョー・バイデン大統領が結んだ包括的戦略同盟は、紙切れに過ぎないのか。ドナルド・トランプ前大統領と金正恩総書記がやたらに衝突していた時、平和の糸口を探るために全力を尽くしたことが従北なのか。前政権の誤りは、「自分に甘く他人に厳しい」ダブルスタンダードの面と能力不足であって、自由主義の破壊ではない。

 北朝鮮漁師の北朝鮮送還事件は、16人を殺害した凶悪犯の問題を可能な限り常識のラインで処理しようとしたというものだ。ただし、調査を徹底的に行い、手続きを厳密に守ったのかは省みる必要はある。西海での公務員殺害事件も同様だ。越北(北朝鮮に渡ること)だったと軽率に断定した部分には議論があり得るが、多くの敏感な諜報機関の情報と内容があるという点を考慮すれば、このように騒ぐことではない。

 何より重要なことは、国民が理念的な新積弊清算を支持していないという点だ。1カ月ほど続く両事件の追求のなかで、尹大統領の支持率は垂直に下落している。野党「共に民主党」が支持率を落とさなければならないのに、なぜ逆になっているのか。従北追い込みの脆弱性と両面性を国民はよく知っている。

 与党勢力は、従北追い込みがもう国民には受け入れられないということを理解しなければならない。すべての問題がそうであるが、韓国の政治は、国民の常識的な目の高さに追い付けていない。前政権も現政権も我田引水式であり、半分の真実だけを話しているということを、国民はすべて見抜いている。安全保障の事案において八百長の花札のように積弊追求に乗りだし、たとえいくつかの揚げ足を取って誰かを処罰したとしても、半分の成功にすぎない。そのようなことをしても、国民の支持は得られない。

 真の自由主義は、自由という大きな枠組みのもと、互いの考えと方法が違うことを認めるものだ。長年色眼鏡でみてきた癖から抜け出せないまま、善意の競争をすべき相手を従北だの全体主義だのと追い込み、それでも足らず司正機関を利用して処罰し追い出そうとすることは、真の意味での自由主義ではない。

//ハンギョレ新聞社

ペク・キチョル|編集者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1051695.html韓国語原文入力:2022-07-21 15:00
訳M.S

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