本文に移動

[コラム]「尹錫悦リスク」の落とし穴

登録:2022-07-07 06:39 修正:2022-07-07 07:12
14年前、李明博政権の初年度に李大統領の支持率が20%台まで落ち込んだことがある。韓米首脳会談の見返りに米国産牛肉の輸入を認めたのが批判世論に火をつけた。特定の事案をめぐり急落した支持率は、その事案を解決すれば取り戻せる。ところが、今は特別な悪材料があるわけでもないのに、大統領の支持率が低い水準で固定化する兆候を見せている点で、さらに深刻だ。
尹錫悦大統領が今月5日午前、ソウル龍山の大 統領室に出勤し、取材陣の質問に答えている。尹大統領は人事問題をめぐる批判に対し「前政権で有能な人が一人でもいたのか」と問い返した/聯合ニュース

 就任から2カ月足らずの尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の支持率下落が投げかけるメッセージは重い。尹大統領の言う通り、支持率は上がる時もあれば下がる時もあるものだが、発足直後から国政運営に対する否定的な意見が肯定的な意見を上回ったり、拮抗する状況が続くのは前例のない現象だ。

 14年前、李明博(イ・ミョンバク)政権の初年度に李大統領の支持率が20%台まで落ち込んだことがある。韓米首脳会談の見返りに米国産牛肉の輸入を認めたのが批判世論に火をつけた。特定の事案をめぐり急落した支持率は、その事案を解決すれば取り戻せる。ところが、今は特別な悪材料があるわけでもないのに、大統領の支持率が低い水準で固定化する兆候を見せている点で、さらに深刻だ。

 一部では国民の力のイ・ジュンソク代表の性的接待疑惑、すなわち「イ・ジュンソク・リスク」が大統領にまで悪影響を及ぼしていると非難している。本末転倒と言わざるを得ない。むしろ尹大統領の「政治的な無能」が代表の懲戒をめぐる波紋を広げ、国民の力を修羅場に導いていると言える。大統領の力が最も強いと言われる任期序盤に、政権与党が政府を支援するどころか、熾烈な権力闘争に没頭した事例はこれまでなかった。大統領が政治の素人だと思っているからこそ、その隙を狙って「尹核関(尹大統領の核心関係者)」たちが虎の威を借る狐のように振舞い、内紛が噴出するのだ。

 0.73ポイントという微細な大統領選挙の票差を、共に民主党は忘れなければならないが、尹錫悦政権は決して忘れてはならない。もし3月9日の経済状況が今のようだったら、「尹錫悦大統領」の誕生は容易ではなかっただろう。尹候補が勝利したのは、彼にかける期待が大きかったためではなく、民主党とイ・ジェミョン候補に対する拒否感がより強かったという意味だ。

 にもかかわらず、尹大統領は弱点を補完するつもりはなく、前政権との政治闘争ばかりに没頭する姿を見せている。5日、キム・スンヒ保健福祉部長官候補の辞退に関する質問に「前政権で有能な人が一人でもいたのか」と答えたのは、検察総長時代に自身を迫害した文在寅政権に対するトラウマと執着を象徴的に表わしている。

 歴代のどの政権も引継ぎ委員会が立ち上がると、新しい政策に関する記事が新聞の1面を飾っていた。ところが、現政権の引継ぎ委時代にはそのような記事を見た記憶がない。龍山(ヨンサン)への大統領府の移転と検察の脱原発捜査のような政治的摩擦だけが浮き彫りになった。引継ぎ委がずさんだったからか、政権後も政策で信頼を与える姿は見られない。国会開院交渉中に海外に出かける与党の院内代表の姿を、人々は見逃さない。物価は上がり景気は低迷している状況で、正常な政府ならさまざまな対策を打ち出し、与党は一日も早く国会を開いてそれを後押しする立法に全力を傾けるだろう。ところが、政府が何をすべきか分からず右往左往しているから、与党の国民の力も手をこまねいて、国会が開会しようがしまいが無関心な態度を示している。

 西海公務員殺害事件が重要でないわけではない。しかし、これを機に「国家安保紊乱タスクフォース(TF)」まで作り、文在寅(ムン・ジェイン)政権の「北朝鮮追従行為」をすべて調査するという政権勢力を見ていると、いくら美辞麗句を動員しても暮らしの問題が後回しにされていることを、人々はいやでも気づく。暮らしの問題よりも検察改革に全力をかけて民意が離れていった前政権も、経済が泥沼に陥っているにもかかわらず、検察出身者だけを重用し検察共和国を作る現政権も、国民の目からすると五十歩百歩だ。

 任期初年度に支持率が急落した李明博大統領時代には、それでも「経済はうまくいくだろう」という期待があった。いま、尹大統領にはどのような期待をかけることができるだろうか。北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席したにもかかわらず支持率が落ちたことが、答えになるかもしれない。ロシアと中国を敵に回しながら、どうやって大韓民国の経済的実利を守っていくのか、道筋が全く見えてこない。1987年の民主化以降、革新と保守のうちどの勢力が政権を握っても、理念より国益を優先する実利外交を基本としていた。尹錫悦政権は鮮明な親米路線を掲げるだけで、これを国益とどのように調和させるかについては説明しない。

 尹大統領が頼りにしていることがあるとすれば、それはまさに与党に劣らない野党の混乱ぶりだ。いま与党と野党は「誰が最低なのか」をめぐり競争しているように見える。このような好感度の低い競争の構図が、3月の大統領選挙で尹大統領に勝利をもたらしたが、いまは事情が異なる。国民は結局、政権を握った側により大きな責任を問う。大統領が明確な信頼と期待感を抱かせることができなければ、野党と前政権に対するいかなる攻撃もブーメランとなって返ってくるだろう。そのブーメランが尹錫悦自身を大統領に押し上げたのではないか。

//ハンギョレ新聞社
パク・チャンス大記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1049903.html韓国語原文入力: 2022-07-07 02:39
訳H.J

関連記事