本文に移動

[寄稿]「恩恵」が曖昧なIPEF参加…韓国の実益と役割の綿密な検討を

登録:2022-07-06 06:30 修正:2022-07-06 13:03
2.チョ・ビョンジュン|前光云大学兼任教授(経営学博士)
先月29日(現地時間)、スペインのマドリードのIFEMAコンベンションセンターで開かれた韓米日首脳会談に先立ち、尹錫悦大統領と米国のジョー・バイデン大統領が会って握手を交わしている=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

今年5月21日、尹錫悦大統領は、米国のジョー・バイデン大統領と韓米首脳会談を行い、米国主導の経済安保プラットフォーム、インド太平洋経済枠組み(IPEF)への参加を宣言したのに続き、先月29日にはスペインのマドリードで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議にも出席した。政権発足から2カ月足らずで米国と西側諸国との密着を明確にしたわけだ。これをどう見るべきか、今後どのようなアプローチが必要なのかについて、キム・ジュンヒョン韓東大学教授(前国立外交院長)とチョ・ビョンジュン前光云大学兼任教授(経営学博士)の寄稿を掲載する。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が就任した直後の5月20日に韓国を訪れた米国のジョー・バイデン大統領は、サムスン半導体平沢(ピョンテク)工場の視察で訪韓日程を始めた。さらに現代自動車やハンファなど国内大手企業のトップらに会って、対米新規投資または投資拡大の約束を取り付けた。これによって自国主導の経済安全保障サプライチェーンへの韓国の参加を確実に固め、米国内の高賃金雇用を創出する効果も享受する見通しだ。

 さらに日本に渡ったバイデン大統領は、岸田文雄首相とも米日首脳合同宣言文を発表し、同月23日、インド太平洋経済枠組み(IPEF)を正式に発足させた。韓国を含む13カ国が参加するIPEFは、半導体やバッテリーなどの重要分野で中国を排除した域内のサプライチェーンの構築を主な課題としている。米国は特に半導体サプライチェーンに関心を示しているが、これは新型コロナウイルスの感染拡大の影響でマレーシアの半導体パッケージング工程が閉鎖されたことで、ミシガン州の自動車製造工場で労働者数千人が解雇されるという厳しい経験があるためだ。そのような状況で国内有数の大企業が米国に半導体とバッテリー生産基地を大挙建設すると約束したのだから、最高の贈り物になっただろう。

 ところで、IPEFの発足で今後韓国が域内交易で得られるものは何だろうか。IPEFへの参加が自由貿易協定(FTA)以外の恩恵をもたらさなければ意味がないが、そのような経済的な恩恵が何なのか曖昧だ。

 まず、伝統的な経済統合の形態には、自由貿易地域、関税同盟、共同市場、経済同盟があるが、経済枠組み(EF)はどの形態にも分類できない。もしIPEFという経済プラットフォームが安全保障と結びつき、対中国牽制のために運営されるならば、韓国のこれまでの通商環境は悪影響を受けざるを得ない。米国が経済安全保障を複合的に導き、大韓民国の経済がこれに従属していけば、これまで積み上げた貿易規模世界8位、経済規模世界10位で先進国グループに格上げされた韓国経済が打撃を受ける可能性は非常に高い。

 IPEFの4大議題は、貿易促進、サプライチェーン、脱炭素・インフラ、脱税と腐敗の防止だ。1番目のグローバル貿易に関して、韓国は58カ国と18件の自由貿易協定(FTA)を発効させ、すでに貿易で様々な恩恵を享受している。2番目のサプライチェーンは、米国がIEPFで特に力を入れている分野だ。脱炭素などに関しては、国連気候変動枠組条約(1992年)とパリ気候変動枠組条約(2016年)の履行に向けて各国が温室効果ガス削減目標を提示した中、韓国は2030年まで対2018年比で温室効果ガスの40%削減を目標に掲げている。脱税と腐敗防止と関連し、経済協力開発機構(OECD)賄賂防止協約(1997年)と国連反腐敗協約(2008年)に基づき、各国が腐敗問題に共同で対処する一方、国際機関も各国の反腐敗活動を支援している。このような状況なのに、IPEF参加を通じて韓国が通商分野でさらに享受できる恩恵とは、果たして何だろうか。

 下絵も描かれていない状況で、バラ色の未来を描くのはまだ早い。むしろ大韓民国は「経済安全保障」という複合的な政策よりは、安全保障の面で北朝鮮の非核化のために韓米同盟を持続していく一方、経済的には既存の対外通商環境を整備し、長期的に朝鮮半島の経済共同体の建設を念頭に置いて動く必要がある。いつか民族の宿願である統一が実現すれば、朝鮮半島縦断列車(TKR)やシベリア横断列車(KSR)、中国横断列車(KCR)を繋ぎ、韓国から出発したコンテナ貨物列車が欧州のロッテルダムやパリ、ロンドンまで走る待望の「鉄のシルクロード」を実現しなければならないからだ。

 尹大統領は、IPEFへの参加宣言に続き、他のIPEF参加国の日本、オーストラリア、ニュージーランドの首脳らとともに、先月末スペインで開かれたNATO首脳会議にも出席した。米国の中国排除基調と、中国の浮上が西欧安保に脅威になるというNATOの戦略的認識および利害関係に、韓国が巻き込まれるのではないかと懸念される。このような動きが、対ロ、対中通商関係を損ねる恐れがあることを看過してはならない。経済が安全保障に従属すれば、特に国際通商分野は自由市場の経済原理が歪曲される可能性が高い。IPEFへの参加の経済的な実益は何なのか、その体制でどのような役割を果たさなければならないのか、政策的なレベルの綿密な分析を行わなければならない。世界経済規模10位の先進国経済を維持し、さらに発展させていくためにも、ぜひとも必要だ。

//ハンギョレ新聞社
チョ・ビョンジュン|前光云大学兼任教授(経営学博士)(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/1049625.html韓国語原文入力:2022-07-0502:38
訳H.J

関連記事