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[コラム]尹大統領の「原発フェティシズム」…「愚かな所業の50年」が始まった

登録:2022-06-30 03:11 修正:2022-06-30 07:22
尹錫悦大統領が22日午前、慶尚南道昌原市の斗山エナビリティを訪れ、新ハヌル3、4号機の原子炉と蒸気発生器用の鍛鋼保管所で「韓国型原発」(APR1400)についての説明を聞いている=昌原/大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 これは単なる一つの仮定だ。国内完成車メーカー各社は5年前、電気自動車の開発競争に参入した。その様子を見守ってきた誰かが長いため息をもらして言った。「我々が5年ものあいだ愚かな所業はせずに、内燃車の産業環境をさらに強固に構築していたなら、今はおそらくライバルはいなかっただろう」。その「誰か」とは他でもなく、この国の最高権力者だ。だとしたら、メディアは何と言っただろうか。

 これは事実でないことを願いたい超現実的な事実だ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は22日、韓国の代表的な原発製造社である慶尚南道昌原(チャンウォン)の斗山エナビリティ(旧斗山重工業)を訪問した。「我々が5年ものあいだ愚かな所業はせずに、原発の産業環境をさらに強固に構築していたなら、今はおそらくライバルはいなかっただろう」。有力メディアのいくつかは彼の言葉に惜しみない賛辞を送った。

 現代自動車が電気自動車へと軸足を移しつつあるグローバル完成車メーカーの動きを絶好の機会ととらえ、内燃車に全力投球したとすれば、誰もが愚かな所業だと言うことだろう。たとえ所有者のいない奥山に旗を立てたとしても、苦労して構築した環境はガラパゴスにすぎないことを、大統領もメディアも知らないはずはない。産業の観点において、この問題は気候危機ではなく市場の変化に対応しなければならないという適者生存の課題だ。今や電気自動車は性能とコストパフォーマンスでも内燃車を圧倒する。

 原発が内燃車より市場競争力がないという事実は、国際的に公認されたデータを少し見るだけでも一目瞭然だ。発電単価は10年で太陽光が89%、風力が70%低下した。原発は26%上昇した。全世界の累積設置容量で、太陽光と風力はすでに原発の2倍を超える。2010年には39ギガワットだった太陽光は、2021年には942ギガワット、198ギガワットだった風力は845ギガワットに急成長した。原発は381ギガワットから404ギガワットで停滞している(英国のエネルギー問題のシンクタンク「EMBER」)。太陽光と風力は、2020年には世界人口の3分の2が住む地域で最も安い新規発電源となっている(ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF))。

 原発が何とか現状を維持しているのは中国があるからだ。20年あまりの間に中国の原発の発電容量は23倍に増えた。その他に増えたのはロシア、インド、韓国くらいだ。発電容量1、2位の米国、フランスも減っている。日本は10年前の半分以下に落ちており、現在稼動中の原発はわずか4基だ。欧州の主要諸国の再生可能エネルギー発電の割合はすでに40%を上回っており、米国、日本、中国も20%を超える。中国は2018年に再生エネルギーに910億ドルを投資する一方、原発は65億ドルにとどまっている。韓国は今も6%台だ。

 しかし、このような数値をいちいち書き写すのは紙面の浪費に近い。いくら説明したところで目ばかりをぱちくりさせているなら、それは「聞きたがらない耳を持っているわけだ」(チェ・スンジャ、「無題1」)。さらに、技術のガラパゴスを構築するために税金を「なみなみとあふれんばかりに」注ぎ込むという。再生可能エネルギー産業を捨てるという宣言だ。国語・英語・数学の基本科目(電気自動車)を中心にとりくみつつ暗記科目(内燃車)も頑張ることは不可能だ。大統領選挙のテレビ討論で出た問いを改めて投げかけても無駄だ。「RE100(グローバル企業が電気を再生エネルギーで100%充当することを約束する運動)にどのように対応するつもりなのか?」

 このような困った問いを避けるのに、マクガフィン(観客を誤導するための演出)と呪術にまさるものはない。例えば、欧州連合(EU)が「グリーン・タクソノミー」に含めたのだから、原発は立派なクリーンエネルギーなのだと騒ぐやり方だ。しかし、尹大統領の斗山エナビリティ訪問の数日前、欧州議会の関連常任委員会がグリーン・タクソノミー最終案を事実上否決したという事実には沈黙する。文在寅(ムン・ジェイン)政権の「形だけの脱原発」政策が韓国電力の天文学的な赤字を招いたという「わら人形に五寸釘」は5年間も繰り返されている。

 尹錫悦政権の「原発フェティシズム(物神崇拝)」はすでに大きな脅威だ。「今、原発業界は『脱原発』という爆弾が爆発し、廃墟と化した戦場だ。…戦時には安全を重視する官僚的な思考は捨てるべきだ」という尹大統領の発言は、原発フェティシズムの無意識の発露だ。世界最高の原発密集地域で暮らしている国民の心と安全を少しでも意識していたなら、出てくるはずのない残酷なメタファーだ。原発は人が消すことのできない火だ。日本の福島第一原発は惨事の発生から11年が経った今も燃えている。我々は愚かな5年ではなく、少なくとも50年の危機の前に立っている。

//ハンギョレ新聞社

アン・ヨンチュン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1048821.html韓国語原文入力:2022-06-28 16:35
訳D.K

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