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[コラム]金正恩と北朝鮮版マーベル動画

登録:2022-03-31 06:35 修正:2022-03-31 06:54
イ・セヨン論説委員
//ハンギョレ新聞社

 レニー・リーフェンシュタールの『意志の勝利』は、歴史上最も強力なプロパガンダムービーとして知られている。1934年、ドイツのニュルンベルクで開かれたナチス党大会を記録したものだ。青空を飛んでいた航空機が雲を突き抜けて下降する場面で始まるこのドキュメンタリーは、アドルフ・ヒトラーが群衆の歓呼の中で飛行機から降り立つ「空港のシーン」へと続く。ヒトラーの登場を「神の降臨」にたとえた露骨な演出だ。

 当時の最先端の撮影技法が総動員された同映画のいくつかの場面は後代の宣伝映画だけでなく、『スターウォーズ』シリーズのようなハリウッド劇映画にもよく借用された。整然と繰り広げられる群衆集会と情熱的な指導者のパフォーマンスは、何の事前知識もなく映画を見る人ならば、そのスケールと躍動性に魅了されがちだ。特に制服姿のヒトラーが随行幹部2人と大会場の壇上に向かって入場する姿を遠くから捉えた「ハイアングルショット」は導入部の飛行機シーンと共にこの映画の白眉と言える。

 先週末、ユーチューブの話題は断然、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が登場する北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射動画だった。最初の場面から目を引くものがあった。格納庫が開くと、パイロットジャンパーを着た金正恩委員長が軍服姿の2人の男を従えてゆっくりと歩いて出てくる場面は、党大会でのヒトラーの入場シーンを連想させる。

 影像の再生速度に変化を加える「タイムリマッピング」と「ズームインとズームアウト」を混ぜて多彩なカットで構成した画面演出は、ブロックバスターの予告編の典型的な技法だ。「朗読」のようなリ・チュンヒ・アナウンサーのナレーションと共に、飛翔体の離陸のシーンとこれを見つめる金正恩委員長の姿を交差させたこれまでのミサイル発射映像とは完全に異なる。動画を配信した「朝鮮中央テレビ」が北朝鮮住民が見る対内用メディアであることから、密搬入された韓国の動画の影響で映像に対して厳しくなった北朝鮮住民の目を意識せざるを得なかったという分析もある。

 韓国国内の反応は分かれている。北朝鮮の撮影と編集技術が見違えるほど発展したという評価は、主に50代以上から出ている。若者たちの間では冷笑が主流だ。お金をかけて色々とおしゃれをしたのに、どこかお粗末で野暮ったく見えるというのだ。むしろ、最初から「B級」を目指して作ったなら、「プロパガンダのカルトムービー」として歴史に名を残せたかもしれない。

イ・セヨン論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1036814.html韓国語原文入力:2022-03-31 02:31
訳H.J

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