本文に移動

[寄稿]ウクライナ戦争とグローバル化の危機

登録:2022-03-29 02:38 修正:2022-03-29 08:11
イ・ガングク|立命館大学経済学部教授
ロシアのモスクワ近郊ポドリスクで24日(現地時間)、ある通行人が為替相場の電光掲示板の前を通り過ぎている。ロシア政府がこの前日、非友好国に天然ガスの代金をルーブルで決済するよう求めた影響で、ルーブルの価値は上昇した=モスクワ/EPA・聯合ニュース

 「未明の砲撃の音で目が覚めました。まだ避難はしていません」。ロシアがウクライナに侵攻した直後、キエフ(現地読みキーウ)にいる休学中の教え子から送られてきた電子メールだ。

 プーチンがウクライナに侵攻してからひと月が過ぎた。当初の予想とは異なり首都は陥落しておらず、ロシア軍は苦戦しているようだ。米国と欧州は速やかにロシアに対して金融と貿易関連の制裁を実施し、グローバル企業はロシアから撤退した。戦争は新型コロナウイルス禍から回復中の世界経済に、物価を高め景気を後退させるスタグフレーションの圧力を加えている。国際通貨基金(IMF)によると、この戦争は穀物とエネルギーの価格の急騰、そして国際貿易の断絶と供給網のまひなどを通じて世界経済に衝撃を与えるだろう。また、不確実性を深め、投資の萎縮と金融状況の悪化をもたらすだろう。

 ロシアは世界のエネルギー市場、特に欧州のエネルギー輸入において重要な地位にあるため、原油価格と天然ガス価格が大きく上昇した。またニッケル、コバルト、パラジウムなどのバッテリーや半導体の製造に欠かせない金属の生産においてもロシアの占める比重は大きいため、これらの価格が急騰し、供給に支障をきたす恐れがある。一方、ウクライナとロシアは世界の小麦輸出の約30%を占めているため小麦価格が急騰しており、特に貧しい国々は苦境に立たされている。経済協力開発機構(OECD)によると、この戦争によって2022年の世界の経済成長率は約1ポイント下落し、インフレ率は約2.5ポイントも高まる見込みだ。

 さらに進めば、ウクライナ戦争はグローバル化時代の終焉をもたらす可能性もあるとの観測が示されている。冷戦時代が終わり、国際貿易と投資の拡大を基盤として進展してきたグローバル化に伴って、新興の開発途上国は成長が促進され、貧困人口は大幅に減り、先進国の消費者は安価な輸入品が使用できるようになった。もちろん、急速な金融のグローバル化は金融の不安定さと危機を生み、米国のような先進国では製造業の雇用が減って不平等が深刻化し、市民は不満をつのらせ、ポピュリズム政治が登場してもいる。

 グローバル化の流れはグローバル金融危機後に停滞を始め、2016年のトランプの当選後は米中対立や保護貿易により、さらに減速している。そして2020年のコロナ禍による世界的な供給網のまひを前にして、各国はコスト削減よりも安定した自国内の供給網の確保を優先し、そのために脱グローバル化を加速させている。パンデミック直後に勃発したウクライナ戦争は、グローバル化の行進にさらなる打撃を与えている。今や覇権をめぐる国際政治的確執が世界経済を不安にさせ、グローバル化を後退させているのだ。

 前線はやはり「米国と欧州」対「中国とロシア」に代表される、自由民主主義国と権威主義国との対立だ。振り返ってみると、1990年代以降、中国の製造業による生産と輸出、そしてロシアのエネルギーと原材料の輸出は、グローバル化の重要な柱だった。その過程でこれらの国々は世界経済に深く統合された。西欧は、グローバル化と経済的相互依存の拡大が自由主義的世界経済秩序を確立し、各国の政治的自由を拡大し、中国やロシアの変化ももたらすと期待した。

 しかし現実はそうなってはいないため、最近は世界的に権威主義国家がさらに増えており、経済的にもグローバル化ではなく地域内統合が加速している。米国と中国は対立しつつ戦略産業の国内生産を促進しており、中国とロシアは自国通貨での原油取引の決済を推進している。もはやグローバル化が平和をもたらすという期待は崩れ去っており、各国は経済的相互依存がかえって脅威になり得ると懸念しているのが現実だ。このような世界経済の亀裂と国際政治の確執の深化は、世界に巨大なコストをもたらすと憂慮される。長期的に世界経済の繁栄を妨害するだろうし、最悪の場合は軍事的対決へとつながるかもしれない。「フィナンシャル・タイムズ」のマーティン・ウルフは、厄災のように見える新たな世界が生まれつつあると語る。

 結局、ウクライナ戦争が示しているのは、国際政治における確執によって自由貿易とグローバル化の時代が深刻な危機に直面しているという事実だ。しかし、世界経済の繁栄のために必要なのはグローバル化からの断絶ではなく、体制の多様性を認めつつ平和を追求し、開放と安保をバランスよく管理する新たなグローバル化を目指す努力だろう。ウクライナの私の教え子は先日、故郷に避難したと連絡してきた。一日も早くその教え子に会い、教えることができるよう願っている。

//ハンギョレ新聞社

イ・ガングク|立命館大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1036530.html韓国語原文入力:2022-03-28 16:13
訳D.K

関連記事