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[コラム]五輪の韓服「文化工程批判」が見逃しているもの

登録:2022-02-09 03:38 修正:2022-02-09 07:45
パク・ミンヒ|論説委員
4日に行われた北京冬季五輪の開会式で、それぞれの伝統衣装をまとった少数民族の参加者たちが中国の国旗「五星紅旗」を運んでいる。前列の左から2番目が朝鮮族の参加者=北京/聯合ニュース

 北京冬季五輪の開会式に、韓服(朝鮮民族の伝統衣装)をまとった朝鮮族の女性が登場したことを巡り、怒りが野火のように広がっている。「中国は韓国の文化と歴史を奪おうとしている」との批判に対し、大統領候補たちは一斉に「『文化工程』反対」、「高句麗と渤海は大韓民国の歴史」、「『漢服』ではなく『韓服』」だと応じた。長きにわたり韓中の一部の「愛国主義ネチズン」の間でくすぶっていた「文化の元祖」をめぐる攻防戦の炎は、大統領選挙の得票競争に乗って一瞬にして現実政治へと飛び火した。中国に一方的に有利なショートトラックの偏向判定は火に油を注いだ。

 しかし、五輪に登場した韓服のことを「韓国文化を中国文化として歪曲するための文化工程」呼ばわりするのは、問題の本質から外れている。中国国家主導のイベントにおいて、漢族と55の少数民族が共に五星紅旗を運ぶ場面で少数民族がそれぞれの伝統衣装を着ていたわけだが、朝鮮族の伝統衣装は当然にも韓服だ。

 問題は、中国当局が少数民族を登場させた意図にある。今回の開会式で国際的に最も波紋を呼んだのは韓服ではなく、聖火に点火したウイグル人スキー選手ディニガル・イラムジャンだった。中国が新疆ウイグル自治区で100万人以上のウイグル人を「再教育キャンプ」に監禁し、強制労働に動員していることに抗議して、米国、英国、日本などが今回の五輪に政府代表を送らない「外交的ボイコット」を行ったことに対する、中国の計算された対応だった。海外のウイグル団体と国際人権団体は「従順なウイグル人を前面に押し立てて数多くのウイグル人が受けている苦しみを隠ぺいし、人権じゅうりんを正当化しようとする意図が中国にはある」と批判する。

 中国は開会式でウイグル族を聖火リレーの最終走者に立てるとともに、朝鮮族をはじめとする少数民族と漢族が共に五星紅旗を運ぶ姿を浮かび上がらせることで、「中華民族の固い団結」を世界に誇示しようとした。米国に対して「五輪を政治化するな」と声を張り上げてきた中国が、少数民族弾圧を正当化したり中国の偉大さを強調したりし、習近平主席の3期目に向けた業績づくりに少数民族を「引き立て役」にしたというのが問題の本質である。中国人たちの愛国主義を盛り上げるために繰り返されている不公正な判定は「中国の夢」の偏狭さを全世界に生中継している。

4日に行われた北京冬季五輪の開会式で、ウイグル人スキー選手ディニガル・イラムジャン(左)が聖火リレーの最終走者として登場した=北京/AFP・聯合ニュース

 これに対応するためには、現象をよく区分して突き詰めなければならない。中国の政治イベントに「韓服姿の朝鮮族」が登場するたびに、韓中の間で「韓服の元祖論争」が爆発するのなら、朝鮮族は韓服を着るべきではないのか。韓服やキムチの元祖論争が韓中関係に負担をかけると判断した中国当局が「朝鮮族自治」を消し去ってしまうとしたら、それは韓国と朝鮮族にとって望ましいことなのか。実際に、朝鮮族が韓服を着られなかった時代があった。反右派闘争と文化大革命が中国に吹き荒れていた1950年代から1970年代半ばにかけて、朝鮮族をはじめとする少数民族は民族文化が抹殺され、外国勢力のスパイ視されるなど、深刻な被害にあった。民族衣装は禁止され、誰もが灰色の人民服姿だった。社会学者である漢城大学のパク・ウ教授は「文化大革命が終わった後、朝鮮族は経済自由化、朝中関係の雪解け、韓国との交流などを通じて多くの努力をしつつ、何とか民族文化を復元してきた。朝鮮族の韓服と伝統文化は朝鮮民族共同体の視覚で見るべき」、「1980年代末以降、中国の国家行事では伝統衣装をまとった少数民族がよく登場するようになっており、今はむしろこの多様性が再び人民服一色に収れんしていくことを警戒すべきだ」と語る。

 問題の本質は、はるかに大きな枠組みにある。1989年の天安門デモ流血鎮圧と1991年のソ連崩壊の後、中国指導部は、米国が中国を圧迫するか、共産党統治体制を変えようとするだろうという安全保障上の強迫観念に苛まれた。辺境の少数民族が中国から分離独立しうるという安保不安に対処するための処置が取られたことで、高句麗と渤海の歴史を「中国少数民族の歴史」へと歪曲しようという「東北工程」が、2000年代初頭に韓中の外交問題になってもいる。今では中国の国力がはるかに強くなっているとともに、米中覇権競争が本格化していることで、中国は国内では漢族中心の民族同化政策をはるかに強圧的に推進している。対外的には、経済力をテコとして周辺国に「中国式の国際秩序」を作っていこうとしている。状況が変わったにもかかわらず、韓国が依然として「東北工程」「元祖論争」のフレームで対応していては、本質を見誤り、韓中間の「憎悪戦争」によって事態を悪化させるだけになり得る。

 何をなすべきか。国際社会とともに中国の少数民族抑圧に対し、普遍的人権の観点から批判の声をあげ続けるとともに、中国の「大国-小国」秩序を強要する行為には断固として問題を提起しなければならない。中国を批判する同じ物差しで「朝鮮族」の中国同胞に対して韓国社会が示してきた差別と憎悪も反省しなければならない。国の最高指導者になると名乗りをあげた政治家たちは、中国の愛国主義と強圧的統治が結局は韓中関係にも大きな危機をもたらす重大な問題であることを直視しつつも、憎悪に同調することでは解決できないということを肝に銘じなければならない。中長期的な外交・安保の青写真の提示は後回しにしたまま、嫌悪と扇動の競争をしているべき時ではない。

//ハンギョレ新聞社

パク・ミンヒ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1030205.html韓国語原文入力:2022-02-08 13:49
訳D.K

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