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中国「デジタル人民元」、ドル覇権体制にヒビを入れるか

登録:2022-01-29 06:23 修正:2022-02-01 07:34
パク・ヒョンのG2技術覇権 
「(デジタル人民元が)グローバル基軸通貨として機能するためには、グローバル取引規模だけでなく、国際的信頼性と安定性、金融及び資本市場の対外開放の程度、経済・金融関連法と制度の構築、地政学的要因など様々な側面が満たされなければならないため、デジタル人民元の発行だけで人民元の国際化が短期間で急速に進展することは容易ではないだろう」
中国人民銀行は北京五輪を1カ月後に控えた1月4日、法定デジタル貨幣の「デジタル人民元」(e-CNY)の電子財布アプリを正式にアプリストアに公開した。写真は上海の商店でデジタル人民元を使って決済している様子=上海/聯合ニュース

 中国が中央銀行発行のデジタル貨幣「デジタル人民元」(e-CNY)を主要10都市でテスト運営したのに続き、来月の北京五輪期間中に全世界にお目見えする。北京を訪れる外国人訪問客にもデジタル人民元を使用できるようにする予定だ。訪問客はバスや地下鉄などの交通機関やスーパーマーケット、有名観光地などでこのデジタル貨幣を使用できる。中国は2020年の深センを皮切りに、上海など10都市でモデルサービスを行っているが、外国人を対象にしたのは今回が初めて。五輪をきっかけに、中国がデジタル貨幣の発行競争をリードしていることを宣伝するためとみられる。

 韓国をはじめとする主要国は現在、「中央銀行デジタル通貨」(CBDC)の発行について、ほとんど検討段階にとどまっている。中央銀行デジタル通貨とは、紙幣や硬貨などの実物貨幣を代替または補完するために、中央銀行が発行するデジタル通貨をいう。デジタル人民元はスマートフォンの電子財布に保存されるが、実物として発行される人民元の現金と同じ価値を持つ。実質的価値を持たないビットコインのような仮想通貨と根本的に異なる点だ。仮想通貨は価格の変動が激しいが、デジタル人民元は現金のように安定している。

 中国人民銀行は4日、デジタル人民元の電子財布アプリをアプリストアに公開した。同アプリでは中国語の代わりに英語も使える。国際的な通用を念頭に置いた措置とみられる。昨年末基準でデジタル人民元の利用者と使用可能な場所はそれぞれ2億6100万人、800万カ所に達し、総取引額は876億元(約16兆6600億円)。もちろん一般人の使用は初期の段階だ。サウスチャイナ・モーニング・ポストは19日付で「北京東部地域のあるスーパーマーケットの従業員は、デジタル人民元を決済手段に使う顧客は多くないと話した」とし、「政府が使用を促すために発行したバウチャーなどの使用に限られている」と報じた。

 中国がこのように積極的にデジタル通貨の導入を進めるのには、大きく分けて二つの目的がある。一つ目に、アリババ、テンセントなど民間企業が掌握するモバイル決済市場を政府が統制するためだ。両社のモバイル決済手段であるアリペイとウィチャットペイは現在、モバイル決済市場の90%以上を占めるほど圧倒的だ。二つ目に、国際支払決済で基軸通貨のドル依存度を減らし、人民元の国際化を促進するためだ。中国は2010年から人民元の国際化を進めてきたが、国際決済市場で利用される割合は依然として2%に過ぎない。米中間の覇権競争の観点では、二つ目の目的が重要だ。デジタル人民元が国際的に通用し始めれば、1944年のブレトン・ウッズ体制以降、70年間続いてきたドル基軸通貨体制に亀裂が生じる可能性があるからだ。

 現在、各国の中央銀行はデジタル通貨が従来の為替取引バンキング方式における複雑で長い仲介手続きを簡素化し、所要時間を短縮するとともに、手数料を下げるなど、効率性を高めるものとみて導入を検討している。国際決済銀行(BIS)の調査によると、全世界の中央銀行の86%がデジタル通貨に関する研究・開発または実験を行っている。いくつかの国はデジタル通貨の国際取引のための規制・監督と監視体系を共同研究し、技術的標準を作るための協力作業も進めている。中国の実験は今後の国際標準の設定に影響を与えうる。

 一方、米国の動きは非常に遅い。米中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は当初、昨年夏ごろに関連報告書を発表する計画だったが、今年1月20日になってようやく「デジタルドル」のメリットとデメリットを説明する討論文形式の報告書を発表した。同報告書は、家計と企業が安全なデジタル決済手段を確保できる点を取り上げながらも、金融市場の安定性に対する脅威やプライバシー保護の問題、詐欺と違法行為に対する対処などの解決課題にも言及した。FRBは「この討論文が何かの政策を提案しているわけではない」と説明した。

米ドル=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 ウォールストリート・ジャーナルは今月20日付で「FRB内部でも意見の相違が存在する」と報道した。賛成派は資金取引の迅速性や低い取引費用、銀行口座を持てない金融疎外階層の受け入れ、パンデミックのような状況での政府補助金の直接支給などのメリットを挙げる。また、基軸通貨保有国として国際標準開発に最初から参加する必要があると主張している。一方、反対派は今もドル取引が非常にデジタル化しており、金融包容は他の手段でも可能で、中央銀行が個々人の取引内訳をモニタリングできる点などを挙げて反論している。フィラデルフィアFRBでは金融危機が発生した場合、個人たちが銀行預金やファンドからお金を引き出し、超安全資産であるデジタルドルに換える誘引が生じるなど、金融システムの不安定をもたらしかねないという報告書も発表した。

 ジェローム・パウエルFRB議長は昨年、数回にわたって公開席上で国際支払決済市場における基軸通貨としての地位に触れ、「早く導入するより、しっかりと導入することが重要だ」と述べた。彼の慎重な態度から、デジタルドルの発行をめぐる米国の決定が近いうちに行われる可能性は低いとみられる。

 米国がこのような態度を示すのは、中国よりデジタル通貨の発行が遅れても、ドルの基軸通貨の地位が簡単には揺らがないという自信があるからだ。金融専門家らは、各国の中央銀行がデジタル通貨を発行しても、国境間の資金取引のためには、今よりは簡素化されるとしてもかなり複雑な手続きを経なければならないとみている。現在、国境間の支払決済は自国の銀行と相手国の銀行、銀行間の資金取引要請・確認通信網である国際決済システム(SWIFT)、実際に支払いを実行する主要国為替取引銀行などを通さなければならない。各国は、通貨主権保護の必要性とマネーロンダリング、不法資金流入の可能性などのため、他国のデジタル通貨を自国内で自由に通用させることができない。

 世界的な貨幣専門家で米バークレー大学のバリー・アイケングリーン教授は、昨年8月の「プロジェクト・シンジケート」への寄稿文で、このように説明している。「韓国がコロンビアからコーヒーを輸入し、輸入代金を『デジタル人民元』で支払うとしよう。ところが、コロンビアの輸出業者がデジタル人民元を使うためにはもう少し有用な通貨に変えなければならない。結局はニューヨークの銀行を通じてドルに両替しなければならないだろう」。アイケングリーン教授は「世界的に200カ国がデジタル通貨を発行した場合、これらの間で相互運用を可能にするためには数千の協約が必要だが、これは不可能だ」とし、「結局、中央銀行デジタル通貨は国際支払決済システムを変えることも、ドルの地位を揺るがすこともできないだろう」と述べた。

 ただし、部分的にヒビを入れることはあり得るかもしれない。まず中国は、一帯一路プロジェクトに参加した諸国と送金や貿易決済にデジタル通貨を使用する案を進める可能性がある。一帯一路プロジェクトは、陸海空のシルクロードを介して中央アジアや南アジア、東南アジア、アフリカ、欧州を包括する巨大経済ネットワークを構築するものである。人民銀行のデジタル通貨推進過程に詳しいある関係者は、筆者に「中国は一帯一路を結ぶ諸国にインフラ建設だけでなく金融支援も行っている。国際電子商取引と代金の決済に中国のデジタル通貨を使用するよう求める可能性が高い」と述べた。

 また、米国がドルを武器として振りかざす制裁の刃を避けたい国々もこれを使用できる。イランは2018年に米国の制裁を受け、原油を輸出したにも関わらず韓国をはじめとする外国から代金をもらっていない。ロシアやベネズエラ、北朝鮮なども、米国の強力な制裁により、国際貿易や金融取引において大きな制約を受けている。これらの国が、中国との取引で「デジタル人民元」を使用する場合、米国の外交政策の核心手段である金融制裁に穴があく可能性がある。

 しかし、デジタル人民元がこのような部分的な使用を超えて、今後10年内にドルの地位を脅かすのは難しいとみられる。米コーネル大学のエスワー・プラサド教授は、著書『貨幣の未来』で「中国は人民元の国際化を推進したものの、資本統制と為替介入問題で成果を上げることができなかったが、デジタル人民元も同じだ」とし、「資本市場を自由化し、為替決定を市場に任せても、法と制度の安全性・信頼性の側面で外国人投資家にドルのように安全資産として認識されるのは難しいだろう」と予想した。韓国金融研究院のイ・ミョンファル研究委員は「(デジタル人民元が)グローバル基軸通貨として機能するためには、グローバル取引規模だけでなく、国際的信頼性と安定性、金融および資本市場の対外開放の程度、経済・金融関連法と制度の構築、地政学的要因など多様な側面が満たされなければならないため、デジタル人民元の発行だけで人民元の国際化が短期間で急速に進展することは容易ではないだろう」と分析した。

//ハンギョレ新聞社
パク・ヒョン論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1028593.html韓国語原文入力:2022-01-25 02:32
訳H.J

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