昨年11月、東京電力は福島原子力発電所の汚染水放出計画に対する放射線影響評価報告書を発表した。多核種除去設備(ALPS)により高濃度汚染水中の62の放射性核種の濃度を放出許容値以下に下げ、トリチウムは水で薄め濃度を下げて放流すれば、福島周辺地域の住民が受ける被ばく量はきわめて少ないという内容だ。ところで、果たして海洋放出が最善の方法なのか。
この報告書はいくつかの重要な問題を見逃している。第一に、福島原発事故の初期に海洋放出され海底に沈殿した核種による海洋生態系の汚染と人体被ばくを全く考慮していない。事故初期、凍土壁などが設置される前に汚染水が海に直接大量放出された。その結果、事故から10年が過ぎた今、福島近海の海水の放射能濃度は事故以前の水準に回復したが、海底地域は相対的に高いと報告されている。海底には依然として多様な放射性核種が大量に存在しており、海洋生物の生態系にも移動している。したがって、住民が受けることになる被ばく爆量には、計画中の汚染水放出によるものだけでなく、事故初期から累積した海底の核種により起きる被ばくも含まれなければならない。
第二に、汚染水の海洋放出で原発除染作業のための敷地が確保されるという主張には呆れざるをえない。2020年末、日本原子力規制委員会は福島原発2・3号機の遮蔽コック付近で放射性物質のセシウムが70P Bq(ペタベクレル)検出されたと発表した。これは、事故で大気中に放出された量の2~3倍に達する数値だ。これにより除染作業も再び遅れると予測される。除染作業が終了しなければ、損傷した核燃料の放射性核種は今後も冷却水に放出される。汚染水が今後も発生し続けるということだ。したがって汚染水の放出期間も30年ではなく60年に延びることもあり得る。日本の計画によれば、年間放流量に相当する汚染水が毎年発生する。したがって海洋放流をしても、30年から60年間にわたり現在の敷地が維持されるということだ。画期的な空間の確保は不可能だ。
第三に、敷地内の汚染水タンクに保存された汚染水のうち70%にあたる高濃度放射性汚染水が自然災害や人災で漏出する場合に、それへの備えがない点だ。放流より急ぐべき仕事は、高濃度汚染水の漏出事故を防止するために早期に高濃度汚染水を再浄化することだ。福島原発の高濃度汚染水には、トリチウム以外にもセシウム(137Cs)やストロンチウム(90Sr)、ヨード(129I)などの核種が含まれている。トリチウムに論議が集中しているが、他の核種に対する深みのある評価が必要だ。
半減期が短い核種は、時間が過ぎれば危害度がはっきり下がる。代表的な例としてトリチウムはタンクにさらに長く保管することだけで解決できる。半減期が12年なので60年程度地上で保管しさえすれば、放射線量を現状の3%程度にまで下げられるためだ。汚染水の海洋放出に執着するのではなく、汚染水の70%に該当する高濃度汚染水を早期に浄化し、汚染水の保存敷地を追加で確保し、汚染水を60年ほど保管すべきなのだ。これこそが私たち皆の大切な海洋環境を汚染せず、福島地域の住民と隣国の憂慮を減らせる合理的な方案だ。