昨年10月、マクロ経済学の権威であるラリー・サマーズ教授はあるインタビューで、現在、マクロ経済政策は革命的な変化の時代にさしかかっていると述べた。インフレ対応において通貨政策が経済安定化のための主な手段となった40年前と似た、大きな変化が現れているというのだ。変化の中心はやはり財政政策だ。ケインズ主義が後退した後、長きにわたって保守的なマクロ経済学が優位にあったうえ、裁量的な財政政策に反対する声も大きかった。しかし、その結果は長期的な経済停滞だった。世界的な金融危機と欧州財政危機以降、緊縮の悪影響が明らかになり、「新型コロナウイルス・パンデミック」はついに「大きな政府」と財政政策の帰還を生んだ。
各国政府はパンデミックに対応して所得と雇用を守るよう努めた。実際に、コロナに対応した直接的な財政支出は、先進国の平均国内総生産(GDP)の約17%に達するほどだった。これは、経済危機のようなショックは新技術導入に対する投資の鈍化と長期失業をもたらすとともに、生産性と長期的な経済成長にも悪影響を及ぼす、という新たな理解を背景としたものだ。いわゆる「履歴効果」に関するマクロ経済学研究だ。また、金利が経済成長率より低い時代には、政府負債比率の上昇に対する懸念が弱く、公共投資の拡大は成長と財政に役立ちうるためだ。
バイデン政権は、景気を刺激するために1.9兆ドル規模の米国構造計画を導入し、その後、1.2兆ドル規模の長期的インフラ投資法案を可決させた。莫大な景気浮揚と、特に供給側のボトルネックによって、最近はインフレが強く懸念されるとともに、政治的な反対により大規模なセーフティネット投資計画が取り消しの危機に瀕しているのは憂慮すべきことだ。しかし、緊縮の時代が終わりを告げたということは明らかだ。公共投資を通じた総需要の拡大と供給側の技術革新との好循環によって、生産性の上昇が促進されるとともに長期停滞を克服しうるだろう、との期待も現れている。
パラダイムシフトの2つ目は不平等だ。長きにわたって悪化してきた不平等に対する憂慮は強い中、多くの経済学研究者は不平等が総需要の不足、低所得層の教育投資の阻害、そして社会対立の深化を通じて成長に悪影響を及ぼすと報告している。今や経済学者たちは不平等について、技術の変化やグローバル化などの要因とともに、労働者の交渉力の低下と経済政策の責任も大きいと指摘する。
したがって、数年前から各国は不平等を改善し、包容的成長を促進するために努力を傾けてきた。カナダ政府は財政拡大と富裕層増税を通じて、成長と分配において成果を収めた。英国は保守党政権が地道に最低賃金を引き上げ、2015年から最低賃金を導入して成果を上げたドイツの新政権は、最低賃金の25%引き上げを進めている。財政危機で苦しんだ南欧諸国も最近、財政拡張や所得再分配、最低賃金の引き上げに努めている。ポルトガルは拡張的な財政政策により成長に成功しており、スペインは2019年に最低賃金を22%も引き上げている。
アジアにおいても、日本は2016年のアベノミクス第2段階で分配と成長の好循環を強調し、岸田政権は最近、労働者の賃金引き上げ、所得分配を改善する新しい資本主義を提示している。中国は2012年以降、賃金を引き上げ消費を拡大する内需中心の経済成長へと成長戦略を転換している。最低賃金の引き上げと財政支出の拡大を背景として、2010年以降の10年間の目標だった所得倍増に成功し、不平等もかなり改善された。
結局、グローバル金融危機とパンデミックからマクロ経済が得た教訓は、緊縮と不平等は経済に悪いということだ。このような転換期に大統領選挙を迎えた韓国において、候補たちはいかに不平等を改善し、いかなる財政政策を展開するのか、ビジョンを提示しなければならない。しかしイ・ジェミョン候補の語る基本所得が現実においていかに不平等を改善しうるのか、ユン・ソクヨル候補は所得分配の改善のためにどのような政策を持っているのかは明確でない。シム・サンジョン候補は市民最低所得と全国民所得保険を提示しているが、様々な公約に対する検証と論争が発展しなければならないだろう。一方、韓国政府はコロナ対応での支出が非常に少ない。他の先進国に比べて政府負債比率の上昇は小さかったが、家計負債比率は大きく高まった。今や与野党共に損失補償を口にしているが、必要なのは言葉ではなく実践であろう。何よりも財政政策については、政府負債と増税の問題、そしてどの部門の財政支出を拡大するのかについて、候補たちの主張を聞きたい。韓国の大統領選挙が、新たな未来を論議する大切な機会となることを期待する。
イ・ガングク|立命館大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )