「K-防疫」が揺れている。韓国は一時、コロナ時代の3冠王だった。第一に、対人口比累積感染者と死亡者数が最も少ない国家群に属し、第二に、先進国の中で経済成長の損失が最も少なかった国で、第三に防疫規制の最高レベルが最も弱く封鎖期間も最も短い国だった。世界で防疫、経済、自由のバランスをこれだけ達成した国はほとんどなかった。国民のプライドを高める十分な根拠となった。
ところが今、このようなK-防疫がもはや作動していないという証拠が我々の前にある。一日の新規感染者が1万人に迫っており、医療現場や防疫業務には過負荷がかかり、病床が空くのを待っているうちに亡くなる患者も増えている。専門家らはこのように統制が効かない状況について警告を発し、特段の対策を講じるよう求めている。一方、ワクチン怪談やフェイクニュース、陰謀論、コロナの政治争点化など、これまで西欧諸国を破局に導いた典型的な現象が、ここに来て韓国で蔓延している。
このような状況がなぜ起きたのか。保健医療上の諸要因もあるだろうが、政治的要因が非常に重要である。K-防疫モデルの2つの強みと2つの弱みがあった。強みは政府の迅速な決断と施行、市民の自発的な自己規制だった。一方、弱みは脆弱なセーフティネットと公共医療の問題だった。これらで発生した変化が問題のカギだ。
韓国政府の新型コロナ対応の特徴は、そのレベルではなくタイミングと執行力にあった。オックスフォード大学ブラバトニック公共政策大学院の資料によると、韓国政府は感染拡大以前に素早く対応し、感染拡大が沈静化すると対応を緩和したのに対し、米国や英国など西欧多くの国は感染が拡大してから対応のレベルを高めたため、より強い封鎖措置を取らざるを得なかった。
政府の対応より重要な韓国の成功の秘訣は、市民の自己規制だった。市民たちは処罰を恐れて政府に従ったわけではない。市民が「先に」と反応した。北韓大学院大学校のキム・ジョン教授の分析によると、韓国では感染が広がり始めると市民が先に移動量を減らし、その延長線上で政府規制に協力するパターンが続いた。
今はどうか。 最近の感染拡大は政府の「段階的日常回復(ウィズコロナ)」政策から始まった。K-防疫の一軸が明らかに変わったのだ。すでに多くの国でこの政策の中途半端な導入は感染の大流行につながり、より強い封鎖とより大きな経済打撃をもたらしたにもかかわらず、政府がこの決定を急いだ背景は何か。防疫規制で被害を受ける階層の所得を保障する制度と財政の限界のためだろう。K-防疫の弱みが強みを上回ったのだ。
市民の自己規制にも変化が生じた。問題は防疫疲れのような曖昧な心理要因ではなく、大統領と与党に対する信頼低下という具体的理由だ。高麗大学政府学研究所のオ・ヒョンジン博士の最近の分析によると、大統領と政党への支持が政府の防疫政策とワクチンの信頼に及ぼす影響が非常に大きかった。政権交代の世論が高まるにつれ、距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)とワクチン接種などへの抵抗も大きくなった。K-防疫を支える市民側の軸にも亀裂が生じた。
このように、K-防疫の2つの強みが機能しなくなるにつれ、新規感染者が急増し、最終的にはそれが病床と医療陣の過負荷、在宅治療の支援人材の限界につながった原因は、K-防疫の2番目の弱みである公共医療インフラの欠如にある。K-防疫の弱みが露呈してしまったのだ。では、問題解決の方向は何だろうか?
第一に、最も急がれるのは、市民が政見の違いを越え、新型コロナ対応という国家的課題に関して大統領と政府を信頼できるようにすることだ。この問題が解決されない限り、中央災害安全対策本部や疾病管理庁などの機関がいくら説得しても、K-防疫の強力な軸である「市民の盾」が再び堅固になることはないだろう。防疫の根幹をなすのは、ワクチンパスなどの外的規制よりも、市民の信頼である。それは大統領と首相など政治指導者がその役割をきちんと果たしてこそ成し遂げられるものだ。
第二に、K-防疫のもう一つの軸である「国家の盾」が持続可能になるためには、「追跡し、検査し、治療する3T」だけでは不十分であることがすでに明らかになった。基本的な所得保障なしには合理的な防疫は不可能であり、公共医療の拡充なしには災害への対応が難しいという真実を、我々は痛感させられた。普遍的な社会保障を制度化し、非営利公共領域を拡大してこそ、韓国は今後繰り返される感染症の危機にも正常な社会を維持することができる。今求められるのは、政治的な推進力である。
シン・ジヌク | 中央大学社会学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)