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[寄稿]非難本能の虜となった韓国社会

登録:2021-12-07 09:37 修正:2021-12-08 08:39
仁川階間騒音事件をめぐる騒ぎに接して 
 
キム・ジヌク|西江大社会福祉専攻教授、警察庁性平等委員会委員

 2015年に、3歳になるシリア難民の子どもがトルコの海辺で遺体で発見され、世界に大きな衝撃を与えた。多くのシリア難民が欧州に必死の脱出を敢行し、大小の人命事故が絶えない中で起きた事件だった。

 全世界の良心を深く傷つけたこの事件の原因は非常に複雑だったが、真っ先に現れた反応は非難の対象探しだった。難民の切迫した状況を利用した、金もうけに血眼になった密入国業者が標的になった。巨額の金を受け取って小さなボートに定員を大きく超過する難民を乗せたのだから、天候の変わりやすい地中海で大規模な人命事故が起きたのは必然だというメディア報道がそれに続いた。彼らの貪欲さは非難されて当然だったが、難民の発生原因から欧州連合(EU)の難民政策に至る長い鎖を見れば、それは枝葉の問題だった。これは、ハンス・ロスリングが共著者として参加した『ファクトフルネス』という本に紹介されている非難本能の代表例でもある。

 非難本能とは、「なぜ悪いことが起きたのか明確で単純な理由を探そうとする本能」のことだ。社会的に大きな波紋を呼ぶ事件が発生した際、その構造と原因を事実にもとづいて総合的に診断するというよりは、手っ取り早く個人や特定集団のせいにする傾向が社会にはある。過ちを犯した者を捜し出すために真実を歪曲したり、事実にもとづいた理解を妨害したりするのだ。

 筆者が非難本能を思い浮かべるのは、最近のある事件に対する韓国社会の対応のあり方がこれとあまりにもそっくりだからだ。仁川(インチョン)で、階間騒音騒ぎで出動した男女警察官が、犯行を防ぐどころか現場を離脱してしまったという事件だ。もちろん、メディアに報道された前後の脈絡をみると、市民の安全に責任を負うべき警察の職務放棄という点には弁解の余地がなさそうにみえる。

 ところが、非難の矛先は問題の本質とは異なる、突拍子もないところへと向かった。すなわち「女性」警察官だ。いわゆる「勉強が良くできるに過ぎない、警察公務員試験に合格した女性」たちには市民の安全を守るための身体的能力があるのか、という懐疑的な主張が、SNSやメディアを通じて広まったのだ。これは明白な非難本能フレームであり、女性憎悪にまでつながりうる、極めて懸念すべき現象だ。

 後続報道で明らかになったように、事件の発端となった警察の現場離脱は、女性警察官だけでなく男性警察官も行っている。女性警察官が凶悪犯を制圧して逮捕した例も、逆に男性警察官が制圧に失敗した例も多い。性別の問題ではない。事件の際、警察官たちは銃器を持っていたにもかかわらず、なぜ使用しなかったのかを調べるべきだ。犯人を制圧するための物理力対応訓練は適切だったのか、物理力対応マニュアルと職務上の免責要件が警察の積極的な職務遂行に合致しているのかも問わなければならない。権威主義政権において、恐ろしい警察の公権力が民主化の波の中でどのように不信と嘲笑の対象へと転落したのか、真剣に省察することも必要だ。

 少し話題を変えてみよう。2012年夏、学術大会への参加のために訪れたノルウェーのオスロで、筆者は主催者側の人々と話を交わす機会を得た。その翌日というのが、2011年にキャンプ中の青少年77人を銃乱射で殺害したブレイビクに対して最終判決が下される日だという。精神鑑定の結果、特に異常がなければ法定最高刑が下されるだろうとのことだった。筆者を含む韓国人参加者たちはこの事件をよく知っていたため、北欧福祉国家の対処のあり方が非常に知りたかった。韓国でなら、極悪非道な犯罪者を直ちに死刑にせよという声が高まっていたはずだからだ。

 どんな罰を受けることになると予想するかと尋ねると、ノルウェーの法定最高刑は懲役21年だという。驚いた私たちにとって、彼らの付け加えた話は改めて衝撃だった。ノルウェー人たちは犯罪者個人を非難する代わりに、犠牲者を追悼し、なぜ社会がそのような凶悪な犯罪者を生んだのか省察しようとしたというのだ。

 スケープゴートを見つけ出して非難の矛先を向けることは簡単だが、皮相な解決策にすぎない。成熟した社会へと向かって一歩踏み出すためには、非難本能のせいで犠牲になる集団がないか、細心の注意を払って観察しなければならない。今この瞬間にも、現場で黙々と努力する女性警察官たちに、市民の温かい励ましが必要な理由はここにある。

//ハンギョレ新聞社

キム・ジヌク|西江大社会福祉専攻教授、警察庁性平等委員会委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/1022213.html韓国語原文入力:2021-12-06 18:45
訳D.K

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