パク・クォニル｜社会批評家
韓国は「先進国」だ。国内総生産（GDP）の規模で見てもそうであり、K-POPやネットフリックスのドラマ「イカゲーム」の成功を見てもそうだ。さらに、ブランド品の消費でも大韓民国は世界最高水準だ。誤解のないよう明らかにしておくと、この言葉には冷笑や軽蔑は混じっていない。物質文明は構成員の寿命と健康を増進し、さらに彼らの「平均的な苦痛」を軽減することに多大な役割を果たす。それだけでも価値がある。問題はそれが全部ではないという点だ。
社会学者のロナルド・イングルハートとその同僚たちは「物質的に豊かになるほど、人類の関心事は、即時的な生存から『生活の質』と『民主主義の深化』に移る」と宣言した。簡単に言うと、経済水準が上がれば、他人に対する配慮や弱者に対する寛容度が高まり、さらには民主主義の内実も深まるということだ。これを証明するために、彼らは40年間百数十カ国で「世界価値観調査」を進め、多くの国々でそのような傾向が観察された。彼らはこれを「静かな革命」と呼んだ。
民主主義は、イングルハートとその同僚たちの主な関心事だった。民主主義の深化、すなわち民主主義が深まるという言葉の意味は、「形式的民主主義」から「効果的民主主義」に移ることを意味する。「形式的民主主義」は、自由と平等が表面的・制度的に保障された民主主義だ。しかし、民主主義が形式的に備わっているとしても、すべての国が実質的に民主主義社会であるわけではない。「効果的民主主義」は、民主主義が制度として存在するだけでなく、実際に個人が日常において自由を十分に享受し、平等に尊重される民主主義だ。私たちがよく「先進国」と呼ぶ北欧や西欧の数カ国が、この「効果的民主主義」が強く表れている社会だ。
韓国はどうだろうか。「K-民主主義」という言葉が出てくるほど、韓国人の民主化への自負心は強い。ろうそくデモは韓国人の高い市民意識の象徴だとみなされている。それならば、韓国の民主主義も深化したのだろうか。言いかえれば、韓国は「効果的民主主義」社会に移行したのだろうか。残念ながら、それはできなかった。韓国は、「形式的民主主義」についてはほぼ西欧の先進国に近づいているが、「効果的民主主義」では大きな差で下回っている。日本より低いのはもちろん、台湾よりも低い（イングルハート、ヴェルツェル『近代化・文化的変容・民主主義 : 人間的発展の順路』（原題:Modernization, Cultural Change, and Democracy）、2011）。
彼らの研究は何ら絶対的な真理ではない。しかし、少なくとも一貫した基準はある。民主主義に関する重要な要素は、「自己表現価値」（self-expression values）と「エリートの高潔性」だ。自己表現価値は、後期産業社会に進むほど強まる特徴として「親族関係と利害関係を越えるきずなと寛容、自由への熱望、他人に対する信頼、人類全体の問題に多大な関心」を示す。イングルハートは同性愛への寛容性を特に強調するが、これが自己表現価値と最も密接な関連を示す指標だからだ。参考までに、2019年の経済協力開発機構（OECD）の調査結果によると、韓国は同性愛への寛容性で36カ国中32位と最下位圏だった。ほとんどの国々とは異なり、韓国はいくら経済水準が上がっても、寛容や信頼はたいして強くはならなかった。「蔵から人情が出る」（豊かになってこそ他人を助けられるようになるという意味）ということわざが、韓国では通用しないのだ。
「エリートの高潔性」は簡単に言えば、「エリートがどれくらい腐敗することなく清廉なのか」だ。効果的民主主義の指数自体が「形式的民主主義」と「エリートの高潔性」の掛け算で計算されるほど、エリートの高潔性は民主主義の水準に対して決定的だ。韓国のエリートの高潔性はどうだろうか。全員が察するように、ひどい状態だ。最近の大庄洞（テジャンドン）問題は、韓国の法曹エリートがいかに徹底的に腐っているのか再確認させた。OECDは事あるごとに「韓国の最高位層の腐敗は深刻だ」と警告しているが、この国はいつもそのままだ。これだから効果的民主主義の指標が高く出るわけはないのだ。
付け加えて提起したいことは、能力主義についてだ。韓国の能力主義は「不公正」にだけ没頭し「不平等」は無視する結果を生んだ。私たちは、特権を勝ちとる過程の公正には敏感に反応し、特権自体を減らすことには驚くほど無関心だ。しかし、特権を放置したまま腐敗と不公正に怒ることは、食べものを積み上げて放置しておきながら虫が集まって困ると腹を立てるようなものだ。韓国社会が形式的民主化に留まるだけで社会経済の民主化を進められない理由も、そこにあるのではないだろうか。韓国の「先進国」についた引用符を外すための道のりは遠い。
パク・クォニル｜社会批評家 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
訳M.S
