中国の映画界は今、朝鮮戦争が話題だ。朝鮮戦争当時、蓋馬(ケマ)高原近くで繰り広げられた長津湖の戦いを取り上げた『長津湖』(原題)は「史上最高の興行収入」の記録に向かって突き進んでいる。『さらば、わが愛/覇王別姫』を作ったチェン・カイコーと『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』を手掛けたツイ・ハークなどが共同監督を務め、イー・ヤンチェシーやとウー・ジンなどスター俳優たちが出演した同映画は、13億元という過去最高額の制作費をかけて作られたが、公開11日ですでに40億元(約7427億ウォン)を超える興行収入を上げた。
中国はなぜ今、この映画を作ったのだろうか?中国が「米国に抵抗し、北朝鮮を助けた戦争」という意味の「抗米援朝戦争」と呼ぶ朝鮮戦争の映画は、政治的な風向きによって浮き沈みが激しかった。冷戦時代の1950~1960年代には『上甘嶺』(原題)、『英雄児女』(原題)など、朝鮮戦争を取り上げた有名な作品が作られたが、1970年代の米中和解以降はほとんど姿を消した。韓国や米国との関係を考慮し、朝鮮戦争に言及することはタブー視され、中国内でも朝鮮戦争に介入したことが中国の利益を損なっただけではなく、正しくなかったという論争が活発になったためだ。
ところが、習近平国家主席が政権を握って以来、このような流れは変わった。習主席は「抗米援朝は正義の戦争」という歴史観を強調する。これには二つの意味がある。中国共産党の朝鮮戦争への参戦は正しかったから、これ以上の批判は許されないということだ。2018年に米中「新冷戦」が始まってからは「中国が米国に対抗して結局勝利する」という政治宣伝の意味が加わった。『長津湖』には「欧米の輩が我々を無視しているが、尊厳は戦争で戦って勝ち取るもの」という毛沢東のセリフが登場する。このような愛国主義の宣伝を通じて、不平等や失業増加などによる不満を抑え込もうとする意図もある。
2016年に30年ぶりに『My War 我的戦争』という朝鮮戦争を取り上げた映画が中国で公開された。その後、韓国の映画配給会社が輸入しようとして、物議を醸した『バトル・オブ・ザ・リバー 金剛川決戦』に続き、『長津湖』が上映され、間もなくチャン・イーモウ監督の『狙撃手』も公開される。習近平主席が「米国に対する勝利」を掲げる限り、「朝鮮戦争」を取り上げた映画は引き続き登場するだろう。
単なる映画にここまで意味付けをする必要があるかと、疑問に思う人もいるかもしれない。『長津湖』は中国共産党中央宣伝部や国家映画局、中央軍事委員会政治工作宣伝局、北京市宣伝部などの支援で作られ、人民解放軍兵士7万人が出演、封切りを控えて官営マスコミが総動員して広報活動に乗り出した。マスコミと文化産業、インターネット評論まですべて、当局の厳しい統制を受ける中国の現状では、単なる映画と見なすわけにはいかない。
ところで、長津湖の戦いは中国当局の宣伝のように「米国に対する中国の勝利」なのか。1950年11月27日から12月13日までKATUSAとして参戦した韓国軍700人をはじめ、米軍3万人が氷点下40度の酷寒の中、中国軍12万人に包囲されたが、17日目に包囲網を突破して興南(フンナム)撤退に成功した。米軍7338人が戦闘による負傷と寒さで死亡したが、中国軍の死傷者も約4~8万人と推定される。どちらも「勝利」を主張するよりは戦争の残酷さをかみしめるべきではないだろうか。
朝鮮戦争に対する中国の解釈は、韓国にとってどのような意味を持つのか。中国の解釈では、米中2大国の勝敗が取り上げられるだけで、韓国の犠牲と立場は考慮されていない。長津湖の戦いに参加した韓国軍700人のうち500人が戦死した。最近、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が国連総会演説を終えて帰国途中、ハワイで遺骨を引き渡してもらったキム・ソクチュ、チョン・ファンジョ一等兵も、長津湖の戦いで犠牲になった。「中国が決然と『侵略者』を打ち破った正義の戦争」という習近平主席の宣言は、中国とソ連の支援を受けた北朝鮮の南侵で戦争が勃発したという歴史的事実に背を向けている。
1992年の韓中国交正常化交渉当時、中国の朝鮮戦争参戦問題が争点になった。国交正常化の主役の一人であるイ・サンオク元外務部長官の回顧録によると、韓国側は当時中国に「参戦により韓国国民が被った大きな被害と犠牲を考慮し、両国関係を正常化する歴史的転換点で、二度とそのような不幸がないようにするという意味で、中国側の適切な釈明が必要だ」と要求した。しかし中国は「この歴史問題はずいぶん前に過ぎ去ったことであり、両国関係の正常化を論議するにあたって、過去の歴史問題を提起することは不必要な論争を招くことになる」と対応した。しかし今の中国は自ら「過去の出来事」とした歴史を再び取り上げ、愛国主義に基づく結集のため、政治的に動員している。
東北アジア歴史財団のオ・ビョンス研究委員は『韓中歴史教科書対話』で、習近平時代以降、中国が朝鮮戦争だけでなく歴史叙述全般を変え、新しい「国家アイデンティティ」を作っていると分析する。「中国の前近代を『文化帝国』と説明し、少数民族に対する国家主義的統合、周辺国との位階的関係を強調し、近現代史では『非西欧的大国』である中国と周辺国との歴史関係を『大国と小国』の関係に置き換えることで、東アジア地域の秩序全般に対する大局的介入を正当化する論理を作り出している」と指摘する。強くなった中国が隣国と平等な関係の代わりに「大国と小国」、「中華と旧属国」の論理を掲げることは警戒すべき部分だ。
中国人はみな「長津湖」の官製愛国主義に熱狂しているのだろうか。官営メディアがこぞって好評し、インターネットには劇場で感激のあまり観客たちが立ち上がって敬礼をする写真が拡散されている。しかし、検閲で削除される少なからぬ批判が存在する。経済週刊誌「財経」の副編集長出身のジャーナリスト、羅昌平氏は「半世紀後、この戦争が『正義の戦争』だったという主張について反省する人がいない」という痛烈な批判の書き込みを掲載し、逮捕された。強いられた愛国主義に質問を投げかける多くの中国人がそこにいることを忘れてはならない。