監査院が最近、文在寅(ムン・ジェイン)政権がTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備を故意に遅延させたとして、検察にチョン・ウィヨン元国家安保室長らの捜査を要請していたことが明らかになった。現政権の任期はすでに半分も過ぎたのに、依然として前政権を標的とした監査に血眼になっているのだ。とりわけ、監査院の最高意思決定機関である監査委員会議を無視して検察に捜査を要請したことは、憲法に明示された「合議制機関」の運営原則を傷つけるものだ。
監査院が監査に関して検察に捜査を要請するためには、監査委員会議の議決を経て正式に告発する必要がある。だが監査院は「証拠隠滅と逃走」の恐れを例外とする監査事務規則を掲げ、チェ・ジェヘ監査院長の決裁のみで捜査を要請したという。チョン・ウィヨン元室長らはすでに「脱北漁民強制送還」事件で検察から集中捜査を受け、起訴もされている。それでも逃走と証拠隠滅の恐れがあるというのか。
監査院はいつから、前政権の調査ばかりに熱を上げる「政権の手下」へと転落したのか。2022年の「西海(ソヘ)公務員殺害事件」の監査では、監査委員会の議決なしに検察に捜査を要請すると同時に報道資料を配布した。「証拠隠滅と逃走」を理由に監査委員会議を通さないでおきながら、誰に見せるつもりなのか騒々しく宣伝をするという形で、つじつまが合わなかった。この時、監査院は20人に対する捜査を要請したが、起訴されたのはソ・フン元大統領府国家安保室長ら3人のみだった。このようなやり方は「統計操作」と「チョン・ヒョンヒ標的監査」でも繰り返された。
監査院は、今度は文在寅政権がTHAAD配備を中国側に事前に説明したことを、軍事機密の漏えいだと疑っているという。外交ルートを通じてTHAAD配備に対する事前理解を求めたのは、国益のための「外交」に過ぎない。それを犯罪だと考える発想にはあきれる。今回の監査は、保守系の軍の元将官たちによる監査請求を国民監査請求審査委員会の審議も経ずに監査院事務処が一方的に決定したことではじまったという。監査院は、2018年の9・19南北軍事合意に則った非武装地帯の監視哨所のモデル撤去事業に対しても監査に着手した。前政権を標的とした監査は何としても貫徹するという態度だ。
憲法と監査院法では、監査院は「監査院長を含む7人の監査委員で構成する」となっている。監査院は監査委員会議の合意を通じて運営する、というのが憲法の精神だ。チェ・ジェヘ監査院長はそれを無視し、便法と小細工で監査院の権威を自ら傷つけている。「監査院は大統領の国政運営の支援機関」だという自身の信念を実践しているのか。監査院を台無しにしているこのような監査院長こそ、弾劾の対象だ。