ユン・ソクヨル前検察総長の支持率が、緩やかな下降傾向を示している。先月29日の出馬宣言後に実施された多くの世論調査では、おおむね小幅の低下を示している。与党側の候補との仮想対決では、イ・ジェミョン京畿道知事に押されている結果の発表が続いている。イ・ナギョン元首相とも誤差の範囲内で並ぶ結果が出ている。
様々な指標や分析によると、支持層の離脱は、中道・進歩層、全羅道、女性、20~30代で明らかだ。理由は二つにまとめられる。
一つ目は、「ビジョンの不在」だ。出馬宣言で衝撃的に明らかになった。食物連鎖、略奪、独裁などの激しい言葉を動員し、文在寅(ムン・ジェイン)政権を叩くことに全力を注いだ。どのような国や政府を作るのかについては五里霧中だった。さらに大きな問題は、ビジョンの乏しさがメッセージの失敗に続いたことだ。支持率下落を招いた1次要因だ。
政権に向けた憎悪と敵対心の表出に「反文在寅強硬保守層」は歓呼したはずだ。しかし、文在寅政権に失望し背を向けた中道・進歩層は、驚くしかなかったのではないか。「住宅価格の暴騰」のような現政権の政策の失敗に首を横に振ったとしても、「独裁・略奪」だと規定することに同意する中道・進歩層は、どれほどいるのだろうか。むしろ、そのような攻撃的な言辞から、ユン・ソクヨル式の政権交替が呼び起こす“報復の血の匂い”を感知した可能性が高い。
「反文在寅強硬派」は“新積弊清算”が叶うよう必死に祈っているだろう。そうなれば空いたポストも獲得できる。しかし、中道・進歩支持層も同じ強さの復讐心で燃えあがっているはずはない。対立より統合のメッセージを期待していたのではないだろうか。保守層の支持率には大きな変化がない一方、中道・進歩層の離脱が著しい理由だと思われる。
二つ目は、家族と本人の道徳性の問題だ。ここでも、道徳性の疑惑それ自体に劣らず、態度とメッセージの問題が大きい。
義母による「療養病院詐欺」は、国庫も同然の健康保険財政を詐取し、私利私欲を満たした事件だ。ところがユン前総長は、当初は「義母は10ウォンでさえ損害を与えたことはない」と述べたと報じられた。その後、野党「国民の力」のチョン・ジンソク議員が、自分が話を間違って伝えたとし、「ユン前総長は、事件の有罪無罪に関係なく、義母の事件で事件の当事者に金銭的な被害を与えたことはないと認識しているという趣旨」だと代理で釈明した。しかし、義母の容疑が公共財政を“略奪”したという点に照らすと、さらに話にならない。「国庫に損害を与えても同業者には金銭的な被害を与えなかったのだから、問題ない」と聞こえる主張をしながら国政を責任を負うと言っても、誰が信頼するだろうか。
義母が一審で実刑を宣告され法廷拘束された後も、ユン前総長は「法の適用には誰も例外はないということが私の所信」だという一言で終わりとすることに留まった。夫人のキム・ゴンヒ氏の論文盗作疑惑にも「大学が自主的に学術的な判断を行い、進められたのではないか」と述べ、他人事のような発言を繰り返した。
ユン前総長本人の疑惑についても強まっている。「ユン・ウジン元龍山(ヨンサン)税務署長賄賂疑惑」事件に関しては、3つの疑惑が提起されている。一緒に無料でゴルフをしたのか、検察捜査のもみ消しに力を使ったのか、弁護士を紹介したのかなどだ。検事が被疑者に弁護士を紹介するのは、弁護士法違反に該当する犯罪だ。ところが「当時部長検事だったユン・ソクヨル氏が弁護士を紹介した」というユン元署長の証言映像を、「ニュース打破」が19日に公開した。
多くの疑惑が深まるほど、ユン前総長が掲げる「公正と法治」に対する支持層の信頼は揺らがざるを得ない。現政権ではこのような価値が十分に守られなかったと背を向けた中道・進歩層としては、ユン前総長も同じではないのかという疑問が強まるほど、支持を撤回する可能性が高まる。
にもかかわらず、ユン前総長の支持率がすぐには落ちない理由は、逆説的にも支持率それ自体にある。今なお「反文在寅保守層」は、野党で最も支持率が高いユン前総長以外には政権交替の期待をかける代案を探せずにいる。同時にユン前総長としては、現在の支持率でも維持できれば、早期に退場させられることなく、支持率回復に挑める。そうしようとするならば、「反文在寅強硬派」に合わせた振る舞いを続けなければならないが、そうすると、ふたたび中道・進歩層の離脱が著しくなることもあり得る。
支持層とユン前総長が、尻尾を噛みあった状態でなだらかな丘を転がり落ちている状況だ。もちろん、このような状況は続けられない。反転するか、あるいは破局するかの分かれ道は遠くない。
ソン・ウォンジェ論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )