本文に移動

[コラム]世論調査が韓国の政治を荒廃させている

登録:2021-07-08 07:25 修正:2021-07-08 17:55
名誉欲と権力欲は人間の原始的な欲求だ。健全な人も世論調査の数値が急に上がれば目が曇る。「自分こそまさに天が下した大統領なのかもしれない」とか「自分はあまりにも賢いので、大統領程度はいくらでもうまくこなせる」という錯覚に陥る。

次期大統領選候補の世論調査で、ユン・ソクヨル前検察総長の支持率が少し下がった。不十分な出馬宣言と義母の拘束が、短期の悪材料として作用したのだろう。大統領選の政局、特に野党の状況は、当面はユン・ソクヨル前総長の支持率がどう動くのかにより変わるようだ。

 まず、支持率が上がった場合、ユン・ソクヨル前総長が野党「国民の力」を振り切って政局の主導権を握るだろう。政党を新たにつくって「国民の力」を吸収したり、選挙直前の候補一本化を試みる可能性がある。

 次に、支持率が下がった場合、政局の主導権は「国民の力」に移る。ユン・ソクヨル前総長は「国民の力」に入党し、ホン・ジュンピョ議員、ユ・スンミン前議員、ウォン・ヒリョン済州道知事などの党内の候補者たちと競争せざるを得ないだろう。

 三つ目に、支持率が急速に落ちた場合、大統領選から撤退せざるを得なくなることも考えられる。隙間を埋めるために、野党候補者たちがしのぎを削るだろう。チェ・ジェヒョン前監査院長が代わりに躍進する可能性もある。

 どのケースでも、今後継続して降り注ぐ世論調査の数値に、ユン・ソクヨル前総長と保守野党の運命がかかっているということだ。

 「政治家ユン・ソクヨル」の始まりも世論調査だった。6月29日の大統領選出馬宣言には、次のような内容がある。

 「公職を辞任した後も国民の皆さんが辞任は避けられなかったことを理解してくださり、絶え間ない支持と声援を送ってくださいました。私はその意味を深く考えました。(中略)政権交代に献身し、先頭に立てという意味でした」

 翌日、ユン前総長は国会記者室を訪れた。世界日報のブースで彼は記者らに「あの時、あの調査が出なければ、私はここまでは来なかった」と話した。2020年1月31日付の「ユン・ソクヨル、新保守と無党派層の支持を得て急浮上」という記事について言ったのだ。

 当時、世界日報の世論調査は、イ・ナギョン前首相(当時)が32.2%、ユン・ソクヨル検察総長(当時)が10.8%、ファン・ギョアン元未来統合党代表が10.1%、イ・ジェミョン京畿道知事が5.6%、パク・ウォンスン・ソウル市長(当時)が4.6%の順だった(中央選挙世論調査審議委員会のウェブサイトを参考)。現職の検察総長が野党第一党の代表を差しおいて2位に浮上した、最初の世論調査だった。ユン・ソクヨル前総長の発言は、世論調査のおかげで政治的な野心を持つことになったという告白であるわけだ。

 世論調査は「バンドワゴン効果」を伴う。バンドワゴン効果とは、大衆の間で流行する大勢にしたがい商品を購入する消費現象だ。

 現実の政治での世論調査の弊害は、まさにこのバンドワゴン効果により発生する。特に、反政治主義に寄りかかって政治に進出する“政治の門外漢”を防ぐのが難しい。当事者の錯覚のためだ。

 2011年、パク・ウォンスン弁護士にソウル市長の補欠選挙の候補の座を譲って人気を博すと、2012年の大統領選挙に乗りだしたアン・チョルス代表が、そのようなケースだった。2017年の弾劾で廃墟となった保守勢力の代案に浮上したパン・ギムン前国連事務総長も、そのようなケースだった。

 考えてみれば、名誉欲と権力欲は人間の原始的な欲求だ。健全な人も世論調査の数値が急に上がれば目が曇る。「自分こそまさに天が下した大統領なのかもしれない」とか「自分はあまりにも賢いので、大統領程度はいくらでもうまくこなせる」という錯覚に陥る。

 もちろん、すべての人がそうではない。コ・ゴン元首相とチョン・ウンチャン元首相は、世論調査の呼び出しに応えず退いたため、体面を守った。

 民意を読み取らなければならない政治において、世論調査は必須だ。しかし、参考程度にしなければならない。世論調査は基本的に無責任だ。単純な支持度調査は、熱意を持つ本当の関心層の苦悩に満ちた政治的選択には代われない。

 政権交替の世論は政権維持より強いが、(与党所属である)イ・ジェミョン京畿道知事はユン・ソクヨル前総長をリードしている。同じ調査でそのような結果が出ている。矛盾している。

 党内予備選と候補者の一本化を世論調査で行うのは、事実上、賭博と変わらない。それが韓国の政治の現実でありレベルだ。恥ずかしいことだ。

 代案がないわけでもない。選挙人団を募集し、携帯電話で投票すればよい。過去のように金を払い党員を募集できる時代ではない。組織の動員を行っても、自発的に参加する民意には勝てない。

 国民の力の大統領選候補は、選挙人団の投票を50%、世論調査を50%で反映し選出することになっている。ところが、100%世論調査に替えようという意見がある。ホン・ジュンピョ議員は「それなら何のために直接投票をするのか。世論調査機関に任せればいいだろう」と一喝した。ホン・ジュンピョ議員の言うことが正しい。

 選挙で選ばれる公職者を選出する投票は、主権者である国民が権力を行使する神聖な手続きだ。党内予備選も同じだ。世論調査によって予備選を行ってはならない。

//ハンギョレ新聞社

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1002567.html韓国語原文入力2021-07-08 02:06
訳M.S

関連記事