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[社説]ユン・ソクヨル前検察総長の大統領選出馬宣言、「憎悪の政治」だけだった

登録:2021-06-30 06:37 修正:2021-06-30 08:00
検察総長辞任後、118日ぶりの記者会見 
「独裁政権」を激しく攻撃…「ビジョン」は貧弱 
資質・道徳性の検証を本格的に受けるべき
ユン・ソクヨル前検察総長が29日、ソウル瑞草区の梅軒尹奉吉義士記念館で大統領選出馬の記者会見を行っている=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 ユン・ソクヨル前検察総長は29日に記者会見を行い、大統領選への挑戦を宣言した。ユン前総長は「政治参加宣言文」の大部分を、文在寅(ムン・ジェイン)政権を糾弾し政権交替の必要性を強調することに割いた。文在寅政権は独裁政権であり、政権と利害関係で結ばれた「少数の利権カルテル」が公正と法治を踏みつけ国民を略奪していると主張した。政権交替を望む「反文在寅強硬保守層」の求めに応じ、宣言文を政権批判一色で染めたものとみられる。

 一方、自身が構想する国と政府がどのようなものなのかについてのビジョンの提示は、貧弱だった。自由民主主義を守り公正と法治を正しく立て直すという抽象的な宣言にとどまった。検察総長辞任後の118日間、政権に対する憎悪と敵対の言葉を鍛えただけで、大統領候補としての準備を十分に進めてきたのか疑問を感じさせるほど、内容が薄かった。

 彼が掲げたキーワードも、産業化と民主化を経て先進国の地位に達した韓国社会の現実を十分に反映したものとはみなせない。彼は、現政権が自由民主主義から「自由」を抜きとり独裁を行っているとし、奪われた主権を取り戻さなければならないと主張する。「反文在寅強硬保守層」を除けば、同意する国民がどれほどいるのか疑問だ。公正というキーワードも、彼が検察総長として指揮した「選択的捜査」がはたして公正だったのかについて多くの人々が疑問をもつ状況では、むなしく聞こえるだけだ。

 この日の政治参加宣言でユン前総長は、検察総長を任期途中で辞任し、政治に直行した憲政史上初の記録を持つことになった。昨年2月、全国地検長会議で「検察の政治的中立は生命にも等しい」と訓示した彼が、実際には自身は検察庁法で明示された中立性の原則を蹴りとばす選択をしたのだ。彼は記者会見で「総長を務めた者は選挙で選ばれる職には進まない慣行には意味がある」としながらも、「絶対的な原則ではないと思う」と述べた。「生命にも等しい」価値を壊しながらも自分は例外だと主張する「ネロナムブル(自分がやるのはロマンスだが他人がやるのは不倫=自分は棚にあげて他人を非難すること例え)」だ。検事を規律する法と原則を羽毛のように軽く考える彼が法治と公正を掲げているのは、滑稽で悲しいコメディでしかない。

 この日の会見は、“大統領候補”ユン・ソクヨルに対する検証と評価の必要性をよりいっそう認識させた。「ヒョウが鹿を狩るように」被疑者を捜査し断罪してきた検察トップを越え、国民を統合し国民の生活を抱える国政の最高責任者としての能力と道徳性を備えているのか判断することは、さらに難しくなった。ユン前総長は「選挙で選ばれる公職者を目指す者は、能力と道徳性について無制限の検証を受けなければならない」と述べた。一部からは、義理の母と夫人が関係する検事時代の行動についても具体的な疑惑が提起されているだけに、本人と家族の道徳性の検証も「私生活の問題」などとして避けることはあってはならない。

 彼の出馬宣言をどう受けとめるのかは、結局は国民の選択だろう。しかし、未来に対する新しいビジョンなしに現政権に対する批判だけで権力を奪おうとするとは、不幸なことだとしか言いようがない。

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/1001445.html韓国語原文入力:2021-06-30 02:52
訳M.S

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