「国家保安法は廃止する」。私が準備中の国家保安法廃止法案の本文です。このように「たった一行」あれば十分でした。74年という長い間、韓国の市民の暮らしを締め付けてきた悪法をなくすのは、さほど難しいことではなかったのです。
保安法は変わらずぞっとさせるほど生きています。先日、目を疑うようなメディア報道に接しました。警察が金日成(キム・イルソン)回顧録『世紀とともに』を出版した出版社を家宅捜索したのです。過去の軍部独裁時代、全国各地の出版社と大学周辺の書店が何度もやられたことです。21世紀もすでに20年以上経った今の世で起きた出来事です。私たちの暮らしと日常に浸透している野蛮を容認することはできません。
1945年の解放で日本は去りましたが、独立運動家を弾圧するために制定された治安維持法は「国家保安法」へと改称されただけで残りました。日本ではなく韓国の政府が、自国の市民の思想と良心の自由を侵害する悪法を作ったのです。当初から人権侵害との批判が絶えなかった、植民地支配の残滓を受け継ぐ恥ずべき法です。軍事独裁政権も不当な権力の維持に国家保安法を悪用しました。スパイ事件を捏造して多くの人々を拷問し、牢獄に送り込みました。大切な命をむやみに奪いました。すでに再審などを通じてすべて明らかになっている事実です。
にもかかわらず、大韓民国の国会は民主化以降、この「たった一行の法案」を可決することができませんでした。立法労働者として、今なおこの悪法が健在だということが恥ずかしく、また申し訳ない思いです。一市民としても情けなく、残念でなりません。
2004年、国家人権委員会は国会議長と法務部長官に国家保安法の廃止を勧告しました。人権委は「制定過程からそもそもの問題を抱えていた」とし、「数回の改正過程も国民的合意を経ておらず、手続き上の正当性がない」と明確に指摘しています。法律の規範力も乏しく、存在の根拠も貧弱な反人権的法だとも述べています。また、「いくつかの条文の改正では問題点が正されず、恣意的な適用によって人権を侵害」してきたとし、「規定そのものに人権侵害の素地があるため、絶えず批判を浴びてきた」と主張しています。結論としては、「国家保安法は『全面廃止』することが時代の要求」であると確認したのです。
世界的にも類を見ない「民主主義の発展」と「経済成長」を同時に成し遂げた社会こそまさに韓国ではないでしょうか。今回のコロナパンデミックにより、厳しい状況の中でも政府と市民が一丸となって力を合わせ、模範的に危機を管理しています。このように大韓民国は危機に強い、堅固な国です。これまで堅固に築かれてきた韓国社会の基礎が、「国家保安法の廃止」によって揺らいだり、崩れたりするはずはないと、断固として確信します。
国際的にも非常に恥ずべきことです。韓国は国連事務総長を輩出し、国連人権理事会の議長国も務めました。にもかかわらず、国連の自由権規約委員会、社会権規約委員会、拷問禁止委員会などによる、国際社会の数多くの保安法廃止勧告を無視してきました。廃止どころか、ただの一行も直すことすらできなかったという事実は、国際社会では全く理解されません。
最近、わずか10日で「国家保安法廃止」国会立法同意請願に10万人の市民が同意しました。市民の自発的な参加により、この請願は国会法制司法委員会に付されました。国会はこれ以上ためらってはならないという断固かつ峻厳な命令です。市民の良心と人権意識を信じて今度は国会が行動する番だという応援であり、同時に国会をムチを打つものです。
ろうそく革命の志を受け継ぐ今の第21代国会は、応える義務があります。市民の人権感受性に足並みをそろえ、市民に政治、思想、表現の真の自由を返さねばなりません。韓国社会の発展を妨げてきた悪法である国家保安法の廃止を念願する市民の意思を、直ちに受け入れなければなりません。
国家保安法の廃止は朝鮮半島の平和の始まりでもあります。私たち皆の努力と力で、今や子どもたちに「国家保安法のない世の中」を見せるべき時です。
ミン・ヒョンベ|国会議員(共に民主党、光州光山区乙) (お問い合わせ japan@hani.co.kr )