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[社説]北朝鮮の攻撃態勢もたらし、境界地域住民の命を脅かす対北朝鮮ビラ

登録:2021-05-15 06:01 修正:2021-05-15 08:06
2020年6月19日、京畿道坡州市の民間人統制線内に住む境界地域の住民らが統一村農産物直売所前で、対北朝鮮ビラ散布の中止を求める声明を発表している=坡州市提供//ハンギョレ新聞社

 脱北者団体「自由北韓運動連合」が北朝鮮に向けてビラを散布した直後の先月末、北朝鮮が軍事境界線(MDL)近くの高射砲をさらに南側に前進配備したという。脱北者団体がビラをぶらさげた風船を北に飛ばした場合、北朝鮮側に入れないよう、高射砲で撃ち落とすと脅したのだ。もし北朝鮮軍が軍事境界線上空の風船を狙って高射砲を撃った場合、砲弾の破片は南側の京畿道と江原道の境界地域に落ちる。「ビラを撒けば砲弾となって返ってくる」という境界地域住民の懸念が現実になるのだ。状況によっては、南北間の武力衝突の可能性もある。韓国政府が境界地域住民の生存を脅かし、紛争拡大の火種となる対北朝鮮ビラ散布を阻止しなければならないのもそのためだ。

 北朝鮮にビラを撒く人たちは「表現の自由」を掲げる。一方、境界地域の住民は「生命権の保護」を訴えている。対北朝鮮ビラ問題が再び浮上したことを受け、チェ・ジョンファン坡州(パジュ)市長は10日、声明を発表し、「対北朝鮮ビラが散布されるたび、境界地域住民の軍事的衝突に対する不安感はピークに達している」とし、「対北朝鮮ビラ散布は表現の自由ではなく、安全で平和な生活を望む境界地域住民の願いをないがしろにする無責任な行為だ」と批判した。最近、イ・ジェミョン京畿道知事やチェ・ムンスン江原道知事も同様の主張をした。境界地域住民の安全保障のための休戦ライン一帯でのビラ散布禁止は、表現の自由に対する本質的な制限とはいえない。北朝鮮にビラをばらまいた容疑で警察の捜査を受ける脱北者などが、今月13日に「厳正な法執行」を言及した文在寅(ムン・ジェイン)大統領を刑法上の与敵罪(敵国と合流し、韓国に対抗する罪)で検察に告発したのは、韓国で政治的表現の自由がいかに保障されているのかを逆説的に示している。

 対北朝鮮ビラをめぐる南北間の偶発的な軍事衝突は、朝鮮半島の平和を全焼させるほどの大きな火種になり得る。軍事境界線付近は、厳しい軍事的対峙が続いており、一触即発の状況だ。南北は2014年10月、対北朝鮮ビラ問題で高射銃と機関銃を撃ち合い、衝突した経緯がある。当時、全面戦争に広がるかもしれないという恐怖で、何日も眠れない夜を過ごしたことが今でも鮮明に思い出される。

 北朝鮮軍の高射砲前進配置も、過剰対応という批判を免れない。韓国政府が大きな政治的負担を甘受してまで対北朝鮮ビラ禁止法を制定しており、文大統領は今月10日、就任4周年特別演説で「南北合意と現行法に違反し、南北関係に水を差すことは決して望ましくない」とし、「政府としては厳正な法執行をせざるを得ないことを強調する」と述べた。それを踏まえ、北朝鮮も事態を悪化させる言動を慎むべきだ。

(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/995303.html韓国語原文入力:2021-05-14 18:54
訳H.J

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