50年以上生きている間に私が何回引っ越しをしたのか数えてみた。1年以上暮らした家は17軒だった。このうち「マイホーム」は、生まれて13年間暮らした故郷の家と、8年前に入居し現在住んでいる高陽市(コヤンシ)のマンションの2カ所だけだ。他人の所有する家で暮らしていた30年以上の間、最も苦しかったのは急な保証金の高騰だった。それで「引っ越しはもうやめて住めるマイホームがほしい」と思った。家を買って財産を増やそうと考えたことはない。
ところが、苦労して分譲を受けて入居してから数年間これといった動きのなかったマンション価格が昨年、大幅に跳ね上がると、私はおかしくなった。恥ずかしいことに、相場をよく見るようになったのだ。文学評論家の故キム・ヒョン先生の昔の文章を思い出した。
「マンション価格が動く時期には、すべてのマンションの住民が生地に重曹をたっぷり入れたパンのように膨らむ。マンション団地は人を適度におかしくさせることに天才的な能力を発揮するのだ」(「根の深い木」1978年9月号)
43年前の文章だが、今もほぼ変わっていないようだ。これまでの数々の政策的努力にもかかわらず、「不動産不敗神話」は健在だ。もっと上がるはずだという不安から、若者たちは「魂までかき集めて」家を買うという。
銀行の個人向け住宅ローンの残高は今年3月に739兆ウォン(約72兆円)に達し、10年前に比べて449兆ウォン(約43兆7000億円)増加している。このように金融市場と不動産のつながりが深まったことで、金利は住宅価格にかなりの影響を及ぼすようになった。昨年、新型コロナウイルス感染症の流行を受けて、韓国銀行は政策金利を史上最低に引き下げたが、住宅価格の高騰がソウル中心部から外郭へと広がることに、これが大きな影響を及ぼした。住宅を持たない人々はさらに不安になり、高い住宅を複数持っている人々は増える税金に口をとがらせている。
「4月のカイコは暖かさを望むが、麦は寒さを望み、旅人は晴れた空を、農夫は雨を、桑の葉を摘む女は曇り空を望む」。このような昔の詩の空と同じくらい不動産政治は難しい。借家か持ち家か、どこにどんな家を持っているかによって要求が異なるからだ。そのため選挙シーズンになると政策が踊る。不満を持つ人たちは「待てばまた変わる」と信じ、実際にそうなることが多いものだから、不動産不敗神話はさらに強靭になる。
かつて、韓国の不動産政治は、政府が安価に宅地を大規模に確保し、分譲価格を規制して、住宅請約(一定期間預金をすればマンション分譲を申込む権利を得られる口座)通帳の加入者にかなりの量の新築マンションを安く供給するやり方が主だった。住宅を所有していない者に希望を与えるとともに、住宅価格の上昇もある程度抑制して、大口投資家が不動産で金をかき集めることに目をつぶらせた。しかし、安価な宅地を大規模に確保することが次第に難しくなったことで限界に直面した。
加えて住宅市場の規模が大きくなり、「不動産の金融化」も進んでいるので、政府が住宅価格を左右する能力を依然として持っているのかも疑問だ。政策目標を「賃貸料の安定」へと転換し、そこに資源を集中した方が、庶民に対する住居福祉の拡大と住宅価格安定には役に立つのではないか。いずれにしても、複数住宅所有者が住宅を売却するよう誘導できなければ、不動産不敗神話を打ち破ることはできないだろう。
金利が原因であれ需給が背景であれ、住宅価格の上昇は実際には地価の上昇だ。建物は時間の経過とともに古くなって価値が下がる。一方、敷地の価値がそれを補って余りあるほど上昇することで、住宅価格も跳ね上がる。土地は周辺が開発され、インフラが整えられて利用価値が大きくなることで価格が跳ね上がる。とりあえず購入して所有権というのぼりを掲げること以上の努力は必要ない。こうして前の世代が使えそうな土地を「全部かっさらって」いってしまったので、後の世代は「世代搾取」と考える。大転換しなければならない。
金のある人が土地と家を買い、それこそ寝かせておいて暮らせるのは保有税が安いからだ。複数住宅所有者に賃貸事業者の真似をさせておくのではなく、家を売らせるべきだ。長い計画でもって着実に保有税を引き上げねばならない。高価な住宅を複数所有する者にはさらに大幅に引き上げるべきだ。それをせずに非難ばかりしていても、何の役にも立たない。国会が総合不動産税を見直したのは昨年だ。6月から適用される。施行を目の前にして見直そうと主張する人こそ、住宅価格安定の敵だ。
実は、住宅を1軒しか所有していない者にとって、保有税の負担はそれほど大きくはない。私が納めたマンションの昨年の財産税は、7年間乗っている排気量2000ccの乗用車の自動車税とほぼ同じだった。今年は公示価格が上がるだろうが、税率は下がったという。
チョン・ナムグ論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )