本文に移動

[寄稿]韓国も日本も悩む、「コロナ以降」の福祉国家とベーシックインカム

登録:2021-03-09 04:49 修正:2021-03-09 07:51

 日本に住む筆者は昨年6月、日本政府から40万円を受け取った。政府がパンデミック経済危機に対応し、何も聞かずに全ての住民に1人当たり10万円を支給したのだ。普通なら想像しがたいことだが、昨年は多くの国々がこれと似た政策を実施した。先進国政府は昨年、新型コロナウイルス経済危機に対応し、国民総生産の約13%もの財政をつぎ込んだ。このうち、現金支給を含めた家計と雇用の維持のための支援の割合は、約半分に達した。

 もちろん、人々はその金をすべて消費に使ったわけではないだろうが、経済危機で生計が苦しくなった人々にとっては、恵みの雨のようなニュースだったことだろう。ハーバード大学のラージ・チェッティ教授の研究は、米国の低所得労働者の雇用は依然として危機以前に比べて約20%も低いものの、消費は政府の支援のおかげですでに昨年8月以降、コロナ以前の時期と同程度に回復していると報告している。一方で高所得労働者は正反対だった。

 韓国政府も災害支援金と雇用安定支援金を支給し、国民の所得保障に努めた。複数の経済学研究は、昨年5月に支給された全国民災害支援金が追加の消費へとつながり、経済にもある程度は役立ったと報告する。災害支援金の限界消費性向は約0.3~0.7と報告されているが、低所得層で消費刺激効果がより高く、分析期間が長いほど効果が大きかった。

 非常時の危機は非常時の政策を必要とするものだろうが、それで終わりではない。「エコノミスト」は最近の特集記事で、コロナ・パンデミックが福祉国家への転換と拡大を促進していると指摘している。すでに様々な先進国が非正規労働とプラットフォーム労働の拡大などの労働市場の構造変化に直面しており、雇用保険のような既存のセーフティーネットの死角地帯の問題に関する認識も高かった。そして、パンデミックを背景として、経済的ショックと危険に立ち向かうため、彼らの生活を保障する政府の役割が重要となり、これを支持する世論が高まった。歴史的に福祉国家が根を下ろすうえで第2次世界大戦が大きな役割を果たしたように、パンデミックもそのような役割を果たすかも知れない。

 特に、政府による現金支給を背景として注目を集めている政策は、普遍的な基本所得(ベーシックインカム)だ。死角地帯なしにすべての国民に普遍的に無条件、定期的に政府が現金を支給するという計画だ。米国ではアンドリュー・ヤンが民主党の大統領選予備選挙の過程で主張した。韓国では、イ・ジェミョン京畿道知事が国民1人当たり、短期的には年間50万ウォン(約4万7700円)、中期的には100万ウォン(約9万5300円)、長期的には月50万ウォンを支給する基本所得案を示している。この提案は政治家たちの間で論争となり、大統領選挙で争点になるものとみられる。

 イ知事の基本所得案は、貧困層に対する現在の福祉支出に加え、小額の部分基本所得を支給するというものだ。問題はやはり財源だ。イ知事は、年間100万ウォンを支給するためには52兆ウォン(約4兆9600億円)が必要となるが、半分は予算削減で、半分は租税減免の縮小でまかなうという案を示し、より多額にのぼる支給については様々な増税に言及している。他の人々の基本所得提案は、莫大な規模の所得税控除を縮小して財源を調達しようと主張するものだが、これはまさに大規模な所得税の増税を意味する。

 しかし、同一の財源調達が可能なら、災害支援金の場合のように、貧しい高齢者のような脆弱階層を集中的に支援したほうが、再分配や経済的効果が当然より大きくなるだろう。これに対し基本所得の支持者たちは、皆に基本所得を支給すれば税に対する抵抗が弱まり、増税と福祉拡大に対する政治的支持が高まるだろうと強調する。いわゆる再分配の逆説を克服できるというのだ。

 それでも、負担が大きくなる高所得層の抵抗をどのように克服するのか、果たして基本所得でなければ増税は不可能なのかについては、疑問が残る。既存の福祉制度の選別と死角地帯の問題も、リアルタイムの所得把握に基づいた、所得を基盤とする全国民雇用保険を確立するなどの努力を通じて、克服していくことができるだろう。また基本所得論者はロボットの普及で大量失業に直面する未来を懸念するが、技術革新が大量失業を生むという主張も根拠が薄い。

 したがって、現在のところ基本所得を支持する経済学者を見出だすのは容易ではない。しかし、何よりもその論争が「増税の政治」につながるのなら、歓迎すべきことだ。韓国での増税は既存のセーフティーネットの拡大と強化を含め、パンデミック以後のいかなる新たな福祉国家構想のためにも必要なものだからだ。基本所得からはじまる福祉国家論争がさらに熱く、生産的に展開されることを期待する。

//ハンギョレ新聞社

イ・カングク|立命館大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/985904.html韓国語原文入力:2021-03-08 17:28
訳D.K

関連記事