野党「国民の力」のキム・ジョンイン非常対策委員長が提起した「北朝鮮原発建設推進疑惑」が、すべての問題を覆いつくす政争のブラックホールになっている。キム委員長は29日、「月城(ウォルソン)原発経済性操作および公文書不法破棄事件」の控訴状を根拠に、「文在寅(ムン・ジェイン)政権が北朝鮮に極秘裏に原発に建てようとした」とし、「衝撃的な利敵行為」だと非難した。その後、「国民の力」は連日、文在寅大統領に向けた攻撃を繰り広げている。キム委員長は31日、秘密裏に推進した理由を明らかにするよう求め、チュ・ホヨン院内代表は「特別検察と国政調査」を主張した。ナ・ギョンウォン前議員とオ・セフン前ソウル市長も「原発北朝鮮上納事件」だと規定し、政治争点化に乗りだした。
野党が政府の政策を批判・検証するのはいくらでも可能だ。しかし、状況と心証だけで「利敵行為」だと決めつけ、理念対立をあおり立て、政争の手段として悪用するのは、無責任きわまりない。特に、野党第1党の代表であるキム委員長が「こういう途方もない事案は、公務員が自発的に検討したということを誰も納得できない。政権レベルで、(北朝鮮への)返報として北朝鮮への原発を推進したのだ」という形の主張だけを繰り返すのでは、説得力がない。「国民の力」の外交安保特別委員会の声明でも「控訴状に示された文書は『北朝鮮地域原発建設推進案』などで、ファイル名だけをみても政府レベルの具体的な検討をしたのではないかという疑惑を提起するのには十分だ」と書かれているが、これを具体的に裏付けるほどの客観的な証拠は提示できなかった。国益を考える責任ある野党であるならば、南北関係のような敏感な事案では、より一層冷徹に事実関係を先に確認し、適切な根拠をそろえて疑惑を提起するのが当然なことだ。
大統領府と政府も、疑惑の解消に率先しなければならない。偽りの主張を崩すためには、事実関係を明確に明らかにすることが必要だ。野党の攻勢を「北風工作」だと非難するのは、政争を早期に解決するのには効果的になりえない。資料の削除で議論の原因を提供した産業通商資源部がこの日、「文書は6ページの分量で、序文に『内部検討資料であり、政府の公式立場ではない』と明示し、北朝鮮だけでなく韓国内の地域に原発を建設した後に北朝鮮に送電する案に言及するなど、アイデアのレベルの様々な可能性を記述している」と明らかにしたのは幸いだ。より積極的な情報公開により、不必要な政争を一日も早く終わらせなければならない。ただでさえ新型コロナで手に負えないというのに、政界は根拠も不確実な混乱と分裂をあおり立てる言動を控えてほしい。